08 王子と妖精様の久々の食卓
二人で分担して夕食を作るとあっという間に終わった。煮込む時間を差し引いても順調に進み、7時過ぎにはもう食べ始めていていた。
「「・・・・いただきます」」
二人同時に手を合わせ、食事を始める感謝の言葉を口にしてカレーを食べ始める。
それも無言で。
何か話すべきなのだろうが、何も出てこない。
しかもカレーが美味しすぎて言葉も上手くまとまらない。
どうしたものかと考えている間にエリカのカレーは見る見るうちに無くなっていく。
(ぺ、ペース早っ。あんな食って大丈夫なのかあいつ?)
常人よりも遥かに早いスピードでカレーを食しおかわりする為席を立つ。
明らかに怒っている。目に見えて怒っているのが分かる。
しかし何に怒っているのか検討も付かず、火に油を注ぐような真似はできない。
だからといってこのままにしておく訳にもいかない。
冬華はカレーをよそうエリカに恐る恐る怒っている理由を聞いてみる。
「・・・紅野、さん?何で怒ってらっしゃるんでしょうか?」
「・・・・・貴方がバカだからです」
思わず敬語になり理由を聞くと渾身の毒舌で言葉が返ってきた為やれやれと冷や汗をかく。
「うっ・・・まぁうん、この部屋の現状はすまんと思ってる」
「それもですが、今の今までマトモな食生活をしていなかった、きちんと自炊をしていなかった事に対して怒っています」
「だから悪かったってばそれは。・・・言ったろ?やる気がないんだよ俺には」
エリカが自分でよそったカレーを冬華に渡し、それと入れ替わりで冬華の皿を受け取りカレーをよそう。
「やる気がないを理由にしないで下さい。そんな情けない感情はドブに捨てないと、いつか貴方自身がドブに落ちますよ?」
「上手いこと言うなよ。ほんとに悪かったっての。明日からはちゃんと自炊します」
「ここ一ヶ月だけでこんなに散らかした人間の言葉を信じろというのが土台無理な話です」
「それは・・・ごもっともでございます」
エリカがよそってくれたカレーを受け取り席に戻りながらエリカに謝る。
丁寧に椅子に腰掛けるエリカの形相はさっきよりマシにはなっているが、眉にシワが寄っているのは相変わらずだった。
二杯目のカレーも黙々と口に運んでいく。
どうにも機嫌を損ねさせてしまっているのが目に見えて分かる。
冬華はカレーを食べながらひたすら悩む。
今まで人付き合いを積極的にしてこなかった冬華にとって、女性に機嫌を直すなんて行動技術持っている訳がない。
昔から女性の知り合いは多くはいたが、エリカのような関係の薄い人間とのコミュニティは身につけていないので困ったものだ。
だが、言葉を選んでいる場合ではない。
もたもたしていたらエリカとの溝はとんでもない事になる。
意を決してカレーを食べる手を止めてエリカに頭を下げる。
「・・・悪い。やる気がないなんてくだらん理由を言った。実際、俺が怠けてたからだ。お前が先月やってくれた事を水の泡にしてごめん」
「・・・わかってくださったのなら何も言う事はないです。・・さっ、食べましょ?」
「ああ。折角のお前のカレーだからな。美味いからあともう二杯は食える」
「・・・育ち盛りですしね。貴方は一ヶ月ロクな食生活をしていなかったんですからもっと食べてもいいと思います」
そう言ってエリカは席を立ちキッチンの方へと歩き、カレーをよそいで冬華の前に持ってくる。
まだ食べてる途中なんですけど?と言う目でエリカに訴えかけるもエリカはにっこりと笑う。
笑顔が笑顔ではない。怖すぎる。やはり一ヶ月何もしていなかったことがかなり虎の尾を踏んだらしい。
自分の分を食べ終えエリカがよそってくれたカレーをかきこむようには食べ始める。
やはり美味い。母親が作ってくれたカレーもとても美味しかったが、エリカのカレーは冬華の好みにバッチリと合う。よく考えられている逸品だと勝手に納得する。
口に入れたカレーを飲み込みぶっきらぼうにかつ、気持ちを込めて「美味しいよ」と言ってエリカを見れば、顔を紅潮させて優しく笑っていた。
何かまずい事を言ってしまったような気になり顔を下に俯いたままカレーをかき込む。
カレーが辛くて顔が熱いのか、恥ずかしくて熱いのか分からなくなってしまい、そのままの状態で久しぶりの妖精様との夕食を終えてしまった。
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