監視カメラに映るのは誰

File∬continue



一面真っ黒な大きなホールに薄暗い照明が灯る。


壁一面には古今東西あらゆる武器が一通り掛けられており、暗に此処にいる者達で殺し合えと指示されているかの様な部屋であった。


その中に閉じ込められた私達。


確か、今の時点で既に900人近くは脱落したという話なので、残ってこのホールに閉じ込められているのは100人程度であろうか?


ただし、此処で100人で殺し合えと言われても、その脱落した900人が幸せとは思わない。


何故なら、その900人は脱落と共に、既に命を落としているからだ。


では、この100人は幸運の持ち主なのか?


それも否だ。


何故なら、この中でたった一人。

一人だけが、このイカれた空間から抜け出せる定員なのだから。


イカれた研究者のイカれた研究。


最強を作るなどという子供の様な思考に巻き込まれた私達は、閉じ込められたここで、持ち前の能力と壁にかけられた武器で、餓死を迎える前に殺し合うしかなかったのだ。



隣を見ると、いつも私を助けてくれていた彼が不敵に笑っていた。


いつも通り、彼がなんとかしてくれるだろう。


そう思って彼に期待の視線を送ると、彼が微笑んで私に話しかけてくる。


「ヒヒヒ、何でお前が生きてるんだ?」


その言葉に、私は困惑する。


貴方が助けてくれたから此処まで生きてこれたのではないか。


そう口に出そうとしても、私の口は動かない。


何故だ。

喉に手を当てても違和感はない。


そしてこんなのは現実ではないと瞬きした直後、周りの人々は皆、血だらけで息絶えていた。




「わぁぁぁあああ!」


私は飛び起きる。


「うぉ!ビックリした!」


「うわぁぁあ!」


横で大きな声を出す男が居たので、二重で叫び声をあげてしまった。


横を見ると血だらけの人物ではなく、驚いた表情の七加瀬がベッドサイドの椅子に座っていた。


周りを見たら、そこは美術島の私と七加瀬が寝ていた部屋であった。


どうやら、全て夢だったらしい。


しかし、昔のトラウマを未だに夢に見るとは。


相変わらず弱い人間だ、私は。


「何だ?怖い夢でも観てたのか?」


「あ、ああ、本当にひどい夢だった。む、昔のトラウマを抉る夢だけじゃなく、ルイーゼが死んで爆発する夢を観てな。き、昨日あんな事が起こったからだろうな」


そうだ、ルイーゼが爆発したのも現実味がないし、夢に違いない。


そんな私の言葉に、七加瀬は難しい顔をする。


「あーーー、んーーー。残念ながらルイーゼが爆発したのは夢じゃなくて本当だ」


「り、リアリー?」


「イエス。現実だ」


「・・・そ、そうか・・・。現実は甘くないな」


私は、先程肉片がついた自分の頬に触れる。


既にその肉片は誰かが拭いてくれて存在しなかったが、そこにこびり付いた感触とこれまで何度も嗅いだ事のある血生臭い匂いは、未だ鮮明に思い出せる。


ルイーゼは昨日まで何事もなく私と話していたのに、何故こうなってしまったのか。


私が何かしてやれたことはなかったのだろうか?


私がもっと早くに仮名山と部屋を回っていれば。


そんな、既に過ぎ去ってしまった事を何度も頭の中でループさせる。


私はいつもこうなる。


血の匂いに塗れているのだ。


もしかしたら、私が周りを不幸にしているのではないだろうか?


そうだ、もしかしたら・・・ルイーゼを殺したのも、私かもしれない。


私の、もう一つの人格がやってしまった事かも・・・


「大丈夫か?」


七加瀬は、深く俯き考え込んでいる私に心配そうに声をかける。


大丈夫ではない。


私が犯人かもしれないのだから。


しかし、七加瀬に心配をかけるわけにはいかない。



「あ、ああ、大丈夫だ。ちょっとルイーゼのことを考えてただけだ」


「そうか。まあ考えちゃうよな。昨日までは普通に生きてたんだし」


「そ、それに、昨日ルイーゼと朝に軽く話したんだ」


「そうなのか。どんな人だった?」


「そ、そうだな・・・頼りになりそうな人だったよ。姉御肌っていうのかな。ちょ、ちょっと変な要素も混ざってたけど」


「変な要素?」


「そ、それは関係ないんだ、忘れてくれ」


慌てて両手をブンブン振る私。


七加瀬は不可解そうな顔をしながらも、特にその事に言及はしてこなかった。


そのかわりに、ふと私に言う事を思い出したかの様な顔をして、話し出す。



「ああ、そういえば。この件に関しては、お前の二重人格が犯人ってことは絶対にないから安心していいぞ」



・・・は?



