会議にも華を添えて
帰り道、駅に向かいながら七加瀬は先ほどの情報を整理していた。
(元軍人の少女からの依頼。殺害された被害者達の中の一人は身元不明・・・他の被害者はカモフラージュか?どうやら今回の連続殺人事件は、ただの快楽殺人ではないように感じる。しかし斑井幸古が狙われる理由はあるのか?隠し事と関係あるのだろうか。まだ決めるのは早いな、それに斑井幸古が隠していることも気になる。斑井幸古の情報が虚言という可能性も視野に入れるべきか。)
情報整理に集中していると、後方から、
「おっ、七加瀬やん。なんか考え事しとるんか?」
と陽気な声が聞こえてくる。
(この声は・・・)
「おう、久しぶりだな
後ろを振り向くとそこには、長い黒髪を後ろで纏め、ビジネススーツを着崩している、女性にしては背の高い女性が立っていた。
長い黒髪を後ろでまとめた彼女の名前は
七加瀬よりも年齢でいえば少し下であるが、過去にその道場に俺と有利が通っていた事もあり、そのつながりで彼女とは知り合いである。
「会うたびにその話すんなや、私だって気にしてるんやから」
「過去に道場着ばかり見ていたせいだろうな。未だに違和感がぬぐえん」
「私は三年前からばりばりのキャリアウーマンやからな。そろそろ慣れてや」
そう、この鍔蔵剣華という女性は高校を出ると、師範代になれる資質と資格を持っていながらも、家業を継ぐつもりはないと会社に就職してしまい、実家から絶賛勘当中の身であるのであった。
(剣術の師範・・・か。)
「なあ、剣華」
「なんや」
「お前って鉄とか切ること出来る?」
「なんやいきなり・・・。まあ真面目に答えるなら、物によるって感じやな」
「物による?」
七加瀬は剣については素人というのも有るが、それ以外でも色々な事を体感で話す鍔倉剣華が、何を言っているのかわからない時がよくある。
「斬る方にも斬られる方にも色々あんねん。簡単に言うなら鉄は鉄でも柔らかい奴もあれば固い奴もあるし、剣は剣でも日本刀みたいな細い奴とか、西洋の剣みたいな図太い奴とかあるしな」
「鉄にも色々種類があるか、成程な。そうだな・・・んじゃあ、そこのガードレール斬れるか?」
そう道端にあるガードレールを指差す。殺害現場で見かけた鉄パイプとはまた少し違う部類の鉄材であろうが、目安にはなるだろう。
「無理、不可能。大体私みたいな、か細い少女がそんなことできたら嫌やろ」
やはり無理か。そうなるとやはり犯人は能力持ちということになる。
それにしても・・・
「か細いまではわかるが、二十過ぎて少女はない」
「次言ったら殺すからな?」
背筋が寒くなったので今後言わないようにしよう。腐っても剣術の師範レベルなのだ。鉄は斬れなくても、俺のことは間違いなく八つ裂きにできるであろう。
「そんなこと聞いてくるって事は、また面倒な事件任されたらしいな~。あれやろ?最近流行りの八つ裂きジャック」
「よくわかったな」
「最近はそればっかりニュースでやってるしな。それに、最初に警察に疑われたんはウチの親父やからな。そして最悪なことに親父は私がやったんちゃうか、とか警察に言うし。ほんまにありえへんわ」
「相変わらず仲の悪いことで・・・。」
(おっと、そろそろ行かないと時間的にまずいな。)
「んじゃあそろそろ俺はお暇しようかね。んじゃあまたな剣華」
といって七加瀬は駅に向かって歩き出す。すると、なぜか後ろから剣華が付いて来る。
「・・・何故についてくる」
「いやあ、仕事手伝ったろうとおもってな」
「お前、キャリアウーマンじゃなかったのか?」
「今日クビになったんや」
その言葉を聴いた瞬間に、七加瀬は駅まで全力で走り出す。しかし、男の俺の本気のスピードにも剣華は普通に付いてきている。さすがは師範。
そのまま駅に着き、切符を買う為に走るのをやめるが、すこし遅れてついた剣華に購入を阻まれた。これならICOKAに現金をチャージしておくべきだった。
「ハァハァ・・・うちにお前を雇う余裕はないと前に言ったはずだ!」
鍔蔵剣華が高校を卒業して会社に勤めると決めた時、初めに無期限で求人を出しているウチの事務所に来た。
妹弟子であり仲の良い有利は当然喜んだのだが、その日から鍔蔵道元によるピンポンダッシュや、窓ガラスを割られる等の四十台のおっさんらしからぬ嫌がらせが始まり、剣華を雇うことは出来なかった、もとい面倒くさくなったのであった。
