第八話① チャラ男見習いの決断は、どっちッ!?


「痛ったァァァッ!!!」


 バイダによってぶっ飛ばされた俺っち。ものすんげー勢いで頭から落下したけど、砂に頭が埋まったくれーで何故か生きてる。ようやく抜けた時の首の痛みはヤバかったけど、そんだけだったっす。

 固有能力パーソナルスキルも発動しねーまま確実に即死すると思ってたのに、何で無事なんすか? その辺はバイダが良きにはからってくれたとか、そんなオチ?


「でもあの野郎だけはゼッテー許さね……」

「コーシッ!!!」

「コーシさんッ!!!」


 あのロン毛をどうやって毟ってやろうかと考えていたら、俺っちを呼ぶ声が右耳と左耳から聞こえてきたっす。ステレオみてーな感じだなーと思いつつ、まずは右を見やる。


「何処行っておったのだッ!? 心配したんだぞコーシッ! だが心配するなッ! 遅刻した彼ぴっぴとやらを許すのも彼女の役割だと少女絵巻にあったからなァッ! 我は寛容だぞッ!」

「    」


 視界を埋め尽くす程の炎の精。人型のものから獣みてーな形まで、多種多様の炎の精があなたをお待ちしておりますっつー感じ? 挙げ句、声の主であるアガトク様はなんか宇宙戦艦みてーな乗りもんに乗ってんすけど、何あれ? あれも炎で作ったの? 嘘やん。

 全くを持って俺っちの常識が通用しねー光景だった右側。これ以上の異常なんて早々ねーだろーなー、なんて思いつつ、恐る恐る左側にも目をやってみるっす。


「心配したんですよっ! 全然来てくれないから私、私っ! でも、会えない時期があって、やっと私も心が決まりましたっ! 私は貴方と共に生きていきたいんですっ! これが、私の気持ちなんですっ!」

「    」


 視界を埋め尽くす程のドローン。以前俺っちに銃口を向けてきた円盤型のドローンだけでもやべー数なのに、象みてーな形したあれは何? 挙げ句、声の主であるセイカさんは、ありえねーサイズの巨大人間型メカのコックピットに乗ってんだけど、何あれ? サイズ感ミスってない? ガン●ムでももうちょい控えめじゃなかった? 嘘やん。

 左右の光景を把握して、俺っちは改めて、今自分が何処にいるのかを思い知ったっす。ここは戦場。邪神アガトク様と超越者セイカさんがそれぞれの全力を持ってしてぶつかろうとしている、神々の戦いの舞台のど真ん中。


(言葉が出てこねェェェ……ッ!!!)


 あまりの状況に、一瞬で思考停止に追い込まれる俺っち。いや、おい。俺っち、どんな場所に飛ばされちまったの? これがラグナロクの光景なの? 地獄だってもうちょい優しい気がすんだけど。


「まあ安心しろ、コーシ」

「少し待っていてくださいね、コーシさん」


 何も言えねーでいた俺っちに対して、二柱が声を上げるっす。


「今からコイツを始末するから……」

「今からこの邪神を処理しますから……」

「待ってェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!!」


 思考停止してる場合ですらねェェェッ!!! マジで戦争五秒前じゃねーかァァァッ!!!


「どうしたコーシ? まさか我が負けるとでも思っておるのか? 全く、愛い奴め。前にも言ったが、我を誰だと思っておる。お前の神は負けたりせぬ。大船に乗ったつもりで堂々としていろ」

「違うのアガトク様、俺っちそういう心配してんじゃねーのォォォッ!!!」


 フフン、と得意げな顔をされているアガトク様っすけど、俺っちの心配はそこじゃねーんだよ。つーか心配以上のなんかよく解んねー心地に苛まれてるのォォォッ!!!


「心配してくださっているんですね。もう、コーシさんったら。私は貴方の先生ですよ? 生徒に心配される程、先生はヤワじゃありませんっ! もっと頼ってくださいな。それに私達……今以上の関係に、なるんですから」

「違うのセイカさんっつーか貴女の中で俺っちとの関係って何処まで進んじまってんのォォォッ!?!?!?」


 きゃ、って両手で頬を覆ってるセイカさんっすけど、俺っち一体貴女の中でどういう存在になっちまったんすかッ? 会えない間が二人の気持ち高め合ったとかそーゆーのなのッ!? 俺っちは全く盛り上がってねーんすけどォォォッ!?!?!?


「こ、コーシ。お前、何で?」

「あっ……マツリ」


 現実逃避の一つでもしようかと目線を正面に向けたら、遠目にいた集団の中にマツリの奴がいるのが見えたっす。そっか、オメーもここに、来てたんすね。


「お前はもう、帰って良いって、言ったのに……来て、くれたんだなっ!」


 遠くて声は聞こえなかったけど、どんどん嬉しそうな顔に変わってってるマツリを見てたら、不思議と何か落ち着いてきたっす。両側の光景がヤバ過ぎて頭が沸騰しそうだったんすけど、ね。


「……俺っち、言いたいことがあるんすッ!!!」


 冷静になれたお陰で、俺っちも心が決まったっす。この状況下に何を言おうかって全然解んなかったけど、何かスッと、こうしようって思えたっすから。その点はサンキューっす、マツリ。ま、別にオメーの為に戻ってきた訳じゃねーんすけど。

 俺っちは思いっきり息を吸い込んだっす。よーく聞いておくんすよー。この危機を乗り越える俺っちの妙案を。勢いを。想いをッ!!!


「好きだァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」


 これが、俺っちの答えっすッ!!!



「好きだ、好きだ、好きなんだァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」


 飛来したコーシが声を上げる。その場にいる誰もに聞こえるように、精一杯の大きな声で。


「俺っちは貴女が好きっすッ! マジラブっすッ! 愛してるんすッ!」


 それはとても陳腐でありふれた、愛の言葉。物語で、絵巻で、誰もが見たり聞いたりしたことあるようなもの。人によっては、直接言われたことすらあるくらい、誰もが親しんでいるフレーズ。


「俺っち、ホント馬鹿でッ! 全然良い言葉が見つかんねーからッ! 何度でも言わせてくださいっすッ! 好きだッ! 好きだッ! 貴女が好きなんだァァァッ!!!」


 でも、だからこそ心に響くような言葉。みんなが知っている言葉だからこそ、その意味が解らない者などいない。自分の気持ちを真っすぐに、ただただぶつけてくるような、そんな馬鹿で不器用な男の想い。

 その場にいる誰もが、目を見開いていた。


「愛してるんすッ! 俺っちとずっと一緒にいて欲しいっすッ! 心の底から貴女が好きだァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」


 両軍の間で愛を叫んでいる一人の男。その光景に、言葉に、一同が息を呑んでいた。内側から溢れ出てくる想いを、それぞれの胸で感じてしまっていたから。

 そしてもう一つ、誰もが感じていたことがあった。一部を除いて、その場の全員の思考回路が一致する。それは強烈でいて、酷く単純な疑問だった。彼の想いも何もが、霞んで見えるくらいの違和感。


(((それはどっちに向けて言ってんの……?)))


 コーシは必死になってブンブンと首を左右に振りながら、喚き散らしていたのだ。右を向いては好きだ、左を向いては好きだ。また右を向いたかと思えば、今度は左を向いている。

 彼が何処に向けて、誰に対して言葉を投げているのか、一部を除いて、誰も解らなかった。

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