その言葉は、今の私が最も聞きたかった言葉であった。



「な、何で?」



「幸子、お前今日何時に起きた?」


「た、たしか六時だ」


「なら絶対にあり得ない。俺は今日午前五時半まで起きていたからな。まあ流石に眠くてそこから少しだけ寝ちゃったが」


「な、何でそんな時間まで・・・いや・・・そうか」


そうだ、何の理由もなく七加瀬がそんな時間まで起きているわけがない。


私が何かをやらかさないか、見てくれていたのだ。


それだけではない。

きっと、夜の間も警戒していたのだろう。


寝ている私と、隣の部屋の迫間に危険が迫らないか。


ベッドの周りが汚かったのも、夜通し起きていたからだ。




よくよく考えたら私は何をしているんだ。


依頼で此処にきてるのに、しているのは事件に巻き込まれたモブの動きではないか。


なんで私は普通に夜に寝てるんだ。


結局、しっかりと仕事の事を考えてるのは七加瀬ではないか。


挙げ句の果て、死体が爆発するのを見て気絶するなど・・・


圧倒的に自覚が足りない。


私は私が恥ずかしい。



自分が何をしにきたか、思い出せ。


「まあ、別に夜遅くまで何してたっていうか、たまたま持ってた菓子と飲み物を広げたら収拾がつかなくなってな、それにまあ・・・いい時間潰しもできる環境だったから、つい朝まで起きちゃってたって感じだな」


七加瀬は何か隠し事をしているのか、私と目線を合わさずに話す。


七加瀬、分かってる。

お前は本当にすごい奴だ。

本当に遠い存在だと思うよ。


「だから、たったの三十分じゃどうやってもルイーゼを殺して、爆弾を体内に入れるなんて事も出来るわけないから、幸子は犯人じゃない」


「そ、そうだな、有難う七加瀬。な、七加瀬のお陰でモヤモヤが少し解消したのと、私達の仕事をやっと思い出せた」


「ん?そんな大した事を俺は言ったか?まあ良いけど。・・・にしても、俺たちの仕事を思い出せたって?」


「い、いや、私達の仕事は探偵だ。だ、だからこの事件の犯人を必ず捕まえよう」


そういい、決意と共に七加瀬に真摯な目線を送る。





「いや、俺たちの仕事は迫間の護衛だぞ?殺人の解決は二の次だ」


七加瀬は私の真摯な目線に特に応える事なく、頭を軽く掻きながら答える。


あ、あれ?


そういう感じだと思ったけど、違ったか?


「そりゃあ、殺人犯を見つけて捕まえたらカッコいいけど、迫間に何かあるのが一番ダメだからな。優先順位をつけましょう」


突然、新入社員に教鞭を図る二年目上司みたいな事を言い始めたぞ。



凄いモチベがあって、夜起きてた訳ではないのか?


い、いや。


迫間を守るという為に起きていたというのも、確かに七加瀬の言っていることと合致しているが、にしてももっと・・・なんていうんだろうか、探偵としてこの事件は許せない!とかは無いのだろうか?


「まあ明日には迫間のところの船もくるし、警察もさっき仮名山に衛星電話で呼ぶ様に言ったから、問題ないだろう」


無いんだなぁ。


確かに殺人に関しては依頼を受けていないし、警察に委ねるのが一番良いか。


「さて、リビングで皆んな待ってるし、行きますか」


「わ、わかった」


私と七加瀬は、その後すぐにリビングに向かう。


そしてリビングにたどり着くと、奇しくも昨日の晩と同じ様に皆がソファに着席していた。


部屋に入ってすぐ正面に座る仮名山は、焦った表情で、とても汗をかいている。


空調は効いているので、おそらく冷や汗であろう。


当然だ、あんな事があったのだから。

それに仮名山が冗談だと思っていた、昨日の晩のウェスタの死体についても信憑性が増したのだ、平静ではいられないだろう。


皆の席順が変わらないので、私と七加瀬も昨日と同じソファに座る。


「あ、あれ?」


そしてソファに着席してから気づいた。


使用人が、ルオシーしか居ない。


何故、三戸森とイェスタは居ない?


