第八話② それロン。ダブル厄満です
(無理無理無理無理無理無理ッ! どっちか選べとか無理っすッ! つーか選んだら戦争じゃねーかァァァッ!!!)
俺っちは必死になって左右を見ながら、どっかで聞いたことのある愛の言葉を放ったっす。右を向いてアガトク様に好きだ。左を向いてセイカさんに好きだ。邪神様と超越者様に向かって、交互にラブを送るっす。
結局馬鹿な俺っちが出した結論は、前やったことの焼き直し。あん時は真上を向いて言ったから不信感を持たれたんす。だから今回はちゃんと目を見て言うんすよ、両方に対して。これなら無問題っすッ!
『戻ってきたかと思ったら何をしてるのだお前はぁぁぁっ!?!?!?』
あっ、マツリから連絡が飛んできた。そーいやバイダから
『うるせえェェェッ! これが俺っちの答えだ、文句あるかァァァッ!?』
『大アリなのだぁぁぁっ!!! お前そんなしょーもない二番煎じで、あの二柱を誤魔化せるとでも思ってるのかぁぁぁっ!? 一瞬でも助けが来たと思ったわたしのトキメキを返せなのだぁぁぁっ!!!』
『んなもん知るかァァァッ! 不満なら地獄で聞くわァァァッ!!!』
その結果なんざ知らんッ! やれることがあるからやりに来ただけッ! 上手く行くかなんて知ったこっちゃねーんすよォォォッ!!!
「…………」
「…………」
あー、この感じ懐かしいっすねー。まるで鋭利な槍をゆっくり突き刺してきてるみてーな、沈黙の視線。左右からビンビン来てるっすよー。久しぶりに膀胱がうねってる感じあるわー。血尿確定っすねー。
「え、えーっと」
恐る恐る。俺っちは恐る恐る二柱の様子を見ることにしたっす。じゃ、まずはアガトク様から。どんな顔して怒ってんのかなー?
「こ、こここ、コーシ……」
「…………」
『…………』
『『……ん?』』
遠目にしか見えねーマツリと顔を合わせた後、二人して首を傾げる。あれれー? 気のせいっすかねー? なんかアガトク様、綺麗なお顔が真っ赤っかになってねーっすかー?
綺麗な二度見かましたけど、何も変わってねーわ。これ現実だわ。遂には自分の腕でご自身を抱きしめてらっしゃるんですけどォォォ?
「わ、わ、我の顔が熱いぞッ!? 炎の化身であるこの我が、何故、こんなッ!? か、仮初とは言え、心の臓腑の高鳴りが治らんッ! ずっと、ずっとドキドキしておって……だ、だが、悪くないッ! お前を見るだけで締め付けられるようなこの心持ちが、むしろ心地よいッ! お前から、目が、離せんのだ、コーシッ!!!」
『『んんんんんー!?!?!?』』
待って。ねぇ待って。全く想像してなかった反応されてね? とうとう
ま、まあなんかの間違いっしょッ! さあて一方で、セイカさんの方はどんな感じで怒り心頭なのかなー?
