第2話 悠木先輩
「おはようございます」
「おはよう~!」
「おはよっす!」
「安田さん、おはようございます」
朝9時半に出勤し、既に作業していた先輩方に挨拶をする。うちの会社はフレックスタイム制を取っており、コアタイムは10時から17時なので遅くとも10時までに出社すれば問題ない。それから必ず8時間勤務(休憩1時間を除く)である。
服装と髪色は自由だ。また、社員の平均年齢も20代後半~30代前半と比較的若めで、社長が最年長で30代後半だからすごく若々しい。僕も若返った気分になれる。入社したばかりの僕が何を言っているんだか、ははっ。
「メールやチャットには……うん、特に優先して行うことはなさそうだな……」
座席についてPCを立ち上げてメールとチャットを確認する。優先事項は無かったので割り当てられた業務を少し進めて10時からの朝礼に出席。業務の進捗状況や連絡事項などを連携し合って互いの状況を把握する。初出席の時に挨拶したが、緊張して声が裏返ってしまい先輩方に慰められたのは苦い思い出だ。
僕の部署は開発部で30名在籍している。自社で運営するサイトの作成や更新、他部署からの改善依頼などを担当している。男女比は僕が加わったことで1:1になり、男が多いイメージだったがうちは例外みたいだ。
朝礼が終わると数人がミーティングのため座席を離れ、残りは各自が担当する作業を進めていく。
「竹田さん、今お時間よろしいでしょうか」
「うん、どうした~?」
「この箇所のコーディングをしているのですが上手くいかなくてエラーになるんですが……」
「うん?……あ~、なるほど。その箇所というより、10行前のここを修正すればいけるはず……、よし!エラー消えたな。これでいいよ~」
「了解です。ありがとうございます」
「分からんことあったらいつでも聞いていいからな~」
隣の座席の
ちなみに僕の挨拶で慰めてくれた先輩のうちの1人だ。
人懐っこく他部署からも慕われており、優しくとても頼りになる先輩だ。オシャレで高身長のイケメンなモテ男だが、鼻にかけることなく仕事に真摯に取り組む姿勢が尊敬できる人だ。少し僕も憧れている。
担当作業を進めていると昼休憩を知らせるチャイムが鳴った。
先輩達や同期と食べに行くか1人飯かのどちらかだが、今回は後者なので、近くのコンビニで昼飯を買いにいくことにした。
最近のコンビニは早いペースで新商品が売り出されるしメニューも豊富だ。アルバイトをしていた時は従業員割引で新商品を安く買うことが出来たし、ほとんどが美味しい。たまに出る不味かった商品について愚痴を言ってたら店長に聞かれて怒られるかと思ったが店長も同意らしく、1ヶ月後には販売が終了していた。店長と一緒に思わず笑ってしまったよ。
昔のことを思い出しつつ会社に戻って昼飯を食べ、15分後には食べ終えた。
さて、この後どうしようかと考えている時、1人の女性が出勤してきた。
「
「悠木おはようっす!」
「
「海鈴さんおはようございます!今日も綺麗です!!」
「悠木さんおはようございます!ランチは行きましたか?」
「ふふっ、おはよう。ありがとうね。ランチにはもう行ってきたよ」
その女性が出勤しただけで部署関係なく挨拶の嵐が起きた。ほとんどの人が立ち上がってわざわざ挨拶しに行っている。行けない人は視線がその女性にグッと向いていており、一部は目が血走っていた。怖い。
初めて見る先輩だが、有名な先輩なのだろうか。確かに綺麗だと思うしファッションについてあまり詳しくない僕でもオシャレだと思える。有名なカフェのカップを片手に持っているので、そこでランチを済ませたのだろうか。肩にかけているトートバックが高そうに見える。
一人ひとりに軽く挨拶を返していきながら自身の座席まで歩いていくところを見て、どうやら僕のいる島を横切っていくみたいだ。
先輩だし流石に挨拶をしないというのは良くないと思ったので、ここはしっかりと挨拶をしよう。
「お、おはようございます」
立ち上がって挨拶をしたが、つっかえてしまった。しかも若干裏返ってた。
はぁ、挨拶にまた苦い思い出が蓄積されていく。
「っ!!、うん、おはよう安田くん」
挨拶をしたら驚かれてしまった。突然立ち上がって、つっかえて、裏返ってのコンボを決めてしまったからだろうな。恥ずかしいわ……
それでも挨拶を返してくれたし優しい先輩だった。「悠木さん」って呼ばれてたからあの人が悠木先輩だということは覚えた。今度挨拶する機会があったらしっかりと挨拶をしよう。
それにしても、何故僕の苗字を知っていたんだろうか。初対面のはずだし……
あぁ、新入社員だから名前を知っていたんだろうな。
それと、若干赤くなっていたような……気のせいかな?