そんな事を考えていると、直ぐにリビングの入り口が開き、三戸森が帰ってきた。


「ど、どうだったね」


仮名山はひどく慌てた様に三戸森に聞く。


その言葉に、三戸森は悔しそうに首を横に振り話し出す。


「見つかりませんでした、すみません」


その返答に仮名山は更に苦しそうな表情を浮かべ、ソファの肘置きを拳で叩く。


「クソっ!もう色々な事が起こりすぎて何が何だか分からん!」


そうして頭を抱える仮名山。


ルイーゼの事以外にも何か起きたのだろうか?


正面に座る迫間は、笑顔が流石に消えてはいるが、それ以外はいつも通りの表情で何を考えているのかは読めない。


神舵も・・・いつも通りクールだ。何を考えているのだろうか。


それ以降、特に言葉を交わさない皆に痺れを切らしたのか、七加瀬が仮名山に向けて話しかける。


「何かあったのか?イェスタさんの姿が見えないが」


その言葉に、痛いところを突かれたのだろう。

体を少し震わせた後に、仮名山はおずおずと話し出す。


「それが・・・そのだな。飛び出していってしまったんだ」


「飛び出していった?もしかして、館から?外はまだ嵐なのに?」


「しょ、しょうがないだろ!館から出たかは知らんが、ルイーゼの話を此処でした途端にリビングルームから飛び出して行ったんだ!勿論三戸森君に追わせた!館の中では見つからなかった様だがね」


七加瀬の少し攻める様な口調に、仮名山は大きな声を出す。


確かに、話を聞く限り仮名山は悪く無いが・・・それでもイェスタが危険だ。


「それじゃあ皆んなで探しに行かない?昨夜よりかは幾分と嵐の勢いも収まっている様だし、人間が飛ばされるなんてこともないと思うけど」


そう提案するのは迫間だ。


迫間の言う通り、嵐は昨日よりかは収まってはいるが、危険は危険だ。


「いや、迫間嬢を危険な目に合わせるわけには行かないよ。それに、嵐が収まって来ているならそれこそイェスタは大丈夫だ。探しに行くのは嵐の収まった明日の朝にしようではないか」


止まらない冷や汗を拭きながら仮名山が言う。

その言葉は最もだ。

嵐の中で一人のイェスタの安全を考えなければ、ではあるが。


「まあ主人の仮名山氏が言うなら、そうしようかな。明日の朝に探しに行こう。それと仮名山氏、さっき色々な事が起こってって言ってたけど、他にも何かあったのかい?」


「あ、ああ、そうだ。さっき七加瀬君に頼まれた通りに、衛星電話で警察を呼ぼうと思ったんだが・・・衛星電話が壊されていたのだ」


「壊されていた?衛星電話はどこに置いていたんだ?」


電話を頼んだ七加瀬が、不思議そうに仮名山に問いかける。


「そんな誰でも入れる場所に置いていたわけでは無い。私の書斎に置いていたのだ。勿論書斎に鍵はかけて居たとも」


「その鍵は?」


「私しか持っていない」


そう言い、懐から鍵束を取り出す仮名山。


それは、朝に見た鍵束と全く同じものであった。


「他に鍵は無いのか?」


「無い筈だ。扉が壊されている様子もなかった」


「成る程ねぇ。そういえば、ルイーゼくんの死体も、密室だったね。つまり、密室殺人な訳だ。そうなると、犯人は鍵を持っている仮名山氏が怪しいね」


仮名山と七加瀬の会話に、迫間が口を出す。


「なっ!何を言うんだ!迫間嬢!それに、私が殺す理由がない!大体、わざわざ客人が来ている時に殺しをする必要もないだろう!!それで言えば、君達が来てから、」


「私達が殺したって言いたいのかな?その言葉を口にしたら、もう取り返しはつかないけど、かまわないかい?」


仮名山がその核心的な言葉を話そうとする前に、迫間が口を挟む。


迫間は恐ろしい事に、今までで一番の笑顔を見せていた。


その笑顔に飲まれて、仮名山は怯む。

そして言葉を止め、その後に歪んだ笑顔を見せる。


「も、勿論そんな事を言うつもりでは無かったよ、ハハハ」


少し仮名山が可哀想になる。


そんな仮名山に関して、私としては犯人とは思えないというのが正直なところだ。


理由としては、今朝の怯えようやルイーゼが部屋にいない時の慌てた顔を私が見ての判断なのだが、あれはとても演技には見えなかったし、仮名山が演技が得意な様にも思えない。