全力ダッシュで息を切らしている俺に、呼吸を全く乱していない剣華が、手を合わせて頭を下げる。
「そんなこと言わんといてや。今回だけでもええから頼むわ。今月厳しいんや。お願いやって~」
「・・・今回だけだからな」
「やった!」
負けたわけではない。あまりにも必死に懇願してくる、もとい追いかけてくる剣華に仕方なく、いいや、面倒くさくなったのである。
本当にこいつら親子は面倒くさい奴らだ。
道元にばれなければいいだけの話なのだが、あのおっさんは妙に鋭いところがある。
(この事件・・・早く解決しなければならない要因が一つ増えたな・・・。)
「出来るだけ迷惑はかけるな。それと分け前は働き次第で支払うことにする」
「うんうん、任せてや!」
この元気が仇にならなければいいが・・・。
「んじゃあさっそく有利のところに向かうぞ」
そういい剣華を連れて訪れた場所は、七加瀬の事務所から徒歩二十分のまったく誰も入っていない古臭い喫茶店であった。
「ふぇー、ここが作戦会議場って奴か。隠れ家みたいな感じでええなぁ」
「古臭いだけだ。入るぞ」
そうして中に入ると、外見通りのこじんまりと作られた喫茶店内には、すでに到着していた有利と店のマスターが、カウンター越しで何やら盛り上がっている。
どうやら他に客はおらず、その為にいつものように有利とマスターの二人きりで話し込んでいるようであった。
「かっちゃん、今度は有利となに企んでたんだ」
「あら、七加瀬ちゃんいらっしゃい。有利ちゃんのメイド服ね、凄い出来がいいのよ~。私も欲しいと思っちゃってねぇ~」
店のマスターことかっちゃんが腰をくねらせながら七加瀬に話しかけてくるも、その輝いている目は有利のメイド服に虜のようである。
「いや~、かっちゃんが私のメイド服に目を付けまして。いつも利用してる服の仕立て屋さんを紹介してたところだったんですよ」
そう言いこちらを振り向いた有利は、俺の後ろにいた剣華に気づき、すぐに満面の笑顔で駆け寄る。
「剣ちゃん!久しぶりです!会いたかったですよ~」
「ははは。私も有利と会いたかったで。元気にしてたか~?」
「はい。元気一杯ですよ。でもどうして七加瀬さんと?」
「いや〜成り行きなんやけどなぁ」
「何が成り行きだ。こいつがどうしても仕事をさせろとうるさくてな・・・」
七加瀬は有利に、剣華がリストラされたことと、この事件の手伝いをする様になった経緯を話す。
「え~リストラされたんですか。じゃあうちでずっと働きましょう。そうしましょう」
「そうしたいのはやまやまやけどな。糞親父がすぐに迷惑かけるからな~。まあ考えとくわ」
「ちゃんと考えておいてくださいね!」
「それより七加瀬。こんな綺麗でスタイルのいいご婦人と知り合いだなんて妬けるわ。私にも紹介してや」
と剣華は店のマスターであるかっちゃんを見る。
「あらやだ。綺麗でスタイルがいいなんて。お上手」
「ああ、紹介しよう。この人はかっちゃん、本名はしらん。この店のマスターで・・・男だ」
「あらやだ。私は男なんてとっくに捨てたわよ。今はただの一人のメスよ」
そう言い、かっちゃんはもじもじする。
「は・・・?えっ・・・えっ、えええええ!!??」
剣華は信じられないといった表情をして目を白黒させる。
それも当然のことだ。かっちゃんは身長が百八十を超えている事以外は、どうみても女性にしか見えない豊満な体形と美しい顔立ちをしている。前に整形したかと尋ねてみたが、ごまかされて本当のことを聞き出すには至らなかった。
「うそやん。私自信なくすわぁ」
女っぽさの少ない(七加瀬見立て)の剣華はそういい少しうなだれ自分の体、特に胸の部分を気にする素振りを見せる。
ここで剣華に「豊胸手術のいい医者でも紹介しようか?」と言おうものならば、体を真っ二つに切り落とされるであろう。
よってここは無視を決め込むのがベストアンサー。
「かっちゃん、いつもの奥の個室使わしてもらってもいいか?」
「いいわよ~。注文はどうする?」
「俺はコーヒー、ブラックで。あと、人数分の軽食用意してくれ」
「私は紅茶のおかわりください」
「あたしもブラックでええわ・・・」
