第八話③ 真・邪神超越者無双 猛神伝
「ふざけるな」
ジャスティンは遠目から、忌々しそうに舌を打っていた。孤島に追放していた筈のコーシが飛来したかと思ったら、この展開だ。
細心の注意を払って隠蔽した筈のコーシが、何故この場に来ているのか。その辺りからしてさっぱり解らないのだが、それよりも何よりもアホみたいな言葉で、あの二柱が矛を収めようとしているのだ。
二柱の戦いで世界を終わらせようと思っていた彼からしたら、冗談ではない。暗躍がバレてしまった以上、マツリ達は血眼になって自分を探しにくるであろうし、下手をしたらあの二柱を利用してくる可能性すらある。そうなってしまえば、非常に厳しい状況になることが目に見えている。
「……二度も私の計画を潰そうとするとは」
両の手のひらを帰っていく二柱の軍勢それぞれに向けながら、ジャスティンは言葉を吐き捨てた。そして自身の内側に宿った
「【
それは炎等の現象を操る力と無機物を操る力だ。左手の【
「くたばりなさい、チャラ男見習い」
そして互いの力を解放し、両軍の真ん中で邪神と超越者に挟まれている背の低いチャラ男見習いを撃ち抜いた。レーザー光線は間違いなく彼の胸を貫き、そして紅の炎は彼の頭から全身を焼いていく。
これも彼の作戦であった。邪神と超越者とはいえ、元々自分が作り上げたでっち上げの手紙一つで総力を結集させた馬鹿どもなのだ。状況の鍵となっているコーシをそれぞれの武力で持って殺せば、互いの所為だと誤認し再び戦争になるに違いない、と彼は踏んでいた。
「ハハハハッ! ざまあ見ろだッ! これで互いの攻撃だと勘違いした二柱が、再び戦争を……」
「我が名を讃えよ――【
「再集結なさい――【
しかしそんな彼の予想に反して、響き渡ったのは二柱による低い声。直後、空が一気に暗転し、そして割れる。そこから姿を見せたのは、巨大すぎる紅の炎の塊。空を覆っている紅の炎が地表の全てを照らし、世界が一気に紅く染まっていく。大きすぎて、誰もその全貌を見ることができない。
半径約六億一千七百十万キロメートル。質量約二千百八十八
そんな邪悪なる存在が覆っている空を縦横無尽に飛び交う、円盤型空宙両用ドローン、
「「下手人は何処のどいつだ? 出てこないなら、この惑星ごと焼き払う」」
やがて空に浮かんでいる邪神アガトクの透き通るような声と共に、割れた空から垣間見えている巨大すぎる紅の炎から響き渡った、低く、怖気を誘うような声。世界中の全ての生き物が、心臓を鷲掴みにされたかのような心地を覚え、各地で発狂する者が相次いだ。
「心配ありません。すぐに、割り出します。
邪神アガトクに縮み上がっている者が大半の中、超越者であるセイカは一人、冷静に冷徹にドローン部隊に指示を飛ばしていた。彼女の一言で円盤型空宙両用ドローン、
そして
「見つけました。北緯三十六度四十一分、東経百三十九度四十五分にてその存在を確認。身長約百八十センチメートル。体重約七十キログラム。対象個体名『ジャスティン』」
「「そこか」」
「ッ!?」
ジャスティンは上空を見て飛び上がりそうな心地がした。割れた空を覆っている紅の炎の内側から、巨大な眼が現れたからだ。ギョロリと瞳が動き、真紅の角膜に覆われた漆黒の瞳孔が、自分を捉えている。
「て、【
焦った彼は自身の力でもって、惑星の反対側へと逃げた。
「ハア、ハア、な、なんですかあれは……?」
『再スキャン。対象を発見。南緯三十五度四十一分、西経四十度十五分』
「なァッ!?」
「「そこか」」
しかし、空中にホバリングしている
『私はこの惑星の全てを監視しています。逃げられると思わないことですね』
「「加えて、我の本体が降臨しておるのだ。星から出られるとも思うなよ」」
「な、舐めるんじゃないッ!!!」