「取り敢えず、ルイーゼが死んだのを確認した状況を詳しく教えてくれないか?その時俺は居なかったからな」


七加瀬が皆に向けて話し出す。


その言葉に私は手をあげ話す。


「わ、私が説明しよう。け、今朝からの一部始終を全て見てたのは、恐らく私と仮名山さんだけだ」


そして私は、私が部屋から出た瞬間から気絶するまでの、周りの人物の行動を含めた一部始終を皆に話した。


「・・・というのが今朝の出来事だ」


話し終えた私は、周りを見渡す。


特に異議を唱える者もいないので、正確に話せた筈だ。


「まず、ひとつ聞きたい事がある」


そう話を切り出したのは、七加瀬だ。


その目線は仮名山に向いており、傍目から見ても、それは疑いの目線であった。


「仮名山さん、そして三戸森さんも。ルイーゼさんが部屋にいない時、何故取り乱したんだ?それこそ、トイレや洗面所に行っていたり、すでに仕事に向かっていた、なんて事もあると思うんだが」


その言葉に仮名山は、視線を宙に泳がせながら話し出す。


「あ、あれはだな。いつも扉を開けたら使用人が居るのが普通だったから、もしかしたらルイーゼもウェスタみたいに殺されてしまったのでは無いかと思ったからだよ」


仮名山の話す内容は、確かに理由としては十分にありえる話であった。


しかし仮名山の焦った表情には、それは嘘ですと描かれている。


やはり、仮名山に演技はできない様だ。


仮名山は犯人ではない。


だったら一体誰が犯人なんだ。


オカルト展開ならば、私が見た祿神が関係しているかもしれないが、今回の殺害は手口から見ても悪意の篭った殺人だ。


それに神様が犯人でしたなんて、新興宗教ばりの滑稽な推理だ。あり得ない。


そもそも、私の見た祿神の衣装に身を包んだのは誰なのだろうか。


それか本当に私達以外の誰かがこの島に居るのだろうか?

もしかしたら、その人物が犯人なんて事も・・・?



「・・・仮名山様、こんな状況です。あの事くらいは言っても良いのではありませんか?」


仮名山の明らかな嘘に誰も声を掛けられない状況を打ち破ったのは、三戸森だ。


その三戸森の言葉に、仮名山は余計な事を言うなと睨むが、既に三戸森によって投げられた爆弾は不発にはならないと悟り、タップリと間を開けた後に、渋々話し始めた。



「使用人達は・・・その、だな・・・自分の部屋の鍵を持っとらんのだ」


使用人が部屋の鍵を持っていない?


という事は、基本的に部屋は開けっぱなしなのか。


私は、それがどうしたという様な表情を浮かべる。


しかし周りの反応は違った。


「・・・まるで奴隷だな」


そう言うのは七加瀬だ。


その、仮名山を見る目は険しい。


七加瀬だけではない、迫間も神舵も仮名山を非難する視線を送っている。


「え?」


私はキョトンとする。


何故七加瀬達は怒っているのだ?


そんなどういう事か分かっていない私を見かねて、神舵が話しかけてくる。


「斑井さん。朝に使用人達の部屋の鍵は閉まっていたのですよね?」


「あ、ああ。確かにそう記憶している」


「使用人達が鍵を持っていないなら、誰が鍵をかけたのでしょうか」


「そ、それは勿論・・・あ!」


「ええ、仮名山さんでしょう。つまり、使用人達は、仮名山さんが鍵をかけた時点で部屋から出られないのです。窓から出るというのも無理でしょう。あの窓はハメ殺しの窓で、ワザワザ銃弾すら通さない防弾ガラスを使っているのですから」