「コーシ、さん……っ!」
『な、ななな泣いてらっしゃるゥゥゥッ!?!?!?』
『終わったな。お疲れ様なのだ』
あっ、死んだわ。超越者泣かすとか、俺っちこれ以上生存できねーわ。マツリももう全部諦めた顔してるし。あーあ、やっぱ短い人生だったっすねー。セイカさん俺っちのこと解剖とかすんなら、出来れば一思いに殺してからにして欲しいなー、駄目かなー。
……と思っていたら。
「私、良いん、ですか? 貴方から、そんな言葉を、いただいてしまって……だって私、前の夫にも未練があって……忘れたいからなんて、浅ましく貴方を利用しようとしたのに……そんな私なんかに。あんなに、情熱的な……ど、どうしましょうっ!? こ、こんな顔、見せられないわ……っ! でもっ! でもコーシさんになら、私……全てを、曝け出しても……っ!」
『『んんんんんんんんんんー!?!?!?』』
気のせいかなー。泣いていらっしゃるのは間違いねーんだけどさ、何て言うかこう、雰囲気? っつーのが。いやね、俺っちも間違いだとは思いたいんだけどさ。これがさ、いわゆる嬉し泣き、っぽく思えてるんすよ。はい。
『おい、マツリ。これってまさか……』
『し、し、信じられないけど、多分、そうなのだ……』
「そ、そうか。これが、これこそが恋……いや、愛なんだなコーシッ! お前が言っていた気持ちが通じ合うという意味が、身に染みて理解できたッ! 人間はこんなに素晴らしい感覚を持っていたのかッ! これだけでもこんなに満たされていくと言うのに……この後にスケベまであるなんてッ! この気持ちの先など、一体我はどうなってしまうのだッ!? ああっ、あああっ! 怖いのに知りたいッ! お前とこの先にイきたいぞコーシッ! コーシッ! お前が愛おしくて堪らんッ! 堪らんぞォォォッ!!!」
「貴方の想いが、私に届きました。私も、それに、ちゃんとお応えしたいと思いますっ! 一度は前の夫に捧げた全てを、今、貴方にお渡ししますっ! 貴方になら、何をされても構いませんっ! 物のように乱暴にされても、はしたない声で喜んでしまいそうで……ああっ。貴方は経験がありませんでしたね。それならば私がシた方が良いですかっ!? 優しく、たくさん可愛がってあげますから……駄目っ、貴方と結ばれるはしたない妄想が止まらないのっ! ああっ、コーシさんっ! コーシさんっ! 今すぐにでも抱きしめさせてくださいっ!!!」
『『二柱ともご自分に向けた言葉だと盛大に勘違いしていらっしゃるゥゥゥッ!?!?!?』』
待って待って待って待ってッ! えっ、嘘やん。こんなことあるッ!?
いやさ。俺っちもさ。こう、状況とか何も解んねーからさ。ほらッ! この前ん時もさ、なんかこう、二柱とも「まあ、お前が言うなら……」みてーな感じで、渋々っつー勢いだったじゃん?
だから今回もそんな感じで取ってもらって、とりあえずこの場では矛を収めてくれたらいーなー、くれーの心算だったのよ。
「決めたぞッ! 我は必ずお前を手に入れるッ! 一緒に本体のところへ行って挨拶するぞ、コーシッ!」
「もう貴方と生きることしか考えられないのっ! ずっと、ずっと私と共に生きてください、コーシさんっ!」
(それがまさかダブル役満決めるとか想定が場外乱闘しとるわァァァッ!!!)
駄目っす。惑星の命運がかかった軍事衝突一歩手前の今以上の、ヤベー状況に持ち込んじまったとしか思えねーんすよ、これ。
「し、信じてくれるん、すか……?」
「当たり前だッ!」
「当たり前ですっ!」
スゲー、返事きたー。別に叫んだ訳でもねーのに、ちゃんと二柱に届いてらー。
「彼ぴっぴを信じるのが彼女である我の役目だからなッ! 何より……」
「新しいあなたを支えるのが、妻である私の勤めですから。何よりも……」
えっ、何? お二方をして何よりもー、なんてさ。まだなんかあんの?
「この前のこともあったし、コーシに限ってそんなことはないからなッ!」
「この前のことがありましたから、コーシさんに限ってそんなことはありませんよねっ!」
「…………」
俺っちに限って、そんなことない? この前のことが、あったから?
「……ん?」
待って、お待ちになって、待つのです、待てって、待てや、待てっつってんだろ。さっきさ、俺っちが放った妄言をさ、二柱が盛大に勘違いしたって言ったじゃん?
