最終日

女性四人で足並みを揃えてリビングルームに戻ると、既に風呂に入った後であろう男性三人が、リビングに大量の保存食を広げていた。


どうやら風呂をすぐに済まし、夕食の為に食料を調達してくれていた様だ。


本格的にこの部屋から明日まで一歩も動かないつもりだろう。


正しい判断だ。


「おお、帰ったか」


七加瀬が私達が揃って帰ったのを確認すると話しかけてくる。


「何事もなかった様で幸いです」


そして三戸森が安心した表情を見せる。


そんな二人と違い、仮名山は一言も話さずにこちらを一瞥するだけで、特になにも話しかけてこない。


どうやら怒りを通り越して、心を閉ざしてしまった様だ。


「七加瀬くん達も何事も無くて良かったよ。食糧調達してくれたんだ!有難う〜」


そう言い七加瀬に近づく迫間。


風呂場では素に戻っていたのに、七加瀬がいると直ぐにこれだ。


少しはシリアスな感情を見せていれば、仮名山も疑心暗鬼にならなくて済む物を。


「礼は仮名山さんに言うといいぞ。食糧の調達は仮名山さんが提案して、保存食の場所を教えてくれたのも仮名山さんだからな」


「・・・へー、そうなんだ。有難う仮名山氏」


「館の主人として当然だ。それにこれ以上死んで、ここの評判を下げられても困る」


そういえば、美術島は一般の客も招き入れているのだった。


今回の事件がその集客に響くなんて事もあり得る。


そう思うと、途端に仮名山がかわいそうに思えてくる。


「んじゃあ仮名山さんに感謝しながら夕食でも食べようか」


そう言いながら缶詰に手を伸ばす七加瀬。


そんな七加瀬に待ったの声をかける者がいた。


「あの・・・、すいません」


「ん?どうしたルオシーさん」


声をかけたのは、まさかのルオシーだ。


おずおずと手を上げたルオシーは、部屋の隅に置かれたビリヤード台へ視線を向ける。


そうだ、確かに置きっぱなしだった。


ビリヤード台は、私達が島から出た後に警察に調べてもらう為に、ウェスタの血だらけの服までそのままで保存されている。


確かに、あれがあると食欲も起きないだろう。


「ああ、悪い。そういえば現場保存って言ったのは俺だったな。まあでも廊下の外に出すくらいなら、まあ構わないだろう。三戸森さん、手伝ってくれるか?」


「畏まりました」


会話の後に、七加瀬と三戸森がビリヤード台を運ぶ。


手伝おうかと近寄るが、二人ですんなり運べるのを見るに、そんなに重くはない様だ。


よく見ると、四辺がカーテンの様な物で足元まで隠されてはいるがほとんどスカスカで、カーテンを除けば食卓によく置かれている様な四足の机に形はよく似ている。


それを外に持っていく七加瀬と三戸森。


入り口には、昨晩から同じく放置しているティーセットが乗ったワゴンがある。


それも軽く横にどかして、その横に更にビリヤード台を置く。


「有難う御座います。証拠品なのに、無理を言ってしまってすいません」


ルオシーは七加瀬に向けて頭を下げる。


「いいや、俺こそすまない。デリカシーに欠けていた」



七加瀬は軽く頭を掻きながら申し訳なさそうな顔をする。


イェスタと幼馴染であると言うなら、当然ウェスタとも幼馴染な筈だ。


いや、確か使用人一同と言っていたので全員が幼馴染で、仲が良いのだろう。


しかし、そうなると一体誰がルイーゼやウェスタを殺したのだ?