「か、監禁・・・」


「監禁だと!失礼極まりない!」


私のつい出てしまった言葉に、仮名山もそういう意識があるのだろう、過剰に反応する。


しかしヒートアップする仮名山に、迫間が睨みを効かせると仮名山は直ぐに大人しくなる。


そしてトドメと言わんばかりに迫間が話し出す。


「この館の設計をしたのは、仮名山氏だったよね?って事は、この部屋の構造と鍵の仕組みを考えたのも仮名山氏だし、部屋にトイレと洗面所を作らなかったのも仮名山氏だよね〜。何のためにそんな設計にしたんだろうな〜」


「ぐっ・・・。だ、だがそもそもそういう契約の元で、使用人達は此処にいるんだ!そうだろ、ルオシー!!」


大きな声で怒鳴られたルオシーは、肩を震わせ頭を縦に振る。


それは、納得してそういう待遇を受けている者の態度では無かった。


「まあいい。今は仮名山さんがどういった事をプライベートでやってるかなんて関係ない事だ。それより問題は、殺人の犯人は3つの密室を破り、そして作っている事だ」


ルオシーが可哀想で話を変えたのかは分からないが、七加瀬がガラッと話を変え、指を三つ立てる。


「一つ、ルイーゼさんの部屋。二つ、ルイーゼさんの部屋の隣の空き部屋。これは元は鍵が空いていたから、密室に仕立てあげるだけでいいが、そもそも鍵が無いと部屋の鍵は閉めれない筈だ。そして三つ、仮名山さんの書斎」


三つの密室を破り、そして作る。


犯人はたった一晩でそれだけの事をしたのだ。


鍵無しで、ツマミで中から鍵をかけれるタイプの部屋ならばもっと単純なのだが、中から鍵をかけるのにも鍵が必要となると、もう犯人は仮名山でしかあり得ない気もしてくる。


それか、壁なんてものをすり抜けれる人間が居れば話は別だろうが、あいにくそんな人間は存在しない。


「俺は、もうこの館に安全な場所なんて存在しないと考える。だから提案だ。今日は全員リビングで寝ないか?」


七加瀬が提案したのは犯人探しではなく、これ以上犠牲が出ないための物だ。


さっき言っていた、迫間を守る事に重点を置いているのだろう。


「リビングで、数人で交代しながら眠る。停電の件もある。明かりは別途用意しながらになるだろう。異論がある奴はいるか?」


その七加瀬の言葉に、誰も反論はしない。


そして、もう終わりかと思いきや、七加瀬はもう一つ仮名山に言葉を投げる。


「そういえば、仮名山さん」


「な、なんだ。まだ何かあるのかね」


「桟橋に監視カメラがあったが、館には無いのか?」


その言葉に、仮名山は目を丸くする。


「な、なんで監視カメラがあると?」


「桟橋の突き出た鉄杭に埋め込まれていただろ?大分小型だったが、俺は目が結構よくてな。見えた。でも館に来てからは、カメラを確認できてない。もっと隠れたところにあるのかと思っているんだが、もしあるのならそれを確認したら犯人がわかるんじゃないかと思ってな」


「あの監視カメラは、この島への輸入輸出を全て管理するために使っている。だからあいにくと、この館には監視カメラは一台もセットしてないんだ。・・・そ、そうだ!!あの監視カメラの映像を見たら、私達以外に誰かがこの島に入っていたら分かるでは無いか!」


