風雲急を告げる

「なんだ?まだ寝てるのかね?」


そう言い部屋の奥に入っていく仮名山。


そして奥に入った仮名山が、あり得ないものを見たかの様な表情で帰ってくる。


「仮名山様、どうかされましたか?」


その余りに不可解そうな顔に、三戸森が声をかける。


すると、恐る恐る仮名山は声を出す。


「いない」


「えっ?」


「居ないんだ!ルイーゼが部屋に居ない!!」


「なっ!?本当ですか!?」


そう言うと三戸森も部屋に入って行き、中を漁る様な音が聞こえてくる。


しかし、この二人は何を焦って居るのだろうか?


普通にルイーゼが仕事をサボっただけなのではないか?

それか、もう仕事に向かって居る、という線もある。


確かに昨日の今日の出来事なので、心配なのは分かるが・・・。



そしてひとしきり部屋を物色したであろう三戸森が戻ってきて、切羽詰まった様な声で仮名山に話しかける。


「仮名山様。確かにルイーゼは、昨夜は部屋に居ましたか?」



「当たり前だ!ちゃんと確認した!いつも通りにやった筈だ!」



そう二人で話す仮名山と三戸森。


いつも通りやったとは何だろう?


そう私が頭を捻っていると、三戸森が私に話しかけてくる。


「斑井様。今すぐ七加瀬様と迫間様、そして神舵様の安否の確認を行なってください」


「えっ?ひ、必要なのか?」


「はい。申し訳ありません。確認の途中一人になってしまうのですが、よろしくお願いします」



「わ、分かった」


直ぐに帰れるし問題ないだろう。


私は来た道をそのまま戻り、七加瀬が寝ている部屋の前に戻る。


・・・部屋の外からでもわかる。


七加瀬は無事だ。


何故なら・・・。



「おーーーーーーい!開けてくれーーーーーー!と、トイレに行かせてくれーーーー!!!!!!」


色々と限界な声を上げているからだ。


私は急いでドアの鍵を開ける。


鍵を開けるや否や、私にかまいもせずに、七加瀬は部屋から飛び出していきトイレへ向かう。


少し悪いことをしてしまったかもしれない。


しかし、鍵を開けっぱなしは寝ている七加瀬が危険だったので、許して欲しい。


そして、次に私は隣の部屋をノックする。


すると直ぐに扉が開き、神舵がでてくる。



「はい。・・・斑井さんですか。どうかしましたか?」


「あ、ああ、仮名山と三戸森に安否確認を頼まれてな」


「昨日の出来事で心配になっているのでしょうね。特に私達は何も問題なく朝を迎えましたよ」


「そ、そうか、それは何よりだ。し、しかし、今朝も部屋にルイーゼが居ないとやらで仮名山と三戸森が騒いでいてな」


「ルイーゼさんが?トイレにでも行っているのでは?」


「私もそう思っているのだが、二人の様子が尋常じゃないんだ。なにやら切羽詰まった様子で」


「・・・それは気になりますね。私達も一応向かいましょうか。迫間様、宜しいですか?」


恐らく中に居た迫間も話を聞いていたのであろう、遠くから小さく、分かったという声が聞こえてくる。


そして直ぐに二人は部屋から出てきて、部屋の鍵を閉める。


そして私の案内の下、ルイーゼの部屋の前に向かう。


そして部屋の目前まで辿り着いたのだが、仮名山と三戸森は未だに何かを話し合っている様だ。


相変わらずその表情に余裕はない。


「ふ、二人とも。み、皆んなの安否確認をしたが、特に問題はなかったぞ」


私が二人に声をかける。


「そうか!それは良かった・・・あれ?七加瀬君の姿が見えないが?」


「あ、ああ、アイツならトイレに走っていったよ。へ、部屋に閉じ込めてしまっていたからな」


「そ、そうか。しかし、無事なら何よりだ」


そう、胸を撫で下ろす仮名山。


よくよく考えたら、WPM社の総取締役及びその関係者に何かあっては、仮名山は人生が終わる可能性があるので、その心配は当然だ。


成る程、だから仮名山は慌てていたのか。


「仮名山氏、ルイーゼくんが居なくなったと聞いたけど、大丈夫なのかい?」


迫間が仮名山に不思議そうな顔をしながら聞くと、仮名山が少し苦しそうな表情をしながら話しだす。


「だ、大丈夫だ。きっともう仕事にでも行っているんだろう」


その表情で言っても説得力がない。


それに、先程のルイーゼが部屋にいなかった時の慌てようは何だったのだ。


そんな会話を行なっていると、三戸森がふと何か思い付いたかの様に、ルイーゼの部屋のルオシーではない方の隣の部屋、つまり227号室の部屋のノブを回す。


すると、その部屋も鍵が掛かっていたのであろう。

ドアノブを回し、引いてもあかない。


三戸森はハッとした表情になり、仮名山の方に振り向き話しかける。


「仮名山様。227号室は、昨日施錠しましたか?」


「ん?施錠していないが・・・まさか!?」


そう言うと仮名山は227号室のドアノブを捻り、開かない事を確認する。


「開かない・・・」


仮名山は訝しげな表情を浮かべた後に、手に持っている鍵束を確認する。


「227号室の鍵は此処にあるのに・・・」


「とにかく、開けてみましょう。心配なので私が入ります」


そう三戸森が言い、仮名山から鍵を受け取る。


「開けますよ・・・」


緊張した面持ちで三戸森は扉を開く。


入り口から見た所、特に異変は無さそうだ。


三戸森は警戒しながら、恐る恐る部屋に入っていく。


怯えているのか中々部屋の中に入らない仮名山に変わり、次に私が部屋に入る。


間取りは私達の部屋と同じだ。


壁面に大きなクローゼットが備え付けられた廊下の様な部分を進むと、肝心のベッドが二つ並んだ部屋が見えてくる筈。


そして三戸森がその廊下の部分を抜けると、大きな声を上げる。


「こ、これは!」



そして、こちらからは見えない場所に駆け寄る。


何があったのだろうか?


その声を聞いて、仮名山も部屋に入ってくる。


私と仮名山は同時に廊下を抜け、部屋に入ると、そこには・・・



昨夜と同じ装飾のナイフにて、ベッドに磔にされた血だらけのルイーゼの姿があった。


次こそは見間違わない、これは確実に・・・死体だ。


そして死体に近い三戸森が、腰を抜かし後ろに倒れ込んだ次の瞬間、






大きな音をたてて、死体が炸裂した。






状況が飲み込めない。


しかし、それでも、あたりに広がる血の匂いと、合わせて香る火薬の匂い。


そして・・・私の顔にこびりつく、ルイーゼの肉片は、紛れもない、本物だ。



「おぇえええぇぇぇえエエエェ」



吐いた、吐いた、吐いた吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐吐





そこで、私の意識は途切れた。

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