店の一番奥に位置する個室の部屋に、有利とまだ落ち込んでいる剣華を押し込める。
その部屋には、八人ほどが利用できるような長いテーブルと、それに合わせた数の椅子が置かれており、会議にはうってつけの場所であった。
すぐに注文したドリンクと軽食であるサンドイッチをかっちゃんが持ってきて、ごゆっくり、とだけ言い個室のドアを閉める。この部屋は扉を閉めると中の音は外に漏れなくなるために、秘密の話をするにももってこいである。
「さて今から会議を始めるわけだが、飛び入り参加の奴もいるから、一から俺達がこの事件を追うことになった経緯を話すか。その後に昼間に得た情報を話し合うとしよう」
「はーい」と返事する有利。
「ありがとうなー」と未だに気落ちしているのか適当に返事をする剣華。
「今回この事件に関わることになった発端は、今日の午前中に来た依頼によるものだ」
「めちゃくちゃホットな状態やん。早めに輪に入れて良かったわ」
「まあ説明が短くて済むから有難い。依頼人は元軍人の斑井幸古、女性。八つ裂きジャックに一度襲われて、その際に顔を見られたかもしれないとの事だ。また襲われるかもしれないので八つ裂きジャックを捕まえて欲しいっていうのが依頼内容」
「ほーん。しかしなんで警察に行かんねや?保護して貰えば一番早いと思うんやけど」
剣華の疑問は至極真っ当な物であった。一般人が何者かに襲われた際は、警察に行き保護なりしてもらうのが通例であろう。
厳密にいえば一般人とは言えない人物ではあるのだが、その範疇にある人物が、何故かうちの様な怪しさ全開の事務所に依頼が来ているのである。何かしらの裏が有ると勘繰ってしまうのは仕方のない事であろう。
「そうなんですけど、どうやら本人は保護されたりするのが嫌みたいなんですよね」
「まあ一応の理由としては警備部と軍部は仲が悪いってのは有るな。彼女にウチの事務所を紹介したのも、軍部の斎藤少佐経由で津代中尉って人だ」
日本の公的防衛機関は、防衛の主たる方向を内側に向けるか、外側に向けるかの二種類で部門が大きく異なる。
内側に対する部門は、防衛省の中でも警備部と呼ばれ、国内のトラブルや、事件などを担当している。各都道府県に配置されている警察がその例で、顔役とも言えるだろう。もちろんその他にも細かい分類があるので警察=警備部とは言えないが、一般人の認識としてはそれで正しい。
外側に対する部門は、軍部と呼ばれ、主に諸外国の侵略行為の対処、移民・テロリストの取り締まりなどを担当している。
この二つの部門は仕事の内容が正反対であることに加え、正反対ながらも時たま仕事の内容が被ることや、思想の違いから仲が悪い。
他にも過去に戦争が頻発していた時代に、軍部が幅を利かせていた分、とある事情により戦争が無くなってしまった現代では、軍部と警備部の立場が逆転し、過去の跳ね返りからか、確執はより深まった。
「成程な。警備部の警察を頼るのが嫌で軍部に頼ったら七加瀬が紹介されたと。でも軍人なんやから自分の身くらい自分で守れるんとちゃうんか?そんなにビビらんでもって思うわ。それに警察が犯人を捕まえるまでっていうリミットもあるし何とかなりそうなもんやけどな」
「そうなんだよな。でも依頼のニュアンスは警察よりも早く捕まえて欲しいっていう感じでな。そこがよく分からん。警備部と軍部の利権争いって言えば筋はそこそこ通る。でもこの手の事件は本来警備部の仕事だから、軍部が介入する方が違和感有るんだよな」
今回は、国内での連続殺人という明らかに警備部の管轄の事件だ。軍部の人間が介入するには、それこそ犯人が既に分かっていて、その犯人が移民や他国のテロリストでもない限りあり得ない。
「それに犯人を早く捕まえて欲しい割には、斑井さんが何かしらの隠し事をしているようでしたし、謎は深まるばかりなんですよね」
「厄介やなぁ。まぁー、いうて八つ裂きジャックを捕まえれば、ややこしい事も全部解決やろ。実は依頼の達成した時の報酬金が無くて、情報渋ってるだけかもしれんで」
頭をグリグリ手でほぐしながら、うんうん考える有利に対して、剣華はブラックコーヒーをズルズルと音を立てて飲みながら、何も考えてない様なボケっとした顔を浮かべている。
そんな剣華の姿をみていると、リストラされるべくしてリストラされた様な気もしてくる。