使用人が犯人じゃないとしたら・・・。


いや、駄目だ。


私も疑ってしまう。


明らかに冷静な迫間と神舵を。


今回の依頼人だ。


そんな筈がない。


殺人を犯すなら、私や七加瀬を連れてくる筈がない。


いや、依頼が護衛って事は、もしかして・・・。


「難しい顔して何考えてるんだ?」



「うへぁ!」



深く考え事をしている中、突然目の前に出現した七加瀬の顔にビックリする。


「い、いや・・・その・・・そうだ!私の顔とか血だらけの服を綺麗な物に変えてくれたのって、誰なんだろうなと思ってな!」


私が考えていた内容を、流石にこの場所で口に出す訳にはいかずに私は話を逸らす。


といっても、十中八九ルオシーがやってくれたと思っているのだが。


「ああ、その件か。そういえば気絶していて分からないんだったな」


「ん?な、何かあったのか?」


「血だらけの服は、ルオシーさんが変えてくれた。ただ、肉片は俺が駆けつけた時には残っちゃいなかったよ。何でかというと、ルイーゼの死体は爆発した後・・・消えたんだ」


「は!?」


消えた?どう言う事だ?


いや・・・ひとつだけ心当たりがある。


それはウェスタと同じ様に・・・。


「光って消えたらしい。ウェスタさんと同じく、能力の光でな」


なんて事だ。


また死体が残らなかった。


これでは私達が帰った後に警察が来ても、死体を解剖する事も確認する事もできない。


いや、殺人があったことすら警察からすると疑問が残る形になる。


完全犯罪。


古来より、殺人の後に死体を何とか隠す為に人殺し達は色々考えてきた。


例えば死体を山や森に埋める。


例えば死体をコンクリートと共に海に投げ捨てる。


それでも時たま発見され、犯人探しが始まる。


だが逆に言えば、死体が発見されなければ、失踪扱いで殺人として捜査されない。


そう、殺人の捜査とは死体ありきなのだ。



つまり死体さえ能力でこの世から完全に消し去れば、殺人の罪に問われない。


こんなスマートな解決法が有るとは。


能力はごく一部の人間にしか存在が知られていない。

なので、能力で死体が消えたなどと言っても、警察も信じてはくれないだろう。


下手したら、精神疾患を疑われて虚言と判断されてしまう事になる。


「ど、どうするんだ七加瀬。こ、このままじゃ警察が調べてくれないかもしれないぞ」


「流石にこれだけの目撃者と証人が居れば無視はされないと思う。まあ証拠品さえ抑えとけばこっちのモンだ。指紋取ったり細胞取ったりやりようはいくらでも有るさ。取り敢えずは全員生きて帰る事を考えよう。それより飯だ飯」


そう言って七加瀬は、手に持っていた鯖の缶詰を食べ始める。


確かにDNA検査の技術も進んでいるので、ナイフやビリヤード台の検査をすれば直ぐに犯人は分かるであろう。


証拠の死体がないと犯人にシラを切り通されなければの話ではあるが。




七加瀬に倣い、私も置かれた缶詰を何個か手に取り食べ始める。


私が食べたのは、ビーフシチューの缶詰とカニの缶詰だ。


二つとも高級な缶詰であることがパッケージから分かるが、こんな状況で味は殆どわからなかった。


私が缶詰を食べ終わった後も、目の前で七加瀬はとても美味しそうに缶詰を食べている。


高級缶詰の味が気に入ったのだろう、どんどんと新しい種類の缶詰を食べていく。


こいつはこんな状況でも変わらないな。


そんな七加瀬に、ふと聞いていなかった事を思い出した。


シンプルな事なのだが、重要な事だ。


その内容は、“犯人の目星は付いているのか”という物だ。


犯人がいるかもしれないこの場所で大きな声では聞けないので、七加瀬の耳元で話す為に、あぐらをかいて缶詰を食べている七加瀬に四つん這いで近づく。


近づく私を不思議そうな顔で見つめてくる七加瀬。


そんな七加瀬に軽く手招きして向こうからも近寄らせた後に、七加瀬の耳元まで行き小声で話しかける。


「は、犯人の目星って付いているのか?」


そう聞くと七加瀬は眉間に皺を寄せて、難しそうな顔をする。


そして一分位経ったであろうか、難しい顔を崩さない七加瀬が、同じく私の耳元で小声で話す。


「全然分からん」


マジか。


困った、私も何も思いついていない。


だが、七加瀬の話はそこで終わりではなかった。


「ただ、気になる事はある」


「・・・き、気になる事?」


「んー。でも、犯人とは関係ないと思う」


「そ、そんな言い方したら、余計に気になるだろう」


「いやー、何か気になる事がすげえ多いんだよな。一個二個じゃない位に。でも密室破りとかとは関係がないから、そのトリックが分からん限りは何ともなーって感じだ。幸子こそ、トリック分かったか?」


