淡い希望
私の困惑を他所に、再び館に光が戻る。
ビリヤード台の上の服とナイフを除けば、そこには館が暗闇に包まれる前と同じ風景が広がっていた。
しかし、その風景にはもちろんウェスタの姿は無い。
「何だね、さっきから!叫び声を挙げたり、こちらの方向に向かって光を照らしたり!」
そういい、怒った声を上げるのは仮名山だ。
まだ、状況を把握できていない様だ。
「仮名山氏。後ろを見たら全てがわかるよ」
そう、いつもの偽りの笑顔が消えた迫間が話す。
ただごとではないと感じ取った仮名山が、後ろを確認する。
「な、何だねこれは!だ、誰がこんな事をやったんだ!ウェスタは何処だ!」
そう言い立ちあがる仮名山。
「う、ウェスタ・・・?えっ?何・・・これ・・・?」
迫間の話を聞き、そちらを向いたイェスタが、ビリヤード台を眺め、顔面蒼白になりながら呟く。
彼女は使用人の列の中で、最も入り口に近い位置にいた。
なので、使用人達が並ぶ部屋の壁面の最も奥に置かれたビリヤード台のウェスタの死体は、一瞬の点灯時には他の使用人が邪魔で見れていなかったのであろう。
だからこそ、彼女も仮名山と同様に状況の整理がついていない様だ。
そして仮名山とイェスタの二人が、血だらけのウェスタの服に近づく。
しかし、その動作を声で制限する者がいた。
「動くな!」
大きな声を上げたのは七加瀬だ。
「なっ!動くなとは、何事だね!」
再び憤慨する仮名山。
「仮名山さん。悪いが従ってくれ。あんたは後ろでの出来事だから、直接目で見れなかっただろうが・・・その血だらけのビリヤード台で、確かにウェスタさんが死んでいたんだ」
神妙な声で仮名山を諭す七加瀬。
「し、死んでいた!?そんな馬鹿な!!」
仮名山はやっと状況を把握したのか、あからさまに狼狽し出す。
「そ、そうだよ!!嘘だ!ウェスタが死ぬなんて有り得ない!!」
イェスタも状況が分かった事により、更なるパニックに陥る。
「私も確認したよ。神舵も見たよね」
変わらず笑顔が消えた迫間は、神舵に同意を求める。
「はい。ビリヤード台の上で血だらけになり、ナイフに貫かれたウェスタさんを確認しました」
迫間は神舵の返答に軽く頷いた後に、神妙な表情で仮名山に語りかけた。
「仮名山氏、イェスタさん。取り敢えず従おうよ。探偵である、七加瀬くんに」
「む、むぅ。いまいち納得出来ないが、まあ良いだろう。イェスタ、お前も取り敢えず従え」
「ウェスタは死んでなんかいない!」
仮名山の言葉に、怒鳴る標的を変えたイェスタが噛み付く。
「・・・誰に物を言っているんだ?」
そんなイェスタに、高圧的に仮名山は問いかける。
そうすると、先程までの怒声はどこへやら、シュンとして下を向いたまま動かなくなるイェスタ。
やはり、イェスタは仮名山を恐れている様だ。
しかし恐れているからとはいえ、その返答に納得はしていないであろう事が、彼女の表情から読み取れた。
そして、辺りは静まり返る。
取り敢えずは七加瀬に任せるといった方向で話はまとまった様だ。
にしても、何だ?
私は頭がこんがらがって、どうにかなりそうだ。
場を乱したイェスタの動揺は普通だ。
身内が死んだかもしれないのだ。そうなって然るべきだ。
しかし、仮名山は冷静すぎやしないか?
自分の使用人なのだぞ?
もっと、違う言葉が出てくる筈だ。
例えば、誰がやったんだ、とか・・・?
