第五話④ 緊急事態宣言、探せチャラ男見習いを
「マツリ様ァッ! 北極の大地で異常な熱源体がッ! 更には南極の方にて山かと見間違う程の巨大な人工物が動き出しているとの報告が……」
「各地で台風や竜巻、津波に地震等の異常気象が確認されていますッ! このままでは民達の被害も……」
「た、大変ですッ! 民の一部が暴動を始めましたッ! 状況説明の為にマツリ様を出せと抗議の声が……」
「うるさいのだぁぁぁっ!!! 順番に対応するから、ちょっと待つのだぁぁぁっ!!!」
いや、理由は単純である。邪神と超越者のご機嫌取りを任せていたコーシが、忽然と姿を消してしまったのだ。
しかも何故か、邪神アガトクも超越者セイカも、コーシがいなくなったのは互いの所為だと思っているらしく、互いを目指して進軍を開始している。
この惑星を容易に破壊できる戦力を持った彼女らがぶつかりでもしたら、一体どうなってしまうというのか。マツリは考えるまでもなかった。
「コーシの馬鹿は一体何処に行ったのだっ!? 探知にも引っかからないなんて意味が解らないのだっ! 本当は邪神か超越者が抱えているのではないのかっ!?」
「そ、それが。状況を確認させに行った部下の報告では、互いの軍の中にはコーシらしき人物の存在は確認できなかった、と」
コーシがいなくなったと聞いた際に、マツリは即興で
しかし部下からの報告では、邪神と超越者の元にコーシの存在は確認できない。いや、自分達以上の力を持つ彼女らが本気を出せば、人間一人を隠しきることなんて容易なのかもしれない。
だがそれであるならば、互いが互いを目指して進軍しているこの状況こそ不可解だ。片方がコーシを抱えているのであれば、進み合うのではなく逃げる側と追う側になる筈だ。
その間にも民の避難や苦情対応等、やることは幾重にも折り重なってきており、最早息をする暇すらないくらいの勢いであった。
「マツリ様ッ! もう撃ちましょう、【
やがてマツリに進言してきたのは、ジャスティンであった。
「この状況下、最早一刻の猶予もありませんッ! もう成功率は九十パーセントを超えていた筈ですッ! 今こそご決断をッ!」
「し、しかしだ。まだ確実と言えるレベルではない。それに二柱は今、怒髪冠を衝く勢いで怒っているのだぞっ!? 万が一失敗してしまえばこちらの打つ手がなくなるうえに、あの戦力がわたし達の方を向く可能性だってあるっ! 失敗は許されないのだっ!」
ジャスティンの意見に賛同する者も多い中、マツリはそれでも否だと返した。彼女の中では、絶対に失敗できない大仕事だ。何なら百パーセント確実と言える時に行わなければならない。
チャンスは一度切り。だからこそ、彼女はギリギリまで粘るつもりであった。民のみんなを、守る為にも。
「しかしこのままの状況を続ける気ですかッ!? ぶつかる以前の今、天変地異によって民に被害が出るのも時間の問題ですッ!」
だがジャスティンの言うことも、もっともだ。危機的状況に陥ってしまった今、少しでも早く状況を改善して安心を得たいと思ってしまうのも、また人情。九割以上の確率で成功するのであれば、もう実行すべきだという意見は、確かに説得力があった。
それに邪神と超越者がぶつかる以前の今、異常気象と天変地異によって集落も大打撃を受けており、外は助けを求める声で溢れかえっている。ここで決断してしまうこと自体も、間違いではないのだ。
「とにかくっ! すぐに考えるから、みんな持ち場に戻るのだっ! ジャスティンは民への説明をお願いするのだっ!」
「マツリ様ッ!!! 今はもう即断即決の時で……」
「うるさいのだぁぁぁっ!!! すぐ決めてやるから、とっとと持ち場につくのだぁぁぁああああああああああああああああああああっ!!!」
遂に限界がきたマツリは、立ち上がって大声で叫んだ。先ほどとは比べ物にならないくらいの絶叫だった。ジャスティンを含めその場にいた全員が息を呑み、続けてキッとした視線を周囲に送ったマツリの様子を見て、いそいそと持ち場へ戻っていく。
それを確認したマツリは、息を一つつくと、椅子に座りなおして背もたれにもたれる。
(もう、賭けに出るしかないのか? みんなの命を背負った、賭けに)
「よー、マツリサマ。何やら大変そーじゃねーの」
もたれたままに瞳を閉じていたマツリは、再び声をかけられた。地面につきそうなくらいの長い白髪を揺らした男だったが、マツリはそれがバイダだと解った。彼女はすぐに目を開くと、彼に向って怒鳴りつける。
「何を呑気なことを言っているのだっ? こんな状況下でまで、まだ
「まーまー落ち着けよ、マツリサマ。怒ると可愛い顔が台無しだぜ?」
「誰の所為でこんなことになってると思っているのだぁぁぁああああああああああああああああああああっ!!!」
再び絶叫したマツリの様子に、周囲の人間達はビクッと身体を震わせる。そして触らぬ何かに祟りなしとそそくさと彼女から遠ざかっていく輩が多い中、張本人であるバイダだけはニヤニヤとした笑みを崩さずにいた。
まるで、そんなマツリの様子を楽しんでいるかのように。
「そんなもん、あのコーシの所為に決まってんだろ。何なら今からでも苦情言いに行くか?」
「お前……は?」
そんなバイダの様子に再び怒りが沸き上がってくるものを感じたマツリであったが、次の彼の言葉に一気に引き込まれてしまった。
「お、お前まさか、コーシが何処にいるのか知ってるのかっ!?」
「ああ、知ってるぜ。下手人が誰なのかも、全部なぁ」
「言えっ!!!」
立ち上がったマツリはバイダの胸倉を掴んだ。今一番欲しい情報を、この男が持っているというのだ。問い詰めたいことは山ほどあるが、しかし今はそれよりも何よりも、コーシの居所を知ることが第一であった。
「すぐに教えるのだ。だが嘘はつくな? もし嘘だったら、お前の首から上は胴体と永遠におさらばさせてやるのだ」
「まーまー落ち着けって、顔がこえーよマツリサマ。嘘なんかつかねーし、ちゃんとコーシの元に送ってってやっからよー。とりあえず、
「……解った、のだ」
「そーそー。女の子はおしとやかにしてるのが一番だぜ?」
事は一刻を争うというのに、余裕そうな表情を崩さないバイダに怒りを覚えずにはいられない。しかしここでこの男の機嫌を損ねてしまうと、情報を得られない可能性すらもある。手がかりがない以上、今は藁にも縋る思いだった。
マツリはイライラした気持ちを無理矢理抑え込んだまま、周囲にはすぐに戻ると言い残して、長ったらしい髪の毛を揺らしているバイダの後についていくのであった。
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