いつだって、始まりは唐突に
ダイニングに向かう途中の廊下で私と七加瀬はイェスタとウェスタと出くわす。
「やあやあ!幸子ちゃん!そして七加瀬様」
「こんばんわ、斑井さん。そして七加瀬様」
二人は何かしらの紙束を持っていた。
ダイニングに向かっていたので、何かしら食事の際に使う物なのであろう。
にしても、なんで七加瀬には様付けで、私にはフランクな態度なのだ?
私にはそんなに威厳がないだろうか?
その二人が、七加瀬に駆け寄る。
「七加瀬様。ウカウカしてると、幸子ちゃん取られちゃうよ!」
「この島だけでも斑井さんはモテモテです。大事な処女を散らす日も近いでしょう」
「ちょ!!おま!!」
処女じゃないと言っておろうに。
まあ処女なのだけど!!
「ふーーーん、成る程ねぇ」
二人の話を聞き、これまでにない程に意地悪な顔をする七加瀬。
だから嫌だったんだ!
よりにもよって、コイツにイジられる素となる情報を提供するのは!
「七加瀬様。凄い意地悪な顔してるねぇ!」
そう言い、七加瀬と同じくらい意地悪な顔をするイェスタ。
「ああ、耳よりな情報有難う」
この二人は混ぜてはいけない。
出来るだけ、この組み合わせと同席するのは避けようと心に誓う私であった。
しかし、そんなイェスタと七加瀬を、まさかのウェスタが嗜める。
「処女で人を蔑めるのはどうかと思います。まだ、運命の相手が見つかっていないだけですので。それに斑井さんも相手が見つけられない程に、見た目は悪くない筈です。きっと、その運命の相手を探しているのでしょう。そういう私も処女ですし」
そういうウェスタ。
いや、私は普通に運命とかではなく単純に今まで私に靡く相手があまり居ないだけなのだが・・・?
ウェスタはきっと美しいので、実際に運命の相手を探しているのだろう。
しかし、この島の人間も私ではなく、普通はウェスタとかに言い寄るのが普通であろうに。何故、仮名山もルイーゼも三戸森も私なのだろうか?
「ウェスタは相変わらず、口は悪いけどロマンチストだね!」
「運命の相手が見つかると良いな」
そう言い微笑むイェスタと七加瀬。
・・・何とか話のキリが良くなったようだ。
これ以上、こんな悪ガキ二人と毒舌メルヘンのトンデモ空間に居られない。
「さ、さぁ!は、早くダイニングに行こう!」
そう言い一目散に昨日のダイニングルームに私は駆けていく。
ダイニングルームの扉を開けると、私達以外は既に揃っていた。
使用人達の列に後ろから着いてきていたイェスタとウェスタが駆け寄り、使用人達は私と七加瀬が着席するのを確認すると、先程イェスタとウェスタが持っていたものであろう、紙を配る。
どうやらその紙は本日のメニューの様で、メニューを見るに、今日は中華の様だ。
私でも分かる内容の料理が数種類並んでいるので、今回の中華は楽しめるであろう。
それにしても、料理が多種多様で更にどれも完成度が高い所を見るに、本当にここの使用人達のレベルは高い様だ。
「それでは食事を始めよう」
仮名山の一言で、料理が運ばれてくる。
つつがなく、夕食は進行していく。
時に七加瀬がふざけ、迫間が七加瀬にラブコールを送り、神舵が七加瀬に怒り、それをみて仮名山が笑う。
昨日と同じ風景だ。
しかし、その会話の中に私はいない。
何故ならば、こういう複数人が話してる中で、話に入るのが私は苦手だからである。
よく、勇気を出して口を挟んでみるが、ことごとく他の人の話出しと被る。
そして被った後の、周りの人の気遣いで一言だけ話すといった行為の後、なんとも居た堪れない気分になるのだ。
七加瀬であれば、うまくできるのであろう。
私ができないのは恐らくであるが、既に出来上がった会話のペースを読み取るといった事が出来ないからだ。
まぁ、チャーハンが美味いから別に良いか。
そう思い、黙々と出されたメニューを食べる。
「そうだよな?なぁ、幸子」
「ほえっ?」
食に舌鼓を打っているところに、突然話を振ってくる七加瀬。
完全に油断していた。
まさか私に話を振ってくるとは。
七加瀬も私をほうっておいてくれても良かったのに。
「す、すまない、考え事をしていて話を聞いていなかった。も、もう一度内容を話してくれないか?」
そう聞き返す私に、特に怒るでもなく七加瀬はもう一度話し始めた。
「自由時間で、祿神の森で祿神の面と衣装を着た奴を観たんだよな?」
ああ、その話か。
「あ、ああ、確かにみたぞ」
