第七話③ 可能性は一とゼロの間
「本来は私が
ジャスティンは吠えた。長年抑え込んできた鬱屈した気持ちを、これでもかと吐き出している。
「努力の有無に関わらず、出来る奴だけが認められていく。おかしいじゃないですかッ!? こちとら必死になって時間を割いて、ずっとずっと研鑽してきたって言うのに……ポっと出の天才なんかに、全部持っていかれたんですよッ!? 地位も、名誉も、人望さえもッ! 何もかもが才能だけで決まるなんて、頑張った人が報われないなんて……間違ってんだよォォォッ!」
いつもの丁寧な口調すらも乱す勢い。その場にいた全員が、息を呑まざるを得なかった。ずっと真摯に、真面目に取り組んでいた筈の青年が、その内側に秘めていたどす黒い思い。マツリは鳥肌が立つことすら感じていた。
「だから、こんな世界ぶっ壊してやるんですよ。一度間違った世界なんて直せない。全部綺麗になくしてから新しい世界を創る方が手っ取り早いですからね。二柱によって荒廃した世界に、私が降り立ちましょう。努力が認められる世界を。頑張った人が笑顔になれる世界を。この力ならできます。私が、やり直します……だから、【
そこまで話した時に、ジャスティンはニィィィっと口角を上げた。そして次の瞬間には、彼の姿は忽然と消えてしまう。
「貴方達はくたばりなさい。革新派の皆さんも、お疲れ様でした。もう死んで良いですよ。どうせ私が手を下すまでもなく、二柱を止められる術はないッ! 残りの寿命を、精々家族とのお別れにでも使うことですね……ハーッハッハッハッハッハッハッハッ!!!」
「ジャスティンんんんんんッ!!!」
高笑いだけを残して。やがてマツリの叫び声の残響すら消えてなくなった後、その場に残された面々は一気にパニックに陥った。
「お、終わりだ……もう終わりだッ! みんな、みんな死んじまうんだッ!!!」
「お、おいッ! 革新派にいれば俺達は助けてくれるんじゃなかったのかッ!? 話が違うぞッ!?」
「冗談じゃないッ! こんな所に居られるかッ!!!」
絶望する者、叫ぶ者、逃げ出す者。革新派の面々も含めて統制が取れなくなった集団は一気に瓦解を始め、バラバラになっていく。
「っ!
そんな中でも、マツリは叫んだ。残された
「マツリ様ッ!? い、今さらチャージを始めて、何を……?」
「決まってるのだっ! まだ終わってなんかないっ! 滅びるギリギリまでチャージをして、あの二柱を吹っ飛ばすのだっ! 可能性はゼロじゃないっ!!!」
彼女は諦めていなかった。長年溜め込んだチャージはなくなってしまったが、まだ惑星ガイアの力の全てが奪われた訳ではない。ならば、今からでも溜め込めるだけ溜め込んで、【
それが例え、砂粒にすら満たないくらいの可能性だったとしても。
「まだなのだっ! まだ諦めないのだっ! 今からだって、わたし達みんなが助かる可能性に賭ける……」
「準備は終わったぞセイカァァァッ!!!」
『こちらもいつでも良いですよアガトクッ!!!』
しかし、そんなマツリの耳に届いてきたのは、二柱からの咆哮。無数の炎の精を従えて、今にも襲い掛からんと紅の炎の勢いを増しているアガトク。超巨大人型戦闘用ドローン、
最早、開戦しない方がおかしいくらいの、互いの勢い。
(ダメ、なのか? このままわたし達は二柱の暴威に飲み込まれて、誰も彼もが、死んじゃう、のか……?)
マツリはそこで初めて、絶望を顔に宿した。つい先ほど始めたばかりのチャージでは、まだ成功率はゼロパーセントのままだ。万が一、億が一ということすらあり得ない。
だが、戦争はもう始まるという。消えたジャスティンの行方を追う暇もなければ、チャージを待つ暇もない。打つ手が、見当たらない。
「……いや、だ」
マツリの瞳からは、涙が溢れた。もう、限界だった。
「いやだ、いやだっ! みんなが、優しいみんなが死んじゃうなんていやだっ! わたし達が一体何をしたって言うんだっ!? ただ生きてきただけじゃないかっ! お前達からしたらただの喧嘩かもしれないけどなぁっ! わたし達はその余波だけで死んじゃうんだぞっ!? 死んじゃったらもうお終いなんだぞっ!? やめろっ! やめてくれっ! わたしが何でもするからっ! 何だってやるし、何でもあげるし、一生奴隷になっても良いからっ! 何されたって文句は言わないし、出せるものは何でも差し出すからっ! だから……やめて、くれ……やめて、やめて」
次第に涙で小さくなっていった声は、二柱には届かない。
「全ての炎の精に告ぐッ! 我こそが、目の前の超越者とか言う下等種族を焼き払う神だッ! 我が名を讃えよ――」
「【
「や、やめろ、やめろ……やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ」
アガトクは全てを燃やし尽くさんと炎の勢いを増し、セイカは全てを蹂躙せんとドローン部隊への行軍指示を出す。この場にいる者では、最早、止められない。
うわごとのように拒絶の言葉を繰り返していたマツリは、やがて、自分の中で何かが切れたことを感じた。息を大きく吸い込んで、叫ぶ。この現実をも、振り払うような勢いで。
「やめろぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
彼女の叫び声が戦場に響いた直後。空に一粒の光がきらめいたかと思うと、物凄い勢いで何かが飛来する。
「……ぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!?!?!?」
何事かとアガトクとセイカ、そしてマツリが一斉に顔を上げた瞬間。それは叫び声と共に異常な速度でこちらへ向かい、そして。
「ギャァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
二陣営の中間地点に落下した。それは金色の頭をツンツンに逆立て、シークレットブーツで身長を底上げしている背の低い男。マツリが召喚し、二股を強制させたチャラ男見習い、コーシだった。
頭から砂の地面に突き刺さった彼は、首から上が砂の中に埋まっている。
「んーーーッ! んーーーッ!?!?!?」
「「「 」」」
それを必死こいて抜こうとしているコーシの一方で。周囲の誰もが予想していなかった彼の到来とその姿に、一同は開いた口を閉じることができなかった。
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