「い、いや・・・全然分からない」


今のこの状況、私達での事件の真相の解明はお先真っ暗だという事が分かった。


「やっぱり、このまま明日を迎えるしかなさそうだな」


「そ、そうだな」


その後は無言の時間が続く。


こんな状況で雑談できる、イカれた神経を持っている者は流石に居ないという事だろう。


そして停電が起こったりもせずに迎えた夜。


取り敢えず明かりは消さないで、三名が必ず起きている様に3時間ごとに交代で寝る事になった。


迫間は勿論一日中起きているとの事なので、迫間を除いた六人から二人の交代制という事になる。


その二人のチーム分けは、仲の良い者同士では寝ている者が安心できないとの事なので、出来るだけ、美術島チームと来島者チームから一人ずつ出す事になった。


そして出来た班分けは、


七加瀬・三戸森


神舵・ルオシー


私・仮名山


のチームだ。


この班分けは、仮名山が私とチームが良いと言った以外はスムーズに進んだ。


どうやら、今朝に二人で行動した時の印象で、私が犯人では無いと確信しているのだろう。


そうして始まった、ローテーション就寝。


迫間は既にアイヌ語の教本を開いて勉強を始めている。


初めに起きているのは、私と仮名山だ。


仮名山は落ち着かなさそうに体を揺すり、視線をあちこちに飛ばす。

そして時たま手元に置いてあるライトが付くかの確認を行なっている。


関係のないものが見たら、異常者にしか見えない。


勿論この連続殺人鬼が隠れている状況下では仕方ないことでは有るが。


あの様子だと、この後も眠れないのではないかと少し心配になる。


そして、スマホで暇つぶしにオフラインで出来るゲームをしていると、特に会話もないまま三時間が経った。


私と仮名山は、七加瀬と三戸森を起こす。


二人は私達と交代で、ソファで目を覚ました後に暇つぶしの読書を始める。


そして交代で寝る私と仮名山。


昼間に気絶していたせいで直ぐには眠れないだろうと思っていたのだが、ソファで目を閉じると、直ぐに眠気が襲ってくる。


恐らく気を張っていたからであろう。


その眠気に逆らわず、私はそのまま眠りにつくのであった。







「起きてください。朝ですよ」


体を揺すられ私は眠りから覚める。


目を開けると、目の前にはクールな美女こと神舵が居た。


数秒、状況が理解できなくなるが、すぐに昨夜の交代で寝るという案を思い出し、納得する。


昨晩は夢すら見なかった。


寝た時間は体感にして数分。


しかし頭はぼやけてはいるが、体はしっかりと六時間寝たので気怠さはない。


時刻は朝六時。


昨日ローテーションを始めたのが夜の九時なので、この時間に起きるのは当然である。



そして軽く左を向くと、ルオシーが仮名山を起こしている。


ルオシーが体を揺するが、中々起きない。



まさか!


と、私が思った時に普通に仮名山は目を覚ます。


「何だ、どうしたというんだ」


そう言う仮名山は、昨日の出来事を私と同じく寝ぼけて思い出せていないようだ。


そしてその後もあくびをしながら目を擦る。


その眠気の取れていなさを見るに、どうやら予想通り仮名山は昨夜あの後直ぐには眠れなかったようだ。


あれほど情緒不安定だったのだ、当然だろう。


そして五分ほど微睡んだ後に、やっと覚醒したのであろう、目を先程の三倍程大きくしながら辺りを見渡す。


そして、寝た時と光景が変わって居なかった事に安堵の息を漏らす。


それだけ見ると、周りのことを考えている人格者に見えるが、実際の所は誰も死んでいなかった事に対する安堵というより、状況が悪化しなかった事に対する安堵を覚えたのであろう。



あくまで彼は自分ファーストを貫いている、と思う。




そんなしょうもない考察をしていた私も、やっと100%覚醒する。


そして、私は起きたらまずやらなければならないと考えていたことを行動に移す。


それは廊下に出て、窓から外を見る事だ。



そして、そこから見える光景は・・・




「は、晴れてる・・・!!」



どうやら嵐は予報通り、本日の明け方に過ぎ去った様だ。


これで、迎えの船が島に来れる!