そんな沈黙を、探偵であり進行役を任された七加瀬が破る。
「とりあえずは、皆んなに聞くぞ。使用人含め、暗闇の中で動いた奴はこの中に居るか?」
七加瀬の質問に、辺りは静まり返る。
当然だ。動いた人物が居たならば、それはもう犯人ですと言っている様なものなのだから。
「・・・誰も動いてないんだな?じゃあ、取り敢えず状況を整理しよう。停電が起きて、暗闇の中、ウェスタさんが帰ってきた。そして、ウェスタさんは壁に添いながら、使用人の列に向かう途中で、何者かに襲われて、軽い悲鳴と共にビリヤード台にナイフで縫い付けられた。そして、また一瞬の点灯の後に再度停電、そして再度点灯し、今に続くという訳だ」
周りを見て、一旦間を置く七加瀬。
「まず、停電だ。俺の記憶では大きな雷の後、停電が起きた。そこは間違いないな?」
「私もそう記憶しているよ」
確かに、大きな雷の後に停電が起きた。
しかし・・・
「でも、雷の後に少し時間があった気がするね。発電機に直撃じゃなかったのかな?」
そうだ。確かに雷の後、時間が少したってから停電したのだ。
私もそう記憶している。時計の時刻を確認するくらいの時間はあった筈だ。
迫間の声に、七加瀬は軽く頷く。
「そこは俺も気になっていたんだ。確かに迫間の言った通り、雷での停電だったかもしれない。しかし、タイムラグも気になる。つまり、意図して起きた停電である可能性もある」
そんな犯人探しをする七加瀬の言葉に対して、仮名山が声を上げる。
「なら、決まりではないか!!停電を起こしたのはウェスタだ!ここに居ないのだ!そうに決まっているだろう!私に秘密でサプライズでもしているつもりかもしれんが、面白くないぞ!即刻辞めろ!」
サプライズ。
私もそうであってほしいと思う。
しかしそんな仮名山の声に、サプライズでしたと名乗りを上げる者は居ない。
「しかし、仮名山さんも入り口から聞こえてくるウェスタさんの声は聞いただろう?」
「確かに聞いた。しかし、それは、・・・そのだな・・・」
確かに入り口からは確実にウェスタの声がした。
その証拠に、未だに開けっぱなしになっている扉の廊下側には、彼女が用意したであろう人数分のティーセットが、ワゴンに乗せられたまま放置されていた。
「つまり、この館のブレーカーを弄れる人間なんて、あの場には居なかったんだ。何らかのトリックを使わない限りは」
そう言う七加瀬。
七加瀬は話しながらも何かを考えている様だ。
いや、これは話しているのではなく、おそらく独り言の延長の様な物であろう。
いつもの七加瀬の癖だ。
「何らかのトリック・・・?」
仮名山も首を捻る。
そんな時に、迫間が手を上げて話し出す。
「もう一人、居るんじゃないかな?ブレーカーを弄ることができる人物」
そんな言葉に、皆が迫間へ視線を向ける。
「誰だねそれは?」
仮名山は、そんな人物は思いつきもしないと言ったふうに迫間に尋ねる。
その仮名山の言葉に、迫間はたっぷりと間を置いて、答えた。
「さっき、七加瀬くんと斑井ちゃんが言っていた、祿神の面と衣装を着た人物さ」
「あり得ない!!」
迫間の言葉に仮名山は不機嫌な感情を隠さずに、大きな声を上げる。
「ただの見間違いを、そうやって捻じ曲げてこじつけるのはやめてくれたまえ!停電もただの雷によるもので、言っていた死体もただのウェスタの冗談だ!探偵ごっこも勝手にやっていろ!私はもう寝る!」
そう言って、ソファから立ち上がる。
そして部屋から出て行くかと思いきや、使用人達を指差し、声を掛ける。
「お前達も片付けをしたら直ぐに部屋に戻れ!30分以内だぞ!」
そう言い、肩を怒らせながら部屋の出口に向かう仮名山。
30分とはシビアな。
仮名山は相当機嫌が悪い様だ。
先の迫間の発言もあるだろうが、お楽しみの時間を潰されたというのもあるのかもしれない。
にしても何故、祿神の面と仮面に過剰に反応するのだろうか?
