第3話 休憩室

 翌日からもいつもの時間に出勤して定時に帰りを繰り返し、翌週の火曜日。

 竹田先輩との1on1の日だ。


「時間近いしミーティング室に行くか~」

「分かりました」


 少し歩いてミーティング室に移動する。

 4人掛けのテーブルとモニター、壁の片面にホワイトボードがある部屋だ。ドア側はガラス張りになっているが、テーブルより上の部分は曇りガラスになっているため室内を覗かれることはない。


 僕と竹田先輩は向かい合って座り、先輩のPCにモニターを繋いで表示させる。


「それじゃあ始めますか。安田くんから何か報告しておくことある?」


「そうですね、担当している作業ですが明日までには完了できる見込みです。なので、木曜から何か新しい作業を割り振っていただけると助かります」


「おっ、早いね!順調に進められて何よりだよ。それじゃあこの前の会議で出てきた作業依頼のチケットを作ってあるから、木曜スタートにして担当者を安田くんに変更しておくよ」


「了解です」


「詰まったら聞いてね。じゃあ次に俺からの報告事項についてだけど……」



 ************



「うーーーーん……」


 1on1が終わってからずっと作業して疲れたからか親父くさい声が出てしまった。

 まだそんな齢じゃないってのに。

 ずっと座りっぱなしの作業だし、身体が痛い。ちょっと休憩しよう。

 マグカップを持ってフロアを出て、近くにある休憩室に入る。


 中はソファーとテーブルが多くあり、50人は座ることが可能だ。端っこにはウォーターサーバーとコーヒーメーカーがあり、社員は自由に利用することができる。飲み放題だから無駄に金を使わずに済む。


 コーヒーが出来るまで身体を伸ばして待っていると、休憩室に誰か入ってきた。

 目を向けると、先週挨拶した悠木さんがいた。

 スマホを見ながらこちらに向かって歩いてきている。

 この前は裏返ってしまったからな。失敗しないように気をつけよう。


「悠木先輩お疲れ様です」


 うん、ちゃんと言えた。


「(ビクッ!!)あっ、安田くん!?お疲れ様」


「すみません、急に話しかけて驚かせてしまって」


「いいえ、大丈夫ですよ。安田くんは休憩?」


「はい、ずっと作業していましたので。いまコーヒーが出来上がるのを待っているところです」


「そうですか、頑張ってるんですね。仕事にはもう慣れてきましたか?」


「はい、まだまだ覚えることは多いですが精一杯やってます」


「ふふっ、安田くんなら大丈夫そうですね。私も頑張らないと」


「うん?悠木さんはすごく頑張っていると聞いたのですが」


「えっ、誰かから私のことを聞いたんですか?」


「開発部の先輩たちが悠木先輩のことを話していまして、先輩のことを綺麗、格好いい、強気なところに憧れるとか、色々と言ってましたよ」


「えぇ!?……えぇっと、その、安田くんも、そう思ってるのですか?」


 急に小声になってどうしたんだろうか。でも聞こえる範囲だ。


「その、仕事をしている姿は見たことがないので分かりませんが、悠木先輩は綺麗だと思いますよ。」


「!?」


 思ったことを伝えてみたら後ろを向いてしまった。何か右手を握りしめている。

 どうしたのだろうか。

 おっ、話しているうちにコーヒーが出来上がったみたいだ。


「それでは先に戻ります」


「えぇ」


 悠木先輩に挨拶をして休憩室を出た。



 ************



 安田くんが休憩室から出たのを確認した後、


(やーーー!綺麗って言ってくれた!!やっぱり安田くん可愛い!!癒される~!思わずガッツポーズしちゃったけど変に思われてないかな?大丈夫だよね?うん、大丈夫ということにしよう、ふふっ。それに、いきなり声かけられたときは驚いちゃったけど話せて良かった~!またお話したいし、安田くん見つけたらガンガン攻めていこう!)


 私のテンション上がりまくりです!

 心の中がフィーバーしています!

 さっ、少し休憩したらお仕事頑張ろうっと!!

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