「それなら依頼自体しないだろ・・・。それに捕まえるって簡単に言うけど、相手は多分能力持ちだぞ。お前でも相手によっちゃ危ないんじゃないか?」
「でたよ能力持ち。そんなオカルトに負けるような柔な鍛え方してへんねんけどなぁ。それにアレやろ。能力持ちって能力出すのにアイテムいるし、そんな火力も出されへんねやろ?」
「アイテムって・・・。まあ能力持ちは世界から認識されると存在を消されるから、スケープゴートの為の道具を用意しないといけないし、明らかな大火力も出せないけども。それでも能力の分からない初見の相手は、結構辛いもんだと思うぞ」
「能力の1撃目でやられんかったらええわけやな」
「脳筋め」
「誉め言葉やな」
「脳筋女め」
「脳筋女って言われると腹立つな、骨三本くらい折ったろか」
「暴力反対!」
こいつは本当にやりかねない。鍔蔵剣華と言う女は剣の腕では熟練しているといえるが、精神の面でいえばそうではない。時偶に、常人に必要なタガが外れてるとしか思えないような行動を起こす時もある。
出来るだけ剣華から離れようと、じりじり椅子ごと後退する俺を見かねたのか、話がどんどん脱線していく事に危機感を覚えたのか、有利が話をもとに戻す。
「うぉっほん。剣ちゃん、依頼については大体分りましたか?」
「うむ。大体把握したで。まあ犯人捕まえりゃええんやろ?わかりやすくてええな」
「そうですね。依頼人の隠し事については取り敢えず保留にしておきましょう。それで次は、私と七加瀬さんでお昼に調べものしてたんですけど、その結果報告からですね」
「うむ、まずは俺から話そうか。俺は二件目の事件の殺人現場を調べに行ったんだ」
「おおっ。こりゃ重要な手掛かりが掴めたんやろな」
期待する剣華に、七加瀬は捜査の結果を少し勿体ぶりながら伝えた。
「なんと・・・犯人は能力持ちだ」
「おお、さっき言ってたな。それで?」
ほう、それで?ときたか。
「以上」
「は?」
「以上だ」
「探偵舐めとるやろワレ」
「だってなんか怖い警察官来たんだもーん。俺悪くないもーん」
「子供か。そんなん蹴散らして情報集めんかい」
「いや、結構頑張ったんだぞ?警官煽ったりして会話長引かせようとしたけど、取り付く島もないって感じでな。事件について、俺が何も知らない事に気づくや否やガン無視された。ありゃ相当できる刑事ですな」
矢嶋と名乗った警官は恐らく脅威にはならない。しかし花守という警官は、たった数分の邂逅であったが、この事件を解決するに充分足る人物で有る事が予想できた。そして何より最も七加瀬が大事にしている直感が、あの人物はヤバいという事を告げている。
「相当できる警官がいるなら早く解決しないとまずいですね。先を越されてしまうかもしれません」
「せやな。でも、こっちの探偵は使いもんになれへんしなぁ。」
「うっさいわい。ただ警官が居たことで一つだけ限りなく真実に近い予想は出来た」
「「予想?」」
「ああ、俺が現場を見に行った二件目の殺害。その遺体が今回の事件のカギを握ってるかもしれん」
「それは何でや?」
俺の推理に関して、剣華が首を捻る。
「二件目の殺害についてのみ、明らかに現場等の情報が開示されている事と関係あります?」
元より事件のニュースなどを見ていた有利は、ロジックの取っ掛かりに直ぐに気づいたようだ。
「そうそれ。おそらく二件目の殺人の遺体は頭部が持ち去られていて、身元が不明だ。だから警察がわざわざ網を張って待ち伏せしていたんだ。そして、その遺体は解決の糸口になるだろうな。あのレベルでできる刑事が出張ってる時点で、おそらくこの想定は正しいと言える」
「ちょまてや。頭部が持ち去られたってなんでわかんねん」
「ほかの遺体は大まかな身元が明かされているが、二件目だけ明かされていないからな。それに刑事との会話での反応をみるに、間違えてるわけではないと思う」
「ほーん。なら二件目の遺体についても調べなあかんな」
「そうだな。でも警察でも分からん位だ。遺体はこの町の人間ではない、もしくは消えても捜索願い等が出されにくい人物」
「それらに加えて、犯罪歴が無いって言うのも、指紋・DNA鑑定の観点からみると追加した方がいい人物像の項目でしょうね」
有利が七加瀬の思考の及ばない部分の補佐、補完の役割を完璧にこなしてくれた。さすがメイド(仮)。非常に助かる。