自分の島の事であろうに。
それとも、島に私達以外の人物がいる事で何か嫌なことがあるのだろうか?
そして部屋から出ようとする仮名山に、中国人の使用人であるルオシーがおずおずと声をかける。
「ご主人様・・・今日は私の当番なのですが・・・」
そんな控えめの声を上げるルオシーに、仮名山が振り向き怒声を上げる。
「そんな気分じゃない!!お前も直ぐに部屋に戻れ!」
その言葉を最後に、仮名山は部屋から出て行ってしまった。
場は静まり返るが、使用人達は仮名山の言葉の通りに寝る前の仕事をしようと動き始める。
「ごめんね七加瀬くん。なんか推理とかじゃなくなっちゃったね」
そう、迫間が申し訳なさそうな顔をしながら話す。
「気にするな。どっちみち仮名山のあの様子じゃ話にならなかったさ」
七加瀬はやれやれと言った様に手を頭の横に上げる。
そんな七加瀬に、ルオシーが近づき恐る恐る声をかける。
「あ、あの。すいません。“あれ”、どう致しましょう?」
そう言いルオシーが指差すのは、入り口にあるワゴンに乗ったティーセットであった。
「ああ。あれは嵐が止んでからウェスタさんを探しても見つからなかったら警察を呼ぶから、一応残しておいてくれ。証拠になりそうだし」
少しでもルオシーの不安を紛らわせるためだろう、笑顔で応える七加瀬。
ルオシーもイェスタ程ではないが、とても不安そうにソワソワしている。
それも当然だ。
何故なら彼女は、使用人の列の中で一番ビリヤード台に近かったのだから。
もちろんウェスタの死体も確認できている事だろう。
そんなルオシーに、七加瀬はふと思い出したかの様に話しかける。
「あっ、そうだ。ルオシーさん。暗闇の中で誰かが前を通った感覚とかって、あった?」
その言葉にルオシーは深く何かを考えるかの様な姿勢をとり、少し時間の経った後に答える。
「あった様な気がします。すいません、暗闇の中でちょっとした恐怖心から、あまり何も考えない様にしていたので。記憶が曖昧なんです」
「そうか、有難う。これでまた事件が一歩解決へ近づいた」
七加瀬が、ルオシーを安心させるためだろうか?
そんな事件解決などというリップサービスを話すと、ルオシーは少し困惑した様な表情をする。
「ルオシーさん?どうかしたか?」
「い、いえ・・・。あの、質問なのですが。たった今の一言で、閃きが生まれるものなのですか?」
そう怪訝な表情を見せて質問するルオシー。
確かに、そう思ってしまう。
私ですら、七加瀬のリップサービスだと思っているのだから。
しかし、私とルオシーの考えを否定する様に七加瀬は笑顔を見せる。
「ああ、勿論。今の一言で、大分と助かった。有難う」
マジかよ。
どうやら、本当に何か閃いた様だ。
一体何に気が付いたんだろうか?
そう考えている私の視界に、ビリヤード台の前に呆然と立ち尽くしているイェスタが映る。
私は少し心配になり、ソファから立ち上がり柄にもなくイェスタの元へと行き、励ましの声をかける。
「イ、イェスタさん。き、きっと大丈夫だ!仮名山さんも言っていたが、死体が見つかってないんだ。きっと明日にでもヒョッコリ姿を見せてくれる筈だ!」
そんな私の言葉に、イェスタの肩が怯えたように少し跳ねるが、直ぐにこちらを向き返答する。
「そ、そうだよね!きっと今頃どっかで狼狽えている私達を見て、ほくそ笑んでるんだよ!そうだよね!」
そう、イェスタは明らかな無理をしている表情で笑う。
「さーて。私も仕事するぞぉ。ウェスタが帰って来た時に、サボってるなんて言われたくないからね!」
そう言い仕事に戻る為に、部屋から出て行くイェスタ。
本当に大丈夫だろうか?
