探偵七加瀬の朝は早い
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探偵七加瀬の朝は早い。
朝起きて初めに行うのは、自室のパソコンの電源を入れる事だ。
今の時代、探偵とパソコンは切っても切れない関係にあると言っても過言ではない。
デスクトップに表示された時間を確認すると、時刻は13時30分。
・・・まぁ、そんなもんだろう。
とりあえず自室から出て、寝巻きのままに事務所の一階に降りる。
別に、同居人に怒られるからとかではない。
たまたま、そうしたいと思ったからだ。
探偵は何者にも縛られないのである。
一階に降りると、目出し帽を被って銃を構えた二人がコチラを向いていた。
「Freeze!」
目出し帽の人物が、動くなと牽制してくる。
こんな状態でも、探偵は慌てない。
「おいおい、一体これは、」
探偵七加瀬の言葉を遮り、片方の目出し帽の人物が発砲する。
乾いた大きな音と共に、事務所の壁が少し抉れる。
どうやら、威嚇射撃のようだ。
目出し帽の二人は、次は当てるぞといった様に照準をコチラに定める。
それを見て、探偵は薄く笑う。
後に探偵七加瀬はこう語る。
どんな時でも、探偵は余裕を持つべきだ。
そして、選択肢を間違わない事だ、と。
この時、探偵七加瀬が選んだ正解の選択肢は・・・
「すいませんでした!!!!!!!」
単純明快。
土下座である。
「・・・何で謝っているかの理由を聞いていいですか?」
目出し帽の人物が声をかけてくる。
「はい!今日は、朝からテーマパークに行く予定があったのに、寝ていたからです!」
「朝に起こしに行った私に掛けた言葉、覚えてますか?」
「はい!寝ぼけていたのでしょう、何も覚えてません!」
「ギルティ」
「ひぃぃぃい。許して!」
「ま、待って、有利ちゃん」
引き金を引こうとする目出し帽の人物を、もう片方の目出し帽の人物が止める。
そう。
声を聞いて分かる通り、この目出し帽の二人は我が事務所の職員である、光月有利と斑井幸子だ。
それにしても、目出し帽とは。
いくら有利がコスプレ好きとはいえ、まさか強盗のコスプレまで持っているとは。
「止めないで、幸子ちゃん。コイツは、私が殺す!」
「ち、違うよ有利ちゃん」
良いぞ。
心優しい幸子なら、有利の横暴も止めてくれるに違いない。
「そ、その銃のゴム弾で撃ったら直ぐに気絶しちゃう。だ、だから、殴ってギリギリまで痛めつけよう」
「ひぃ!」
仲間は居なかった。
寝巻きのままに、事務所から逃げ出す。
「コラーー待てーーーー!」
そのまま探偵七加瀬は、当てのない逃避行に出かけるのであった。
「というのが、今朝の出来事だ」
「お前が悪いな。それに今朝やなくて昼の出来事やし」
「そうとも言う」
事務所から逃げた俺は、金も無く腹も減ったので、剣華の働いている坂口組管轄のタコ焼き屋に身を潜めていた。
それにしても。
「はふっはふっ。ウメェ。お前コレが天職だよ」
ただで食うタコ焼きほど、美味えモンはねえんだわ。
「大阪の人は、皆んなタコ焼き焼くの上手いからな」
そう言い、剣華はタコ焼きを焼く作業に戻る。
外と直接繋がった窓のあるテナントが、剣華の働くタコ焼き屋だ。
窓からパッケージしたタコ焼きを売ることもできる他に、店内には少しだけ食べるスペースも設けられている。
俺はそのテナントの、剣華のいる調理スペースに隠れていた。
剣華が焼いたタコ焼きを、他の売り子が客に売っていく。
売り子がいるのは、剣華に接客を任せられないからだろう。
良い判断だ。
ウザい客でも来ようものなら、剣華は手に持っている串で客を刺しかねない。
「お前、今よからぬ事考えてたやろ?」
「い、いや?べ、別に?」
焦って言葉に詰まってしまった。
エスパーかよ。
「まあ、ゆっくりしていきや。話し相手いる方が私も疲れへんからなぁ」
剣華は上機嫌に話す。
どうやら本当に暇なのだろう。
「ああ。お言葉に甘えてそうさせてもらう。にしても、仕事上手くいっているようで何よりだ。紹介した甲斐あるってもんだ」
「せやなぁ。何やかんや、あの事件に参加して良かったわ」
「組に正式に入ったのか?」
「アホゥ。入るわけないやろ。組の経営してるタコ焼き屋で働いてるだけや。組が摘発されても私はセーフ」
「冷たいなぁ」
「もしそうなったら、職失った責任とって事務所に入れてや」
「いや、責任て・・・」
コイツは、何故そんなにうちの事務所に入りたがるのか。
「まだ二階に部屋余っとるやろ?」
・・・成る程ね。
宿代が浮くからか。
「いや、余ってるけどもだなぁ・・・。まぁお前の親父を納得させられたらな」
「・・・あのアホの話すんなよ」
先程まで上機嫌だった剣華の声が、突然凍ったように冷たくなる。
やばい。
久しぶりにコイツの親父の話を出したけど、まだこんなに機嫌が悪くなるとは。
「すまん。デリカシーが無かった」
「はぁ・・・。まあ、ええわ。それにあの親父がウザい事してくるのも事実やからな。でも、もう少しでモノになりそうやから、それまで事務所に住むのはお預けって奴やな」
「何だ?モノになりそうって?もしかして、あの最強のオッサンを倒せる技でも考えたのか?」
「まあ、そんな所や。期待しとき、この世で最強の美少女が誕生する瞬間を」
「美“少女”?」
「アァアアン??!!」
「ヒィ!」
また、地雷を踏んでしまった。
コレに関しては、踏みに行ったのだが。
地雷を踏むタイミングが、とんでも無く悪かった。
「オッ!有利やん!コッチコッチーーー!コッチに七加瀬おるでぇー!」
有利がどうやら勘づいて、この店に来てしまったのだ。
裏口から逃げようとする俺の襟首を、剣華が掴む。
あまりの腕力に、全く動けない。
ナカマガ・・・イナイヨ?
「七加瀬さん!!!」
「オコラナイデ。ボクハワルイナナカセジャナイヨ」
「もう!そんな事はどうでも良いですよ!依頼ですよ!依頼!」
「マジ?って事は許してくれんのぉ?」
「いや、許してはいません」
「ええ!」
「その件は後でコッテリ絞ります。でも依頼ファーストです」
「もう、仕方ないわねぇ。・・・で、その依頼内容は?」
「・・・日本最大の花火大会である、
WPM:能力探偵七加瀬の事件簿 空場いるか @kjirk
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