************
【〈竹田〉 来週の火曜日に1on1をするけど大丈夫そう?一応安田くんのスケジュールは確認したけど念のため】
昼休憩が終わって仕事を再開し、担当作業のコーディングをしている時に竹田先輩から個別チャットで連絡が来た。
週に1度、新入社員とOJT担当でミーティングを行い、主に僕の業務についてや会社内での人間関係、会社や部署に対しての要望や僕が困っていることがないかなどについて話しをする。
既に1度行い、始めは身構えていたのだが、竹田先輩の聞き出し方が上手いからか話がしやすかったし、終始リラックスでいられたと思う。竹田先輩すげぇ……
【〈安田〉 火曜日で大丈夫です。よろしくお願いいたします】
【〈竹田〉 スケジュールに予定入れといたから、確認したらOKしておいてね~!】
返信した後にスケジュール表の予定を更新した旨の連絡が来たのでOKを押した。
作業に戻って不明点を調べながら進めていると、開発部のチャット(雑談用)から通知が来ていた。
ちなみに仕事用のチャットは別にあるので公私混同にはならないようになっている。
【〈来宮〉 そういえば安田くん、悠木さんに挨拶しているときキョドってなかった?笑っちゃいけないなぁとは思ったんだけど、ごめんね!】
【〈竹田〉 何ですかそれ!?ちょっと詳しくお願いします!】
【〈横山〉 あー、私も見てたよ!ちょっとつっかえてたね~。悠木さん社内では有名だからビックリしたのかな!?】
ぐはっ!!!
いきなり変なの来た。というか見られていたのか。開発部の人も数人いたしな。
まぁ声は裏返っていたし変な声したら発生源がどこか気になりますよね、ツラい……
そして、僕の苦い思い出となった挨拶を慰めてくれた残りの2人でもある。
【〈安田〉 皆さんがしていたので僕も挨拶しようと思ったんです。初めて見る方だったので誰なんだろうと思っていたのですが、有名な方なんですね】
【〈横山〉 悠木さんのこと知らない人いたんだー。でも入社したばかりだし、ここ最近リモートでの勤務だったから仕方ないか!】
【〈来宮〉 そうだね~。悠木さんは広報部なんだけど、会社のPRや会社説明会、自社サイトのことなどをお客様に広く知ってもらうように発信していってるの。うちで出来るPRについて話し合ってるんだけど、悠木さんの考えるPRが強気で部署の中でも一目置かれているみたい。本人もそんな性格みたいだし、実際それで上手くいっているから凄いよね~!】
【〈横山〉 あの強気な性格は見習っていきたいかな!】
【〈竹田〉 綺麗で格好いいし仕事もできて、尊敬できますね!パーフェクトヒューマンですよ!】
【〈来宮〉 あはははっ!パーフェクトヒューマンとか久しぶりに聞いたよ!懐かしいw】
3人のチャットを見ながら、そんな凄い人がいたんだなと感じた。
僕の座席から3つ島を挟んだ先に悠木さんの座席があるが、確かに仕事できるオーラが溢れているように思える。オーラなんて目に見えるわけないから知らんけども。
でも広報の方々がいるおかげで自社のサイトも広く知られていると考えたら、とてもありがたいことなので心の中でお礼を言っておこう。ありがとうございます。
チャットでの雑談が終わって自分の作業に戻り、本日の作業を終えたところで終業時間になった。先輩方に挨拶をしてから会社を出て、寄り道はせずに帰宅した。
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