こんなでも、私にできる限界の励ましをしたつもりだ。
少しは助けになると良いが・・・。
話し終わりイェスタが部屋から出て行った後に周りを見渡すと、私と七加瀬、そして迫間と神舵しか部屋に残っていなかった。
使用人達は仮名山が言っていた制限時間とやらを守る為に、急いで部屋から出て行った様だ。
そんな中、ソファから全く動かずにいた迫間が声を上げた。
「さて、とんでもないことになっちゃったね」
そんな言葉に、いの一番に神舵が返答する。
「迫間様。今日は、私と一緒の部屋で寝てもらいます」
「そうだよねー。流石にそうなっちゃうか」
そして、神舵は更に言葉を重ねる。
「事が事ですので、七加瀬と斑井さんも同室で寝たらどうですか?」
神舵はそう言いながら、これまでに見た事ない少し悪そうな顔を見せる。
そんな顔も出来るんだな・・・って、え!!私と七加瀬が同室ですって!!!
「ああ、一応そうするか。それと一応俺達四人は、昨日の幸子達の部屋と神舵の部屋を使うことにしよう。隣室の方がいざという時に助け合えるだろう」
そう冷静に答える七加瀬。
まあ、特に反応する事でもないか。緊急事態だからな。
特に面白い反応ではなかった為に、神舵はすぐにいつものクールな表情に戻る。
「幸子ちゃん」
そして案の定、そんな私に声をかける人物がいた。
勿論迫間である。
「分かってるよね?」
表面上の笑顔の裏に、般若が見えた。
「わ、分かってるさ。も、勿論!」
「ふふふ、なら良いんだけど。それじゃあ、私達も部屋に戻ろうかな。安全の為に、幸子ちゃんは私達と一緒にお風呂に入った方が良いだろうし、私達の部屋に後で来てね」
そう言ったのを最後に、迫間と神舵は部屋から出て行ってしまう。
「み、みんな行ってしまったな・・・。ど、どうする?部屋を調べてみるか?」
そう言う私に七加瀬も頷き、ソファから立ち上がる。
私は振り向いて直ぐ目の前にあるビリヤード台に近づき、血だらけのウェスタの服を見る。
ナイフで貫かれたそれは、赤みがかったメイド服であり、間違いなくウェスタの着用していたものだ。
しかし本当にそれだけで、周りを見渡しても特に変わったものは見られなかった。
「な、何も変わった所は無いな、七加瀬」
そう言い周りを見渡すが、七加瀬が居ない。
な、何故居ない?!
も、もしや七加瀬もウェスタみたいに・・・!!
「な、七加瀬!!」
そう、私は少し震えた声で叫ぶ。
「ん、どうした?」
しかし、直ぐに返答は帰ってきた。
入り口から、首だけを出してこちらを見ている。
「な、何だ・・・心配させないでくれ・・・」
胸を撫で下ろす私。
「んー?心配してくれたのか?」
そうニヤニヤする七加瀬。
こ、コイツ・・・!