帰れるんだ!



昨日までの煙がかった気分から一転、一気に晴れやかな気分になる。


私は直ぐにリビングに戻り、この事をまだ寝ていた七加瀬と三戸森を起こして皆に伝える。


「なら今日の昼に来るっていう迫間の船に乗って、とりあえずは一件落着って所か」


七加瀬は少し安堵の表情を浮かべる。


その言葉に頷く者は多い。


誰しもが大なり小なり、早く終わって欲しい、日常に戻りたいと思っていたであろうから当然だ。



「さて、じゃあ約束通りイェスタさんを探しに行こうか」



そうだ、忘れていた。


七加瀬は、安堵に包まれていた私達が忘れていた事を思い出させてくれた。


忘れていたというと薄情者に聞こえるが、そこは容赦して欲しい。


何故なら、私達は今の状況に安堵しきっていたのだから。


「んじゃあ、全員で探すか。勿論、今回は人命が掛かってるんだ。当然、祿神の森も入らせてもらう」


そう言い、七加瀬は仮名山に視線を送る。


そうすると案の定仮名山は、首を大きく横に振る。


「ダメだ!アソコは入っちゃならん!」


「でも、アソコに入った可能性も勿論あるだろう?それを考えると探さない訳にはいかない」


仮名山は七加瀬のその提案に対して、いつもの苦しげな表情を見せる。


そして考えに考え抜いた末に、答えた。


「じゃあ、私一人だ!あの森は私一人で調べる!この島の持ち主なんだ、文句はないだろう!」


「別に俺は構わないが、仮名山さんはそれで良いのか?」


「構わん!あの森には誰も入れさせん!」


この期に及んで一人で行動。


あまりに危険すぎるが、一度火のついた仮名山を止めれる者は居なかった。


『誰も私の後を付けてくるなよ!』という捨て台詞と共に、仮名山は直ぐに館から飛び出して行ってしまった。


「本当に大丈夫か、仮名山さん・・・」


「心配ですね。では私とルオシー二人で、ある程度祿神の森に近い教会付近を中心にイェスタを探します。探している最中に、もし仮名山様が助けを求めて叫んだならば、当然私達にも聞こえるので」


そう三戸森が話す。


それに乗っかる形で、迫間も話し始めた。


「んー。まあ、流石に固まって動くのは効率悪いよねー。んじゃあ神舵とわたしで島の北西辺りの崖周りでも探してみようか。アソコら辺は危険らしいし早めに見に行かないとね」


三戸森とルオシーが島の中心から少し東の教会付近、迫間と神舵が北西の崖付近。


仮名山が、東から北東に向けて広がる祿神の森。


「そ、そうなると私達は南の桟橋付近を探してみる事になるだろうか?な、なぁ七加瀬」


私がそう言い七加瀬の方を向くと、七加瀬は釈然としない表情を浮かべている。


「な、七加瀬?何かあったのか?」


「ん?あぁ別に、大した事じゃない。気にしないでくれ」


どうしたんだろう?

祿神の森に向かった仮名山が気になるのだろうか?


それとも、もっと他に何か気になる事があるのか?


「まぁ〜そうだな。んじゃあ俺と幸子で桟橋の辺り調べるか」



七加瀬は、先程までの釈然としない表情を軽く残しながらも私の提案に乗る。




そして、仮名山を除く二人組三チームが館を出る。


そして他の皆と分かれて直ぐに、七加瀬と事件について話し出す。


「で、どうするんだ七加瀬。ほ、本当に何も犯人について思いつかないのか?」


「ああ。本当に密室トリックがさっぱりわからん。あんな鍵の形式しているせいだよ、全く困ったもんだ」


「そ、そうだな。だ、だが七加瀬、昨晩も言っていたが気になる事ってのは一体何なんだ?」


「ん?いやー本当にしょうもない事なんだがな」


そう念を押してくる七加瀬。


そんな七加瀬に私は唾を飲み、首を縦に振る。




「島に着いてから迫間が俺に冷たい気がする」



はぁ?


