第10話 8月6日-1 五勢力
白騎士は何時に来るのかを言ってくれなかった。
自分が一番ひどい目に遭っていると五木は思いながら話をしていた最中、白騎士が時間を言っていなかったことに気が付いた。
それは赤騎士をのした剣も同様だったようで、
悪魔、マルコシアス。風名はそう言った。黒騎士に推測を話したところ当たっていたらしい。流石というべきだろう。なにせ伝聞だけで言い当てて見せたのだ。
十六時という約束の時間。それに間に合うよう家を出るまでの時間を宿題に費やそうとしたものの、どうしても落ち着かない。五木は調査を兼ねた散歩と称して家を出ることにした。
決して宿題が
「兄さん、お出かけですか?」
居間に入った時、話しかけてきたのは五木の妹、
夏休みだというのにセーラー服にスカートだ。学校に用でもあるのだろう。
「ああ、ちょっと散歩にな」
少しぶっきらぼうに答える。何かしらコメントがあることは予測できている。
五行家の五木を除いた四人のきょうだいは何かしらにおいて出来がいい、というのは五木の評価だ。その中で筆頭と評するのが長女の雅金だ。
「そうですか、気を付けて行ってきてくださいね」
いつもなら、宿題はしたのか、なんて母親みたいな小言を言ってくる雅金なのだが、今日は違ったらしい。
「? 出かけないのですか?」
小言を言ってこないことに硬直した五木を見、首を傾げて雅金は言った。
「なあ、何か僕に言いたいことはないか?」
何も言われなきゃ何も言われないで少し寂しい気持ちもある。
「はあ、では一言だけ、ゴールデンウィーク明けみたいなことは、困りますからね」
「お、おう。じゃあ、行ってくる。鍵頼むな」
こちらを
この敬語・眼鏡属性の妹が五木は少し苦手だった。無論、嫌いなわけではないが。
家を出る。雅金が施錠する音を背に聞き、敷地を出る。
よくある住宅街だ。一戸建てだけではなく、低層のマンション、アパートもちらほらある。
空は晴れている。時折吹く
三か月前、ゴールデンウィークの出来事。不可解部の記録でいうところの『File01 五行のきょうだい』。それを覚えているのはきょうだいの中では五木だけだった。
他の四人はと言うと都合よく記憶の
実際は旅に出たわけではない。いなかったのはきょうだいたちの方だった。
ゴールデンウィーク明け、その朝に家に帰った時のことを雅金は言っていたのだろう。
五月六日、登校の準備をしに未明に戻った五木は打撲、擦過傷をはじめとした怪我を負っていた。疲れからか、家に入った瞬間玄関で寝てしまい、きょうだいにその姿を発見され、多大な心配をかけてしまったのだった。
過去の事件についてはここまでにして、五木の思考は今回の事件へと巡る。白騎士はまだ目的を明らかにしていなかった。
風名が言うには、五勢力の一つである
そもそも五勢力が何者かは昨日、風名に聞くまで知らなかった。
ゴールデンウィークの事件において、全く関わりがなかったから聞く機会がなかったというのは言い訳だろう。端末の画面の向こうでは「それくらい知ってるでしょ」と言いたげな顔をしているのが想像できるが、素直に教えを乞うことにした。もったいぶることもなく、さらりと風名はわかりやすく説明してくれた。
五勢力、その大半が人類に危機や害をもたらす存在へのカウンター集団だということらしい。結果そうなっているだけであって、全部が全部そのために作られたわけではないという
ちなみに大手の勢力が五勢力という名で括られているだけで、その他の勢力は独立勢力と呼ばれている。
悪魔を狩る、
妖怪退治集団、
知識の守護者、
暗殺者集団、
そしてたった一人で他勢力の抑止となる新興の、
この五つが五勢力。
確かに、四死使師と一人法師は他とは異なり、異彩を放っているように感じられる。
そういえば、陰陽五行は四ツ橋と学院の名を口にしていた。「五獣を使うのに四ツ橋、学院のシステムを応用した」とかなんとか。
その時は決戦の緊張感と彼への怒りで聞き流していたが、五勢力は有名らしい。
騎士団がいるということは悪魔がらみ、と風名は言っていた。
騎士団だけは全メンバーが基本は欧米にいるらしく、複数名が日本にいるということはそういうことだろうとのことである。
今のところ夜にしか事件が起こっていない。だが、その目的も不明である現状、白昼堂々ことを起こさない可能性はゼロではない。解決が早いに越したことはないが、あの翼の生えた狼、悪魔に関して、五木には全くとっかかりとなる知識はない。
昨日の白騎士の話。あれは悪魔。そう言われても五木にはピンとくるものがなかった。悪魔といえば、
悪魔に種類があることを知らない。この国において宗教にあまり触れず過ごした人間にはサタンとルシフェルの違いを説明できるものは多くない。
やはり一人で考えても無駄だろう。五木はそう思った。リフレッシュを目的とする散歩で疲弊しては元も子もない。五木はしばらく何も考えずに歩くことにした。
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