「べ、別に七加瀬を心配してない!わ、私一人になったら、私が危ないから声を上げただけだ!」
二度と七加瀬の心配などしてやるものか。
そう言いそっぽを向く私。
「悪い悪い。機嫌を直してくれ。でも幸子は一人にしても大丈夫だろ」
まだ半笑いで反省していないであろう七加瀬は、入り口から話しかけてくる。
全くこいつは。
にしても・・・
「何で私一人にしても大丈夫なんだ?」
その私の疑問に、七加瀬はすぐに言葉を返す。
「だって幸子、強いだろ」
「つ、強い?」
そんな事、私は初めて言われた。
「いや、聞き返すなよ・・・。幸子は充分強いだろ。軍での成績も凄いだろが」
「な、何で七加瀬が私の軍の成績を知ってるんだ?」
私の言葉に、七加瀬はしまったという表情を浮かべる
「あーっ・・・。まぁいっか。実はうちの事務所に来るって決まった時に斎藤に見せてもらったんだ。男子入れてもダントツで一位だったじゃないか」
「そ、そんなのたまたまだ。そ、それに、周りは軍のたったの一年目、下士官にも成れてない者達ばかりだ。もっと上なら、私なんて通用しないさ・・・」
「にしても、射撃訓練百発百中、近接格闘無敗なんて、普通は出せないと思うけどな」
「そ、それは・・・」
仕方ないのだ。
何故なら私は軍に行く前は、あんな“地獄”に居たのだから。
アソコでは、私は最下位だったのだ。
軍でも数年したら、きっと私は周りに追い抜かされていただろう。
「・・・幸子に必要なのは、自己肯定と多少の自惚れかも知れないな」
「じ、自己肯定と自惚れか。む、難しいな」
自己肯定と自惚れ、そんなの無理だ。何故なら、私が一番私のことを信じていないのだから。
「そ、そんなことより、入り口で何をしてたんだ?」
「ああ。このティーセットを調べてたんだ」
「?な、何か気になることでも?」
「いやな?ちょっとこっち来て、このティーセットのポット触ってみ」
七加瀬がそう言うので、私も入り口まで行き、ティーポットを触る。
「・・・冷たい?」
私はこの言葉が的外れでないかどうか、少し心配になりながら呟く。
そんな呟きに、七加瀬が大きく首を縦に振る。
「ああ、そうだ。いくらなんでも、冷たくなるのが早くないか?」
確かに。
時計を見たら19:30分前。
停電してから、まだ30分も経っていない。
にしては、冷たすぎる気もする。
それとも、冷房がかかってるからそれのせいだろうか?
「だろ?って事はもしかしたらティーセットを用意したのは、停電のもっと前かもしれない。それに、イェスタとウェスタは双子だ。・・・気になるだろ?」
「た、確かに!って事は・・・死体は実はイェスタの芝居?」
ミステリならば双子を使ったトリックなどいくらでもある。
それに本当にイェスタの芝居ならば、誰も死んでない事になり、本当にただのサプライズの可能性も出てくる。
なんなら仮名山もグルで、私達を裏で笑っているかもしれない。
「そう思いたいんだが、問題点が何個もある」
「問題点?」
「まず声」
「あっ」
確かにそうだ。
二人は声で判別出来るのだった。
そして、入り口から聞こえてきたのは間違いなくウェスタの声だ。
「それだけじゃない。肝心の1回目の停電から復帰した時。俺の見間違いでなければ、間違いなく列の一番右側にはイェスタがいた」
「し、死体が一瞬見えた時か。・・・た、確かに、イェスタは居た気がする」
うろ覚えであるが、私もそのように記憶している。
つまり、あの瞬間。イェスタとウェスタの二人は確実にこの空間にいたのだ。
「わ、分からない事だらけだ・・・」
「そうだな・・・。まあ、明日に回すか。とりあえず、幸子は迫間達の部屋に行って、早めに風呂にでも行ったらどうだ?」
「そ、そうだな・・・って七加瀬はどうするんだ?一人ではいるのか?」
「んー。まあ一人でも行けるだろ。それとも、一緒に入ってくれるのか?」
そう、ニヤニヤしながら七加瀬は聞いてくる。
「ひ、一人で入れ!!!!」
コイツは・・・本当に状況が読めているのか?
全く・・・。
私たちはそんな会話の後に部屋に戻った。
私は言われた通りに、直ぐに迫間達と風呂に入る。
遅れて風呂に向かった七加瀬も、襲われたりなんてすることもなかった。
あんな事があったが、本当に何もなく、この晩は終わりを告げた。
私も出来るだけ今日の出来事を思い出さない様に、早めに眠りについた。
明日にはウェスタが帰ってくると、全て元通りになると信じて。
しかし、そんな私達を嘲笑うかのように、嵐は止む事無く部屋の窓を叩き続けるのであった。
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