「はぁ?」


つい思った事が声に出てしまった。


「お、お前は小学生か!」


「いや、しょうもない事って言っただろうが!」


「ま、全く、聞いた私が馬鹿だった。こ、今回の事件、犯人を私達で見つける猶予も無くなって来てるんだぞ?し、死体も消滅してるから、完全犯罪なんてこともあり得るんだ、しっかりしてくれ」


つい強い言葉を七加瀬にぶつけてしまう。


でも、こんな状況でそんな小さい悩みを話すからいけないんだ。


大体、船に乗る前に迫間に仕事中はベタベタするなって怒ったのは七加瀬自身ではないか。


「そうだな。警察には知り合いも少ないし、わりかしやばい状況かもな。もう一回、島に来てからの事を振り返るか。小さな事にヒントって隠されてるもんだしな」



七加瀬のその言葉に賛同し、私と七加瀬は島に来てからのお互いの見た事と聞いた事を全て話し合った。



そして、そんな話が終わる頃には昨晩に監視カメラで確認していた桟橋にたどり着いていた。


そしてたどり着いた時、私達は驚いた。


何故驚いたかというと、


「おや?お早いですね。もう出港の時間ですか?」



そこには、本島の港湾まで迫間をリムジンで送って来ていた初老の執事が、桟橋に停まっているクルーザーの横に直立していたからだ。


「澤井。いくら何でも早すぎやしないか?昼に迎えにくるって話じゃなかったのか?」


どうやら、七加瀬とは知り合いの様だ。


七加瀬は、澤井と呼ばれた執事に話しかける。


「ええ、確かにお昼とお嬢様は申されました。しかし何時とは申されませんでしたので、体感時間を踏まえて早めにここに参上した次第です」


「にしても早すぎるだろ・・・まぁいい。澤井、だれかこの海岸に現れなかったか?」


「はて?私が着いたのも三十分程前ですので、それより前となると分かりませんが、この三十分では、何者も見かけてはおりません」


「そうか、有難う。そうだ、澤井」


「はい、どうされましたか、坊ちゃん」


「坊ちゃんは辞めろって前から言ってるだろ。この島は、もしかしたら殺人鬼が彷徨いているかも知れない。お前なら大丈夫かと思うが怪しげな奴がココに来たら注意しろ。あと、船を直ぐにでも出せる準備をしといてくれ。さっき言った事情で、出来るだけ直ぐに島から出たい」


「殺人鬼ですか。畏まりました。身を気遣って頂いて感謝いたします。船も直ぐに出航出来る様に、準備を整えておきます」



「助かる。それじゃ俺らはまた島の方に戻る」


「はい、気を付けて」


そう深く頭を下げる澤井。




私と七加瀬はそんな澤井に背を向けて、桟橋を後にする。


「桟橋には居なかったな。んじゃあ軽くこの周りを探してみるか」


「そ、そうだな、といっても芝が引かれて木が一本も無い代わりに、この辺りは像だらけだから、その影を一個ずつ確認していく事になるだろうが」


そんな途方もない話を七加瀬と話していた、その時。





ドガァァァァァァァン!!!!





館の方で、とてつもなく大きな爆発音がなる。




そんな大きな音に、丘のせいで詳しい全貌が見れない館の方へ二人は顔を向ける。



「わ、わ、な、なんだ!今の!」


「・・・分からんが、行ってみない事には始まらないだろう」


「そ、そうだな!とりあえず急ごう」



嵐が止み、船が無事に到達して安堵しきったこの状況からの急展開。



とても嫌な予感がする。



そんな胸騒ぎを覚えながらも、私と七加瀬は館に向けて走り出すのであった。





その爆発音が、この事件を締めくくるフィナーレの合図とも知らずに。

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