美談∬Creator3

ある日、私の作品を購入したいという客が来た。


どうやら資産家らしく、金に糸目はつけないらしい。


その客に、私の作品を幾つか見せた。


しかし、どれにもあまり良い反応は示さなかった。


何故なら客は、私のアトリエに来てすぐの時点で、購入する作品は決めていたからだそうだ。


それは、たまたま私が描き終わり壁にかけていた作品で、案の定それは有名画家の絵画の模写であった。


その客は、その絵画を褒めた。


しかし、いつもより私は腹が立たなかった。


何故ならば、その作品は模写ではあるが一部分だけ絵のタッチを少し変えたものであり、客はその絵のタッチを褒めたたえたからだ。


客はその絵にとんでもない値段をつけた。


それだけの金があれば、十年近くは芸術活動に専念できる。


私は即決し、その日のうちに絵画を客に売り払った。


しかし、私は本来ならばこの作品を売ってはいけなかったのだ。


何故ならば、今回客が求めていたのは私のオリジナル作品であり、有名絵画の模写ではなかったからだ。


そう、私は・・・有名絵画の模写を、さも私が考え描いたかの様に、売ってしまったのだ。


つまり、芸術家としての“禁忌”に触れてしまった。


金に釣られて。


一部タッチが違うから、客が選んだものだからなどという、自分だけを納得させられる理由をつけて。



案の定、私は吊られた。



その資産家は、私の作品が有名絵画の模写である事を知らずに、周りの金持ちに自慢したらしい。

将来有望な絵描きの絵画を買った。

将来的にはトンデモナイ値になるだろうと。


しかし、周りの金持ちは私の絵画を購入した彼を笑ったらしい。


それはそうだ。

何故なら、それはただの模写なのだから。


彼は怒鳴り込んできた。


金を返せ、話が違うと。


私は、何も言葉を返せなかった。

売却時は色々と言い訳を考えてはいたが、結局私も禁忌を侵した罪悪感から言い訳は出来なかったのだ。


しかし、問題があった。


話が違う、金を返せと言われたのが絵画購入の三年後で、彼が払った金を頼りに芸術以外の仕事を辞めていたその時の私には、彼に返却できる金額など用意できるはずもなかったのだから。




私は多額の借金を負った。




自業自得だ。


そもそも才能がなかったんだ。


芸術なんて始めなければよかった。


美しい物など、小狡い私には作れるはずもなかったんだ。




そして金を返せない私は、その資産家に売り飛ばされた。


どうやら、彼は裏で悪い事をしていたらしい。私が売り飛ばされたそこは、人間を奴隷として販売する裏市だった。


現代社会にまだこんな物が、地獄の様な場所が残っているとは。


私は驚いた。


しかし、人生の目標と生きる糧を失った私には全てがどうでも良い事であった。



此処で売られ、売られた先で朽ち果てるのだろうと思っていた。


人生を悲観していた。


人生を投げ捨てていた。


しかし私は、そんな地獄で・・・真に美しい物を観た。

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