第五話② 都合の良い消耗品の反乱
「は? えっ? な、なーに言ってるんすかジャスティンッ!」
俺っちは努めて明るい声を上げたっす。さっきの言葉が、信じられなくて。
「寵愛の星に生まれた俺っちじゃねーと、あの二柱の相手はできねーんでしょ?」
「そうなんですけど……その寵愛の星の元に生まれたのは、貴方だけではないからです。最初のマツリ様のお言葉を、覚えていらっしゃいますか?」
なんすか、それ? 寵愛の星の元に産まれたのは、俺っちだけじゃない? それにマツリに最初に言われたことって、確か。
『……成功なのだ。"また"寵愛の星の元に生まれた男性を、引っ張ってくることに成功したぞっ!』
今思い返してみれば、あのまな板は確かこう言っていた。寵愛の星の元に生まれた人間を、また、引っ張ってきたと。
続けざまに思い出されるのは、アガトク様とセイカさんとの最初の会話の時。そう言えば、あの二柱も似たようなことを言ってはいなかったっすかね。
『……なるほど、また違う輝きがある。お前も寵愛の星の元に生まれておるな?』
『全く。今度の方は大丈夫なのかしら……?』
お前も、とアガトク様はおっしゃってたっす。今度の方は、とセイカさんも言ってたっす。今までのやり取りとジャスティンの言葉から、馬鹿な俺っちでも解る事実。
つまり。俺っち以前に誰かが二柱の元へ向かっていたということっす。
「お、俺っち以外にも、アガトク様とセイカさんのとこに行ってたってことなんすかァッ!?」
「そうなんです。コーシさん、貴方は確か三人目です」
俺っちは多分三人目だと、ジャスティンは言ったっす。前任者が、二人もいたなんて。
「ち、ちなみにその二人っつーのは?」
「最初の方は、邪神アガトクの機嫌を損ねて取り込まれました。二日くらいだったと思います。次の方は一週間くらい保ったのですが、超越者セイカに言い寄って原子レベルで分解されたと聞きます。跡形も残っていないので、多分なんですけど」
しかも殉職されているとのお話。うん、あの二柱ならやりかねないっつー内容だっただけに、変な納得感があるっす。
それよりも何よりも、俺っちの中には一つの予想があったっす。自分というものを、マツリ達がどう思っているのだろうか、という点について。
「じ、じゃあもしも、もしもっすよッ!? もし俺っちが失敗して死んじまったら……」
「……新しい方を【
「ッ!!!」
ジャスティンの言葉に、俺っちは頭をトンカチで殴られたかのような衝撃を受けたっす。俺っちが死んでも、他の人を呼ぶだけ。それってつまり、俺っちなんかどうなっても知ったこっちゃないっつー話っす。
二人の前任者と同様に、役に立っている間はよいしょされるけど、役に立たないなら、はいお終い。そんなもん、使い捨ての消耗品と何が違うっつーんすか?
「そ、そんなん……」
「マツリ様は都合の良い言葉でコーシさんをその気にさせて、無茶苦茶なことをやらせているだけなんです。こちらの世界が滅亡するかもしれない、という危機なのは解っています。それでも見ず知らずの人を使い潰すようなこのやり方が、私は、本当に嫌なんですッ!」
やがて、ジャスティンが声を荒げたっす。普段の温和でしっかりしているようにしか見えねー彼の叫び声に、思わずびくっとしちまったっす。
「コーシさんは今までの方以上に、あの二柱相手に時間稼ぎをしてくれています。死の淵から戻りたい為とは言え、こんな見ず知らず私達相手に命懸けで尽くしてくれている……チャージだって、もう充分な筈なのにッ! そんな貴方を、これ以上、辛い目に遭わせたくないんですッ!」
「ジャスティン……」
自分の内に湧いた悔しい思いやムカつく思いよりも何よりも、ジャスティンの剣幕に押されちまってるんすけど……でもコイツが、俺っちのことで怒ってくれてるっつーのは、何となく解ったっす。
「……だから、逃げましょう」
「えっ?」
と思ってたら、ツカツカと寄ってきて俺っちの両肩を掴んだジャスティンからそんな提案が。えっ、何? 逃げる?
「に、逃げるって、何処へ……?」
「あの二柱に、そして何よりもマツリ様にバレない場所にです」
「そ、そんなことしていーんすか? 俺っちが時間稼ぎしなきゃ、【
「もう充分な筈です。私がマツリ様を説得し、事を済ませます。そうすれば貴方の契約も満了となり、元の世界に帰ることができますから。コーシさんを、これ以上苦しめる訳にはいきません」
真っすぐと俺っちを見てそんなことを言ってくるジャスティン。
い、いや、その。イケメンにそんなに真っすぐ見つめられると、照れちまうんすけど……。
「それともこのままで良いんですか? マツリ様に言われるがまま、消耗品として体よく使われるままで?」
「そ、そりゃ俺っちだって、んな扱いされてたのはムカつくけど……」
「なんの弾みで殺されるかも解らないまま、邪神と超越者なんかに板挟みにされ続けるままで良いんですか?」
「ま、まあぶっちゃけ最近しんどくなってきたのは、実感してたっすけど……」
「今こそ、自分で決める時なんです、コーシさんッ!」
矢継ぎ早に畳みかけてくるジャスティン相手に、俺っちはしどろもどろになっちまったっす。
いや、うん。確かにジャスティンの言う通りなんすよ。いくら死ぬ間際だからって、あんな化け物と二股しろだなんてヤベーこと強制させられて。
しかもさせた方は俺っちにしか頼めないなんて言っておきながら、その実こっちを消耗品扱いで。失敗したら他の奴呼ぶ気満々とか、こっちからしたらふざけんじゃねーよって案件な訳で。
チャージも百パー完璧とまではいかねーにしろ、もう充分なくれーまでいってんなら、そんな扱いしてくる輩共にこれ以上俺っちが身体張ってやってやる義理もない訳だし。ジャスティンがその辺を説得してくれるんなら、俺っちはもうどっかで事が終わるのをゆっくり待ってたって良いっすよね?
「……そー、っすね。俺っち、もう、頑張ったっすよね?」
「はい、貴方は本当に頑張ってくださいました。後は私に任せてくださいッ!」
何よりも、もうやめたいと思うくれーしんどかったんす。毎回毎回限界まで頭を捻って嘘八百と誤魔化しを並べ続ける日々が。
そんな日々から解放されたいって、思っても良いんすか? しかも後事を頼める人までいる。俺っちの頑張りを認めて、許して、もう良いよって言ってくれるコイツが。
だったら、もう……。
「……俺っち。逃げて、良いっすか?」
「もちろんですッ! さあこちらにッ!」
「えっ? 今からっすか?」
「善は急げですよ。今ならマツリ様もいませんし、見咎められる可能性も低い。準備は済ませてありますから」
「そ、そうっすか? そんなら、よろしくっす」
「いえいえ、こちらこそッ!」
そのまま俺っちはジャスティンに連れられて慣れてきた
まあ、もう、何でも良いや。俺っち、もう頑張らなくてもいーみてーだし。帰るまでゆっくりさせてもらおっと。睡眠チャレンジとかしてーっすね、人間は一日でどんくれー寝れるのかってゆーやつ。呼び出しもなくなるんならぐてーっと寝てても良い訳っすし、終わったらちゃんと元の世界にも帰れる。
俺っちがいなくなったらアガトク様とセイカさんが何するか解ったもんじゃねーけど、その前に【
俺っちはもう、頑張らなくてもいーんだから……。
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