「ホラな。だから、あの森には実は人が住んでるなんて事もありえるんじゃないか?」
「まさか、ありえんよ」
「でも、仮名山さんも森には入った事ないんだろう?」
「にしても、あの森での自給自足は流石に無理があるよ」
仮名山は、あまり触れられたくないのだろうか?少し機嫌が悪そうだ。
そういえば、島の紹介の時も祿神の森にはあまり近づかなかった気がする。
「じゃ、幽霊ってコト?!怖いなーー!七加瀬くん今日は一緒に寝ないかい?」
そう、迫間がわざとらしく体を震わせながら七加瀬にラブコールを送る。
「七加瀬。迫間様と寝たら・・・お前を殺す」
そう言いフォークを握りしめる神舵。
ボディガードがボディガードを殺そうとしている。
余りにもシュールだ。
「勿論俺は、今日も一人で寝る予定だからそのフォークを下ろせ。てか、俺が悪いわけじゃないんだから蕗に言えよ」
七加瀬は頭を抱える。
またいつもの流れに戻った様だ。
にしても、私が祿神の森での事を話した時に、少し場の空気がピリついた気がする。
気のせいだと思いたいが、入るなと言われていた祿神の森に近づいてしまったのだ。
私の好感度が下がってしまったのじゃないだろうか。
まあ、この島に来てからラブコールがあまりにも多いので、丁度良いか。
そう思って、まさに熱烈アピールを行ってきた使用人、ルイーゼと三戸森に視線をやると、二人ともウィンクしてくる。
ダメだこいつら・・・全然好感度下がってないわ。
そしてチャーハンを食べ終わった私達に、使用人達が最後にデザートの胡麻団子と杏仁豆腐を持ってくる。
今日の中華は満点だった。
燕の巣を使った料理は、あんまり味は分からなかったが、話によると高級食材なので、それも食べれてよかった。
ルオシーだったか?やはり中国人が作る中華というのは本格的で、食べ応えがある。
日本の良くあるチェーン店とは少し違い、本場の味付けなのか、風味が違うのが普段食べている中華とのギャップがあって、新しい発見とも言えるだろうか?
とても食べ応えがあった。
そう思いデザートを口に運んでいると、仮名山が大きな声で話し出す。
「さて!それではこの後はリビングルームで私に自由時間に見た美術品や島の感想を聞かせてくれたまえ」
そう言い私たちを見渡す仮名山。
この後は風呂に入って寝るだけだと思ってたのに、少し面倒だ。
「仮名山氏は、自慢のこの島が誉められているのを聞きたいわけだね!」
「はっはっは!そうともいうね。ただ、この時間が楽しみで、私はこの島を一般公開もしているくらいなんだ。頼むから皆んな、何かしら話してくれたまえ」
そう笑いながら話す仮名山。迫間の言い方は少し棘があったが、余り気にしてはいない様だ。
「それでは、リビングルームへ向かおうか!」
デザートを全員食べ終わったのを見計い、仮名山が少しでも待てないといった風に立ち上がる。
そして我先にリビングルームへと向かう仮名山に使用人含め、皆がついていく。
まあ、タダでこんなに美味い飯を食わしてもらってるんだ。
少しくらい何かしら話してやるかと、私も腹をくくりリビングルームへ移動する。
リビングルームは昨日と同じ、円を描く様にソファが置かれており、ビリヤード台やボードゲーム用の机は使用していないので隅に寄せられていた。
私達は、その円を描くソファに思い思いにすわる。
結果として昨夜と同じく、私と七加瀬が隣同士でビリヤード台が置かれている壁の対局に座り、入り口の真正面に仮名山、ビリヤード台の寄せられている側のソファに迫間と神舵が座る事になった。
使用人達はビリヤード台が寄せられた側の壁に沿って皆一列に並んで立っている。
「さあ!それでは皆、今日は何をみたのか、何が一番素晴らしかったのか話してくれたまえ!」
そういい仮名山は、ソファに座っている私達を見渡す。
「しかし、その前に何か飲み物を運んできてもらおうかな」
『畏まりました』
そう使用人達が声を合わせる。
しかし、部屋から出ていくのはウェスタのみだ。
特に誰も何も言わないので、役割が決まっていたのであろう。
この様なリビングでの集まりも、島外から人が来るたびに行っているのだ。
恒例の事、という事か。
「今のうちに、昼間に何が一番良かったのか考えてくれたまえ。過去には料理という客も居たが、出来れば島の特徴や美術品である方が嬉しい」
成る程、少しでも良い回答が聞きたいから時間をとっているのか。
にしても分かりやすい奴だ。
そんなに自分の自慢のモノを褒めて欲しいのだろうか?