「そうだな。俺からは終わり。有利はどうだった?」
「私は取り敢えず斑井さんが襲われたと言っていた場所の周辺捜索と、買い物ついでにスーパーでおばちゃん達に色んな話を聞いてきました。結果としては、二つほど関係ありそうな情報がありました」
「おっさすがは有利やな。七加瀬とは違うな~」
「うっせ」
こいつはこいつで相変わらず、一言多い奴だ。
「一つ目は斑井さんが襲われたと言われていた場所。こちらには確かに争った後の様な形跡が有りました」
「そうか、それなら襲われたって言うのは信憑性が持てるな」
と言ってもまだ、それが犯人か、はたまた逆に襲ったのかって言うのが微妙なところだが。
「そうですね。具体的にいえば、ズタズタになった路上の植え込みや、壊れたガードレール等ですね」
「壊れたガードレールってもしかして」
七加瀬は綺麗に斬られていた路地裏のパイプを思い出す。
「はい。綺麗に斬られていました。携帯で写真撮ってきたんで、それを見ていただけると分かりやすいと思います」
そういって画像が表示されたスマートフォンを、有利は俺に見せる。そこに映ったガードレールは、あまりにも斬り口が綺麗すぎて、元からそういう切れ込みが入っているように見えた。
「やっぱり。二件目の殺人現場にあった、綺麗に切れたパイプと同じで、凄え切れ味だな」
躰を寄せて同じくスマートフォンの画像を見た剣華も、感嘆の声を上げる。
「ほえー、こりゃあ凄えわ。この能力を殺人とかやなくて、もっと有効活用すればええのに。何で人なんか殺してまうんやろな。てか七加瀬、お前殺害現場に綺麗に切れたパイプ有るなんて、一言も言っとらんかったぞ」
「ありゃ、そうだっけか。まあ能力持ちって分かった位で、そんな重要なもんでも無いかな〜と思って」
「アホ、そういうしょうもない所にヒントが隠されてたりするんやろが。それでも探偵か。」
「チッ。反省してまーす」
「舌打ちすんなや。反省の色が見れんなぁ」
剣華が拳をポキポキ鳴らし始めたので、有利の座っている椅子の後ろに身を隠す。
「相変わらず、七加瀬さんと剣ちゃんは仲良いですね。ダブルで羨ましいです」
有利は少し複雑な表情をしつつ、指でチョキを作りそれをチョキチョキする。
「いやいや、これ見てそういう感想抱くのは有利くらいやで」
その有利の言葉に対して何故か剣華が満更でもなさそうな声を上げる。流石は付き合いが長い妹弟子の有利だ。暴れ馬の剣華を簡単になだめてしまった。
「よし、話を戻そう。で、二つ目の情報は?」
「二つ目なんですが、どうやら斑井さんが襲われた現場の周りでは殺人は起きていなさそうなんですが、事件が起こる前から、たびたび深夜にうろついてる人物が居るそうです」
成る程な、つまり。
「そいつが犯人だな」
剣華がガックリと肩をおとす。関西人らしい大袈裟な行動に七加瀬の頬が緩む。いかん、どうしても剣華がいると遊んでしまう。
「何わろてんねん。てか思考を放棄すんな。犯人いうけど、その周りでは殺人は起きてないんやろ?」
「そうですね。調べた限りでは、ですが」
警察が隠している殺人は何件か、そしてどこで起きたかが分からないので確証は無いが、仮にこの周りで殺人が起きていれば、そんな怪しげな人物を警察が見逃すわけがない。
「実際その付近で依頼人が襲われてるからな。一応警戒しておいた方がいいだろう」
「そうですね、情報が少ない今はなんでも疑ってかかった方がいいでしょう」
「じゃあ情報共有も終わったし、そろそろ次の依頼人が来る時間だ。一旦帰るか」
腕時計を見ると、針は既に十五時を指していた。次の依頼人である坂口が十六時に来る予定なので、そろそろ喫茶店から出なければ余裕をもって行動できなくなる。
「まだ依頼あるんか。そんな手広くやってええんか?この事件、そんな片手間でいけるもんとちゃう気するんやけど」
「大丈夫、恐らく二件目も似たような依頼内容だ」
「ていうと連続殺人絡みって事なんか?」
「恐らくな。取り敢えず、事務所まで戻ろう」
そういい、喫茶店Adamを出た七加瀬たちは、その足でそのまま事務所へと帰るのであった。
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