でもさ。これさ。なーんか違う気がすんのよ。もっと最悪な方向に。
『ま、ままままさか……』
『わたしは確信したのだ。二柱は、勘違いしてるんじゃないのだ』
「お前を信じているぞ、コーシ」
「あなたを信じています、コーシさん」
『『二柱ともこの前のことがあったからこそ、自分に向けた言葉だと信じようとしてくれてるゥゥゥッ!?!?!?』』
つまりはこういうことっす。俺っちが以前、どっちとも取れない形で誤魔化した時のことを、二柱は覚えていらっしゃる。その上で、まさか俺っちが二回もおんなじことする訳ねーと考えたら、もう自分に向かって告白してくれたと考えるしかねーっつー……。
『二度目の浮気現場を現行犯で押さえた上で、それでも咄嗟についたお前の嘘八百の言い訳を信じます、って言ってくれてるみたいな状況だが……そんな健気な彼女らに対して、お前はどう思ってるのだ?』
『血尿ォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』
二柱とも純粋な気持ちで俺っちのことを信じてくれてるんすけど、こんなに良心が痛むことある? 俺っち初めてッ! 膀胱もそうだけど、何よりも心が痛いッ! 割れそうッ!
誰か助けて、マジで。
「つ、伝わったみてーで何より、っすねぇ。と、とりあえずその物騒なモン、片付けねーっすか? ほら。ムードとか、大切にしたいっすし……」
真上を見ながら、俺っちは震える声で言ってみたっす。何はともあれ、とりあえず両側にある、惑星を無に帰せる戦力を片付けて。それも心臓にワリーから。
「おおっ、そうだなッ! お前との営みに、炎の精など無粋だッ! 帰れお前らッ!」
「そうですね。こんな仰々しいのは駄目ですよね。続きは寝室で……きゃっ。【
それと共に、両側に存在してたヤベー奴らが帰還を始めてるっす。よ、ヨシッ! とりあえずこの場は何とかなったッ!
『た、た、助かっ……』
「さあコーシッ! 我の元へ来いッ! もう我慢ならぬッ! 今すぐにでもスケベするぞッ!」
「コーシさんっ! 私はここですっ! さあ、飛び込んできてくださいっ!」
「ああ? 何を言っているセイカ。コーシは我に告白してくれたんだぞ? 何を勘違いしておる?」
「貴女こそ何を言っているんですか? コーシさんは私に告白してくれたんですよ? 勝手に解釈しないでください」
『……てないぞこれ。お前の言葉次第じゃ即滅亡だぞ。コーシ、この後どうするのだ?』
『どーしよー、俺っちわかんなーい???』
問題はこっからなのよ。二柱がもう別の意味でヤる気なのよ。でもどっちかに行ったらその瞬間、もう片方が激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームが確定なのよ。惑星滅亡のバッドエンド付きで。
『そ、そ、そーいえばジャスティンの奴はどーしたんすか? 俺っち、アイツに色々……』
『っ! そ、そうだっ! ジャスティンなのだっ! 今回のことは全部、アイツが元凶だぞっ! その上に
現実逃避で話でも変えてみよーかと思ったら、まさかの真実が。えっ、何。ジャスティンが全部の元凶? アイツ、俺っちのこと心配してくれてたんじゃねーの?
『でも何処にいるのか見当も……こうなったらコーシ、二柱にジャスティンを探すように頼んでくれないかっ!? 彼女らなら絶対に見つけてくれる筈なのだっ!』
『えっ? い、いやいや。こんな状況で頼み事なんざ無理……』
『お前の身体でも童貞でも何でも良いから、出せるもんを出せ。どうせ何もしなかったら死ぬのだ。さっさとしろ』
何この有無を言わせない感じ。遂にはマツリの奴、開き直ってない? もう死んでも良いわって達観してない? 気のせい?
「え、えーっとっすね、その。告白はともかくとして。俺っち、実はお願いしたいことが……」
二柱の軍勢もほとんど帰り終わりそうになった頃。おずおずと俺っちが切り出した次の瞬間。突如として異音がしたっす、しかも左右から。
「へ? ガッハッ!? ぐぁぁぁあああああああッ!?!?!?」
俺っちが首を捻った次の瞬間。胸をレーザー光線で貫かれるのと同時に、頭に直撃した紅の炎が俺っちを燃やし始めた、っす。あ、アガトク、様? せ、セイカ、さん……?
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