「あの桟橋以外から入った可能性は無いのか?」


「あのカメラに映る桟橋と周辺の浜辺以外からは、崖が切り立ち過ぎていて、この島には入れんよ。これは私がこの島を買う時に確認した」


「成る程な。そのカメラの映像はどこに?」


「私の書斎だ。・・・そうだ!急がないと衛星電話の様に、カメラの映像も消されかねない!」


そう言い立ち上がる仮名山。


「一人じゃ危険だ。下手に人数を分けるのも下策だし、全員で行こう」


七加瀬も仮名山に続き立ち上がる。


誰も異論はない様で、全員が立ち上がり仮名山を先頭に書斎へ向かう。


書斎は、私達や使用人の部屋とは離れた場所にあった。


その部屋は扉からしても大きく豪華な装飾で、私達の部屋よりも間取りも大きいのだろうと一目でわかった。


その書斎を、仮名山の懐の鍵束の鍵で開ける。


そしてすぐに扉を開けると思いきや、仮名山は中々扉を開けない。


一度犯人に入られた部屋だ、慎重になっているのだろう。

中に犯人が居て、飛び出してきて襲われるなんて事もあり得る。


そんな仮名山を見かねてか、三戸森が仮名山の代わりに扉を開ける。


そして三戸森が軽く部屋の中を、首だけ突っ込み確認する。


その三戸森の首が刃物で落とされる・・・なんてハプニングもなく、三戸森が直ぐに扉を開けて中に入る。


そして三戸森に何事もないのを確認したのちに、仮名山が書斎に入る。


他のメンバーもそれに続く。


書斎は窓ひとつなく、壁一面が本棚になっており、大量の本が収納されていた。


調度品としては、仮名山の作業スペースであろうパソコンの置かれた机と、来客用のソファと机が置かれていた。


「この部屋には衛星電話もあるんだったな」


部屋に入って直ぐに、七加瀬が仮名山に聞く。


「ああ。机の引き出しに入れていたんだが、ご覧の有り様だ」


仮名山が指差すのは、来客用の机だ。


その上には、少し分厚いスマートフォンの様な物が置かれていた。


もっとも、その液晶部分は派手に砕けて、中の機械部分がはみ出てしまっているが。


「これは、確かに使えないな」


七加瀬が衛星電話を軽く手に取り確認したのちに、直ぐに机に戻す。


「それより、監視カメラの映像だ!少し待っていてくれ」


そうして仮名山が書斎に置かれていたパソコンをいじり始める。


しばらくすると、本棚の壁一面を覆うほどの巨大な液晶が天井より降りてくる。


そして、そこに二日前に私たちが上陸した桟橋の映像が浮かぶ。


どうやら映像は残っていた様だ。


映像は何種類かあり、仮名山が言っていた通りに桟橋と浜辺が全て映る様になっていた。


何事も無い映像から早送りして直ぐに、遠くから私達が来た船が映し出される。


そしてそれはどんどんと近づいてきて、私達が着た映像が映る。


カメラには、既に居ないルイーゼとウェスタも映っている。


胸に形容のできない哀愁が浮かび上がるが、今はそれどころじゃ無い。


私は映像に集中する。


迫間の持ってきた像と共に島に入る私達。


島から離れていく、私たちを乗せていたハイテククルーザーと貨物船。


その後も早送りするが、中々映像に変化はない。


そして、とうとう嵐が始まった。


こうなっては誰かが島に上陸するなどは無理だ。


とてもでは無いが、航海できる嵐では無い。


そんな事を思いながらも、映像には誰も口を挟まない。


当然だ。


誰も知り得ないこの島への来島者が居たのならば、この中にいる誰かを犯人と疑わずに済むのだから。


そして何もない時間が流れ、気づけば監視カメラの映像は、今朝の映像になっていた。


夜中に灯る桟橋のライトがまだ付いてはいるが、外は明るくなってきている。


そんな時間。


監視カメラの時間を見ると、午前五時。


嵐で目視しづらい環境の中・・・監視カメラに一人の人物が映る。


その映像に、誰もが困惑する。


ルオシーに至っては、軽い悲鳴をあげていたかもしれない。


何故ならその人物とは、私が祿神の森で見たままの、祿神の衣装に身を包んだ人物だったからだ。


だが、驚くべき所はそれだけでは無い。


その人物は島の外、つまり船で島に来たのではなく・・・島内から桟橋に来たのだから。


そして、その祿神の衣装に身を包んだ人物は、衣装の内側からナイフを取り出す。


それは、ウェスタやルイーゼを貫いたナイフと同じ物であった。


「おいおいおいおい、やめろ!やめてくれ!」


仮名山が、既に過ぎ去った出来事であるのに静止の悲鳴をあげる。


それも当然だ。


祿神の衣装の人物はそのナイフで、仮名山の所有する船を桟橋に括り付けていた縄を、全て切り落としたのだから。


そして仮名山の船に祿神の衣装の人物が乗り、少し時間が経ったのちに、船は桟橋から離れていく。


そして、仮名山の船はドンドンと島から遠ざかっていく。


しかし、これで安全というわけでは無い。


何故ならば祿神の衣装の人物は、船が桟橋を離れる前に、また桟橋に降り立ち、島の中へと戻って来たのだから。


ルイーゼとウェスタを手にかけたナイフを・・・片手に持ちながら。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る