第4話

 うーん、付いてくる。


 僕が帰り道を歩いていると、後ろにクリスが付いてくるのであった。試しにコンビニに寄ると入口で待っているクリスであった。


…………。


 ダメだ、ホントに家に来るつもりだ。渋々家に着くと母さんが玄関まで出て来て。


「お帰りなさい。あら、クリスちゃんも一緒だったのね」


 そう言えば洗脳とか言っていたけどどういう事情で家に転がり込むつもりなのか?


 少し聞いてみるか。


「母さん、何でクリスは家に住む事になったの?」

「何言っているの?クリスちゃんはあなたの許嫁でしょ」

は?

「父さんが海外転勤の時に現地で意気投合したクリスちゃんの家族と許嫁にしようと決めたのよ」

「違うのだよ、こいつには『お姉様、お姉様、お姉様』と呼ぶ人が居て俺は邪魔者なんだよ」

『ベシ』とクリスに足を踏まれる。


 はい、分かりました、口裏合わせをすれば良いのね。


「そうだったよね」

「もう、左京ちゃんたら照れ屋さんなんだから、今からご飯の支度をするから待っていてね」


 流石にクリスとは部屋は別々だった。薄暗い部屋の電気を点けベッドに横になる。

腕を額の上に乗せて目を瞑る。少し眠気に襲われるが今日の出来事が眠気を阻む。今日は色々有ったな。友達のクロが交通事故にあったり、あの綺麗な茜さんが天使の生まれ変わりだったり。突然、見た目は可愛いがクリスなる暴力天使と暮らす事になるし、疲れたな。


 ホッと一息つくと携帯が鳴る。


 うん?知らない番号からだ。携帯を持ち出るか迷った末に通話ボタンを押す。


「左京くん?この番号は左京くんで良いの?」

「えぇ、そうです。その声は茜さんだね」

「ごめんなさい、突然、電話して……」

「えぇ、大丈夫です」


 全然、大丈夫、でない。女子から突然電話が有るなんて少し緊張してきた。


「クリスとは上手くやってる?」

「は、はい」


 あの暴力天使と上手くやれと言うのが、無理があるが我慢するしかなさそうだ。


「クス、その調子だとだいぶ痛い目に遭っているみたいね」

「バレましたか」


 携帯から流れる茜さんの声は何か懐かしさを感じさせた。


『私、堕天して良い?』

「え?今、何か言いました?」


 それは携帯からの茜さんの声ではなく、心の中に響く言霊であった。きっと前世の記憶から流れ出る、悲しい音色の言霊であった。


 茜さんからの電話を切ると無性に寂しさを感じた。まるで、茜さんが昔からの恋人の様に感じられたからだ。


「左京ちゃんご飯よ」


 僕を呼ぶ声が聞こえる。もう、そんな時間か。 ダイニングキッチンに行くと何時もより豪華な料理が並ぶ。するとクリスと目が合うと突然。


「お姉様の臭いがする」


 は?確かに電話で話したが……。


 隠しても仕方ないし素直に認めてみるか。


「携帯で少し話たよ」

「このろくでなし、地獄に落ちろ」


 そこまで言わなくても良いのに、やはり黙っておくべきだったか。


「あらあら、二人とも仲が良いことで」


 母さん、どこを聞いたら。そう聞こえるの?


「料理が冷めないうちに、食べましょう」

「け、仕方がない、今日はこれくらいで許してあげる」


 と、言う訳で、三人でご飯を食べ始める。父さんは何時も仕事で遅いので平日に三人で夕食は斬新であった。しかし、今日の料理は美味しいな。


「母さん、何で今日の料理は美味しいの?」

「あら、変ね、毎日クリスちゃんに手伝って貰っているはずなのに」


 なぬ、この暴力天使、女子力が高いとな。うーん、侮れんな。などとしていると夜も更けてきて。シャワーを浴びて寝る事にした。


「わたしが先にシャワーを浴びるわ」

「へいへい、そうですか。我が家のシャワーは温度調節が難しく慣れないと手痛い目をみるぞ」

「熱いなり!!!」


 風呂場から悲鳴にも似た声が聞こえる。クリスがタオルを巻いたまま飛び出して来て。

「この家のシャワー壊れているわよ、火傷したらどう責任とってくれるの!!!」


 クリスが僕に言い寄って来るとは、アホ天使が。すると、バスタオルがはらりと落ちる。うーん、出る所は出て引っ込む所はそれなりだ。


 さて……どうしたものかと考えていると。


 かかと落としが僕の腕に炸裂する。瞬間的に防御してもかなり痛い。普通、こういう時はビンタだろ。しかし、ビンタでも吹っ飛びそうだが。


「ワレ、何見てるねん」


 どすのきいた声がクリスから発せられる。


「あらあら、クリスちゃんたら、活動的ね。でも裸でかかと落としは不味いわ」


 母さんが騒ぎに気付いてやって来たのだ。そして、クリスにタオルを巻きお風呂場に連れて行く。しかし、かかと落としをくらった右腕が痛い、氷で冷やそう。


 大丈夫かな、折れてないよな。


「ごめんなさい、左京さん、つい本気で接してしまい……」


 クリスが可愛いパジャマ姿で謝るそうだ、茜さんがクロにしたように治療してもらおう。


 ここは大人になって対応だ。わたしも、クリスの裸を見入ってしまった自分も悪いのは確かなので、作り笑いでクリスに接してみる。


「そんな、治療系なんて高等法術は私には使えないのです」


 使えない天使だな。でも、本当に怪我をさせてしまった事を反省しているようだ。うーん、根は悪い人ではなさそうだ。そう言えば茜さんは三大天使の一人とか言っていたな。


「あぁ、その目は私の力を疑っている。たまたまだよ、治療系の法術が苦手なのは」

「そうなの……」

「私は戦闘に特化した人材なのです」


 人材ねぇ……ここは素直に信じよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る