承認欲求というモノだろうか?
いくら金があっても、それは満たされはしないらしい。
さて、それにしても何を話そうか。
美術についてはサッパリだから、教会が凄かったです、位で良い気がする。
難しい言葉を使う程に墓穴を掘りそうだ。
よし、これで行こう。
そんな事を考えていると、一際大きな雷が鳴った。
特に雷が怖いといった人物は居ない様で、特に周りの反応はない。
ふと、リビングルームにある時計を見ると時間は午後七時。
食事が午後六時に始まったので、一時間程度ご飯を食べていた事になる。
だからこその、この満腹感なのであろうな。
そう私がお腹をさすった次の瞬間、
館が闇に包まれた。
「むっ。停電かね。外の発電機がやられたのかな?」
そういう仮名山。
「えっ!停電!キャー!七加瀬くん助けてー!」
そして次に、迫間の大きな叫び声がする。
そう言いつつも、座ったソファからの明るい声を聞くに、そんなに怯えていないだろう。
にしても、停電か。
嵐の強さを見るに、ありえない話ではないか。
そして入り口の扉が開く音がして、そこから声がする。
「皆様、落ち着いてください。直ぐに予備電源が起動する筈です」
その声はウェスタの声だ。
どうやら、飲み物を用意しに行っていたウェスタは、既に入り口近くまで来ていたらしい。
そしてウェスタが、入り口から使用人がいた列の方に壁沿いに向かう、そんな足音がする。
そして、足音が使用人達と同じ場所辺りまで行ったであろう、その時。
「キャッ!!」
一際大きい叫び声が上がる。それは、ウェスタの声であった。
何かに躓いたのだろうか?
そう考えていると続いて、
ドンッ!
と大きな何かを、何かにぶつける音がする。
「お、おい。だ、大丈夫か?」
心配になり、そう声を上げる私。
その次の瞬間、暗黒に包まれていた館が光を取り戻す。
眩しくて、軽く目を細める私の目に映ったのは、
ビリヤード台の上にナイフで磔にされている、血だらけのウェスタの姿であった。
「うわぁぁぁ!!」
この島に来てから、一番大きな叫び声を上げる私。
死んでる?嘘?何で?誰が?どうして?
なんでなんで嘘だ嘘だ嘘嘘嘘あり得ない
そう、頭の中がこんがらがっていたその時、
また、館は闇に包まれた。
「何だ、またかね」
そう、声を上げるのは仮名山だ。
おっとりとした声なのも仕方ない。
彼からは、角度的に左斜め後ろにあるビリヤード台が見えないのだから。
「は、早く!ひ、光!!」
そういい、慌てる私。
そんな私の希望通りに、死体のあったビリヤード台に淡い光が生じた。
それは、七加瀬が取り出そうとしたスマホによる光でも、館の光でもなく・・・
飽きるほど見飽きた、能力を使用した際に生じる光であった。
「う、嘘だ」
さらに私は呆然としてしまう。
その光が生じた事に対して呆けたわけではない。
私の声を聞いて直ぐに七加瀬が、スマホの光でビリヤード台を照らした時には・・・血だらけの服とそれを貫くナイフを残して、ウェスタの死体は消え去ってしまっていたからだ。
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