何処に逃げても見つけられてしまう。惑星ガイアから脱出しようとしても阻まれてしまう。逃げられないと悟ったジャスティンは、すぐに自身の内側に渦を巻いている
そしてその力を両手から放出して球状にまとめていく。それは自身に宿った
「成功率は九十パーセントオーバーだったんですッ! あんな
山に匹敵する大きさとなった、超高密度の高熱エネルギー弾。ジャスティンはそれを一人で制御し切ると、上空のアガトク本体に向けて繰り出した。【
しかもこの魔法は一発限りではなく、吹き飛ばした後に戻すことすら可能な代物だ。手足の如く操れる超高密度の力の塊。ジャスティンの切り札であった。
「これを持ってすればいくら邪神や超越者であろうとひとたまりもないッ! 吹き飛べ、銀河の果てまでッ!!!」
そして放たれた【
「「散れ」」
彼女の一言で、ジャスティンの制御下にあった【
「……は?」
『出し物はおしまいですか? では、次は私です。
信じられないものを見ているジャスティンに構いなく、
「なッ!? い、今の……は……?」
両腕で顔を覆ったジャスティンは、やがて膝から崩れ落ちた。身体に、全く力が入らなくなっている。
『【
「う……あ……?」
「「よくやったセイカ。後は我に任せておけ」」
やがてその場に姿を現したのは、アガトクの分身であった。紅の髪の毛を揺らした彼女は今、宙に浮いてジャスティンを見下ろしている。その背後に、巨大すぎる紅の瞳を携えて。
「「ジャスティンだったか。よくも我のコーシを害してくれたな。挙げ句それを我の仕業に仕立て上げようとするとは……久しぶりに、怒りという感情が湧いたわ。まあ、これはこれで良い暇つぶしになった。その点だけは、褒めて遣わそう」」
「あ……あ……」
「「その働きを讃えて、我が本体が直々にトドメを刺してやる。光栄に思え、神の息吹で逝けることを」」
「あ……や……」
「「さあ、もう一度。我が名を讃えよ――」」
絶望に染まったジャスティンが最後に見たのは、冷たい瞳でこちらを見下ろしている邪神アガトク。そして降下こそしてきたものの、遂にはこちらすら向いていない
「「――【
アガトクがそう言った次の瞬間。宇宙空間に鎮座する本体から紅の炎が落ちてきた。本体からしたら、短く軽く息を吹きかけた程度のこと。この惑星ごと消すつもりではなく、ジャスティン一体を焼き払う為だけの、細心の注意を払った一息であった。
しかしそれを行ったのは、半径約六億一千七百十万キロメートルの赤色超巨星。その一息は太陽フレアにすら匹敵する威力があり、中心にいたジャスティンは何一つ残すことなく蒸発。周囲の大地も全てが蒸発し、溶け、惑星内に燃え盛るマントルの一部があふれ出していた。更にはその余りの威力によって磁気嵐を発生させ、惑星ガイアの地磁気を乱したことで、空にオーロラが発生する。
『なるほど。貴女の正体は意志を持った恒星だったんですね、アガトク』
「お前こそ、なかなか面白い玩具を扱うではないか。超越者というものも、なかなかに愉快よの」
『ところで何故幼くなっているのですか?』
「分身の癖に限度を超えて、本体まで呼び寄せたからな。制限を受けてしまった」
地表ではマグマが噴火し、空にはオーロラが発生しているという幻想的な光景の中で、力の使用制限を超えた為にロリ化したアガトクとセイカが互いを労いあう。
『そうですか。それよりも戻ってきてくれませんか? 業腹ではありますが、コーシさんのことで貴女の力を借りたいのです。急いでください』
「ほほう、お前が我に頼み事とな? 良かろう。コーシのことであれば、協力は惜しまん」
そうしてアガトクは空を飛び、超速でコーシが倒れているアメフラズ砂漠へと戻っていった。大地に消えない傷を残し、ジャスティンという人間の存在の全てを、消したままに。
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