sleep
そのあと、隣の部屋から叫び声を聞きつけて飛び込んできた神舵と一悶着あったりもしたが、何とか落ち着き、そろそろ夜更かししている私も寝る時間が迫ってきた。
「ちょ、ちょっと寝る前にトイレに行ってくる」
「分かったわ。鍵は開けっぱなしで良いわよ」
「い、いや、そういうわけにはいかない。さ、流石に鍵は閉めて行くよ」
「分かったわ。別に部屋を出る用事も無いし、ハイこれ」
そう言い迫間は鍵をこちらに投げてくる。
「あ、有難う、すぐに戻る」
そう迫間に告げた後に、私はしっかりと部屋に鍵を閉めて扉が開かない事を確認してからトイレに急ぐ。
それにしても、各部屋にトイレが備え付けられてないのはどうなのだろうか?
まあ洋館ではあるがホテルでは無いので、仕方ないことではあるのだが。
部屋から出て、少し離れたトイレに急ぐ。
突き当たりの廊下の角を曲がると、正面に七加瀬と、七加瀬と話す仮名山、そして仮名山の後ろに、双子使用人の妹の方のウェスタが居た。
七加瀬は明らかな寝巻きで、私と同じくトイレであろうか?
仮名山とウェスタは、寝巻きではなく、昼に見た姿と同じ姿であった。
「おう、幸子じゃないか。お前もトイレか?」
デリカシーのない男だ。
まあ、的を得ているが。
「あ、ああ。に、にしても、何を話してたんだ?」
「戸締りをしていたら、七加瀬君と廊下でバッタリあってね。軽く世間話をしていたのだよ」
確かに仮名山は、鍵束を腰に携えてジャラジャラ音を鳴らしていた。
「あ、あんまり二人の世間話の内容が想像できないな」
「いやいや、七加瀬君は意外と芸術に造詣が深いんだ。すごく話があって、つい盛り上がってしまった」
「意外っていうのは余計だ。一応、子供の時に芸術に関しては一通り習ったからな。才能は開花しなかったが、知識なら人並みにあるつもりだ」
「へ、へぇ」
先程、迫間と七加瀬の昔の話をしていたので、七加瀬の幼少期と聞き、顔が少し引き攣る。
芸術に関して一通り習っていたとは、予想はしていたが七加瀬はやはり、かなり良い家の出であるのだろう。
「おっと、そろそろ尿が漏れそうだ。俺はトイレに行くぞ」
そう言い、事前に仮名山より聞いていた屋敷内のトイレの方向に向かう七加瀬。それに、目的地が同じである私が続く。
「それでは、二人共おやすみ。明日は色んな場所を案内しよう」
トイレに向かう私たちの背中に、仮名山が声をかける。
七加瀬は振り返らずに軽く手を挙げる。
余りにもマナーがなってないので、仕方なく私が後ろを向き、軽く頭を下げる。
顔を上げると、後ろに控えているウェスタと目が合い、軽く微笑まれる。
その微笑みに私は心を掴まれる。
美人の微笑みとはこれ程の爆発力を生むのか、辛い。
「幸子、何ボケッとしてるんだ。漏れそうなのか?」
「そ、そんなわけないだろうが!」
デリカシーのカケラもない奴だ。
私は名残惜しくも美人の微笑みを後にして、七加瀬と共にトイレに向かう。
「そ、それにしても、七加瀬は芸術とか出来たんだな。そ、そういうのには興味がないと思ってた」
「実際に芸術に興味はさらさら無いがな。俺が話せる芸術なんてのは、上部をなぞる程度のモンだよ。そんな俺と話が合うなんて、色々と作ってる割には大した奴じゃないんだなって、少し思ったね」
「い、いつもより更に辛辣だな」
「なんか気に入らないんだよな〜。何でだろうか?」
「び、美人を侍らせてるから、嫉妬してるんだろう」
「それもあるかもな〜。実際に腹立つ。やはり世の中金なのかねぇ」
そんな事を話しているとトイレにたどり着く。
「おっ、到着だ。それじゃ用を足すから・・・覗くなよ?」
「こっちのセリフだ!」
「ハハハっ。じゃあおやすみ」
そう言い男子トイレに入って行く七加瀬を目で追う。
「・・・おやすみ。七加瀬」
やはり、七加瀬と話すのは楽しい。
仕事中という事を忘れてしまう。
と、いかんいかん。
本当に漏れてしまう。
その後、豪華すぎて落ち着かないトイレにて、用を足した私は、そのまま部屋に戻る。
今度は行きとは違い、誰にも会わずに部屋の前まで戻る事が出来た。
鍵で部屋の扉を開けると、私が部屋から出て行く時と同じ姿で勉強している迫間が目に入る。
「も、もどった」
「おかえりなさい」
こちらを確認すらせずに一言返す迫間は、作業に没頭している。
邪魔をするのも悪いし時間も時間なので、鍵を手早く迫間へ返すと直ぐにベットに潜り込む私。
それでは、お休み。
バタンキュー
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