第14話
―――ローグライズなんでも修理センター。
名前の通りあらゆるものの修理を依頼できるなんでも屋のようなもの。
子供のおもちゃから飛空艇の修理までを請け負えるという看板の真偽はさておき、それは裏の顔を持っている。
マリーの告げたモグスクット。
存在しない―――より正確に表現するのなら誰にとっても未知の言葉が合言葉。
『未知を修理して既知とする』などという謳(うた)い文句を掲げて、彼らは情報屋の派遣も行っているのだ。
シロがセブンスの腕のなかでぐっすり眠ってしまったころ。
少し遠回りをして、住処から離れた人気(ひとけ)のない路地に足を踏み入れるふたり。
その半ばほどにやってきたところでセブンスが頭上を見上げる。
つられてマリーも見上げると、建物の壁にお座りをする一頭の虎がいた。
重力をものともせず白色の毛並みをぺろぺろと舐めていた虎は、くぁとあくびをしてセブンスたちを見下ろした。
「相変わらず鋭いやつだのう」
虎から放たれる少女のような声。
どこか老成してきこえる穏やかな口調とのギャップにいまさら驚きはしない。なにせあれこそがお目当ての情報屋―――ズーなのだから。
「早いわねズー。さっそくで悪いけれど依頼の話に移ってもいいかしら」
「ふぅむ」
感情を覗かせない笑みで見返すマリーを無視し、シロへと向けられる視線。
けれどなにを言うでもなくマリーに視線を戻すと、獣はもふりと頷いた。
「構わんよ。ワシもキサマらだけにそう何度も構ってやれるほど暇ではないからのう」
「上客に向かってずいぶんな物言いじゃない」
「毎度毎度厄介な依頼ばかりしよるくせにチップも弾まんでなにが上客か」
(ずいぶん嫌われちゃったわね)
刺々しい言葉にマリーは肩をすくめる。
マリーが出費をケチるのを根に持っているらしいが、彼女としては正当な交渉で勝ち取ったという認識でいるので悪びれもしない。
がるるるとうなったズーは、マリーでは飽き足らずセブンスも睨みつける。
「おい七の字、キサマも他人事みたいにしておるでないぞ」
「私はそういうのマリーに一任してるから」
「だからその小娘が調子に乗るのだろうて」
「知らない。いいからさっさとマリーと仕事の話をして」
「ワシが悪いんかコレ」
鋭く睨みつけられたズーは悔し気にうなる。
しかしそうしていても仕方がないので、大人しくマリーと商談を始めるらしい。
お座りの体勢で首を軽く傾げ、
「―――それで、こんどはなにを調べて欲しい」
先程までのどこか緩やかな空気が、ひとつ括弧で張り詰める。
マリーは無意識に笑みを深めてセブンスの服をつまみながら、彼女の問いに答えた。
「前回と似たようなものね。絢爛なる魔王関連よ。残党の動きについて調べてもらえるかしら」
「残党のぅ」
ふむぅ、と妙に人間臭い動作で顎の下をさする四足歩行。
ヒスイの瞳が細められ思索に沈む。
「絢爛なる魔王の一派となれば世界中におるわい。時間がかかるが構わんか」
「この街で限定すればどうかしら」
「だとしたら一日といったところかの」
まるで最初から用意していたような即答。
リピーターになりたくなるほど有能なだけはある。
「じゃあひとまずそれでお願いするわ」
「承知した。報酬はいつも通り内容によって決めさせてもらう」
「また明日同じ時間にここで?」
「いや。朝で構わん。ゆっくり一服でもしてからくるがいい」
そう言ってのっそりと立ち上がるズー。
「ではワシは行かせてもらう」
とふとふ壁を登って去って行く獣の背を見送りながら、マリーは疲れたように吐息する。
痺れるような緊張感が弛緩したので、甘えるようにセブンスによりかかった。
「相変わらずせっかちさんだわ」
「獣に社交性を求めるものでもないと思うよ」
「それもそうかも」
くすくすと笑うマリーの頭をなでてやりながらセブンスは視線を下ろした。
もう見えなくはなったがまだ頭上にある気配。
なにか言いたげな雰囲気だけは伝わってくるが無視をした。
(相も変わらず可愛げのないやつだのう)
屋上で嘆息した虎がどろりと姿を変え、黒いカラスが飛んでいく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます