回帰回想

七加瀬の姉は“超能力者“だ。


能力持ちなんていう半端者達の名称で呼んで良いような人物ではない。


それもその筈だ、姉は能力持ち達に必要な触媒を必要としないからだ。


その代償として、先天的に身体の一部、両足が存在せずに誕生した姉は、その欠点すら枷となり得ない程に全ての面で優秀であり、裕福である七加瀬家の中心人物であった。


常に階級の高い人物達に囲まれその才能を発揮する姉に、弟である俺は憧憬と愛情、そして少しの嫉妬をこめた目線を送っていた。


そう、嫉妬していたのだ。それもその筈、何故なら俺は常に姉の付属品であり、“ただの“優秀な姉の弟なだけだ。


周りを満足させる様な超能力も無ければ、才能も無い。


もちろん七加瀬家での扱いについても姉が優先で、俺は二の次。俺にも世話係などは付いてはいたが、同世代の見習いレベルの物しか侍らせた事はない。


しかしそんな俺に対して、姉は一番の愛情を注いだ。


その愛情はもはや肉親に対するそれではなく、俺という一人の男に向けられた愛であり、言うなら過激な愛であった。


ある夜、いつもの行為が終わった後に、何故そんなに俺を愛するのかと聞いてみた。


「弟くんは僕を道具として見ていないからさ」


「道具?」


「そう、道具。周りの金持ち達も、なんなら両親含めた身内達も全て、僕の事を道具としてしか見ていない。君だけなんだよ。私を単純に人として見てくれているのは」


「それは姉さんに需要があるからだろ。需要が無い俺とは違って良い事じゃないか。そして俺がそういう奴らと同じに見えないのは姉さんにそんな物を求めて良いほどの立場にないからってだけだ」


「ふふ、自己評価が低いなぁ、そういう所も良いんだよ、弟くん。それに弟君は私に能力を使えなんて一言も言わないし、思ってもないだろう?僕は道具とはいっても、無い筈の足がとんでも無く痛むから能力は使いたくないし、足のキャパシティを超えて、いつ身体が消滅してしまうかもわからない。能力を使えって言われるたびに、アイツらが僕に消えてくれって言ってる様に聞こえちゃうんだよね」


そう言い微笑む姉に、無能な俺は返す言葉が思い浮かばなかった。


それもその筈だ、能力を持っていない俺には、能力を使う感覚やそれに伴う消滅の危機に関する情報を話には聞いていても、体感する事は叶わないからだ。


「消えないでくれよ、姉さん」


だからそんな誰でも思いつく様な安直な希望しか、言葉に出来なかった。


「そういう言葉を、利害関係無しに言ってくれるから好きなんだよ。それに単純に顔がタイプ」


「からかわないでくれ、もう寝る」


「お休み、愛する人」


そうして眠る二人。

WPM社が原因で二人に永遠の別れが来るとは、その時は夢にも思わなかった。

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