第五話① 凍り付いたチャラ男見習い(通常時より身長マイナス五センチ)


 しかし、しんどい。俺っちの現状を一言で表すなら、これに尽きるっす。理由は明白、アガトク様とセイカさんの所為っす。

 互いが互いを認識したあの日から、お二方のアプローチが一気に始まってきたんすよ。


「コーシ見ろッ! これが我のパンチラだッ! ときめいて良いのだぞッ!?」

「履いてなァァァいッ!!!」

「おっと、ぱんつとやらを生成するの忘れておったわ」


 アガトク様は少女絵巻の全てを読破しそうな勢いで情報収集をしているらしく、そこから得た知識で俺っちに対してアピールしてくるんすよ。でも彼女ね、男女の機微とか女性としての恥じらいとか、そーゆー観念が一切ねーの。

 元々が性別もなく、個として完成してる存在から致し方ない部分はあるんすけど。それでもパンチラを見せるぞと勢いよくスカートを捲ったら何も履いてなかった時の俺っちの心は、唖然以外の何物でもなかったっす。


 うん、女性の大切な部分を生で初めて見たんすけど、いきなりすぎてドキドキするとか以上に茫然の感情しか来なかったっすね、アレ。


「あっ」

「おっと。だ、大丈夫っすか、セイカさん?」

「は、はい、コーシさん……ん」

「さ、さあッ! 怪我がなかったんなら立ち上がるっすよーッ!」


 一方でセイカさんなんすけど、スキンシップが目に見えて増えたっす。俺っちの方に向って倒れてくることも多いし、何ならこの前は床に押し倒される勢いっしたからね。ご丁寧にキスできそうなくらいまで顔を近づけてきて。

 相変わらず講義はしてもらってるんすけど、もう密着しながらのお勉強が当たり前になりつつあって、良い香りとおっぱい様の柔らかい感触の所為で最近は全然身が入らねーっす。


 いやむしろ、セイカさん教えるペース落としてない? 講義が終わらないように調整とかしてない、気のせい?


「    」


 そして現在。俺っちは大王宮キャッスルの自分の部屋で死んでるっす。いや、生きてるんすけどね、死にそうな勢いで倒れてるっつーか、ピクリとも動きたくねーから死んでるのと同義っぽいとか、うん、察して。

 今日は珍しく二柱との約束がねー日なの。マツリの奴も悪用されないようにと、星の神子メシア権限で封印してる惑星源流ガイアフォースを確認しに行くとかでいねーし、俺っちからしたら魂の休日なの。なんも考えずにグデーっとして英気とかそーゆーもんを養いてーの。まあ、どっちかがなんかし始めたら連れて行かれることになるんだろーけども。


「……しんどい」


 っつー訳で、俺っちは今しんどいんす。お互いの女性と仲良くしつつも一線だけは超えないように、そして互いに不義理にしねーよーに上手いこと調整し続けて毎日毎日血尿を垂れ流し続ける日々。ぶっちゃけ、もうキツイ。

 嘘はついてねーけども、口八丁でお二方からの好意をかわし続けてる現状が、マジでしんどい。誰も手伝ってすらくれない中、独りぼっちでこんな思いしてまで生きなきゃいけねーのかとか、最近は思い始めてる始末っす。チャージはもう少しで終わるって聞いてるけど、もう良くね? 良いじゃん、もうやっちゃえば。


「コーシ様、いらっしゃいますか?」

「うん? 誰っすか?」


 ぐちゃぐちゃと頭の中で考えてたら、部屋がノックされたっす。誰かと顔を上げてみれば、そこにはマツリの助手である七三分けの眼鏡君、ジャスティンの姿が。


「失礼します。すみません、お休みのところ」

「あー、うん。別に何もしてねーから、別にいーっすよ」


 ジャスティンが部屋に入ってきたので、俺っちも起き上がったっす。畳の部屋は元の世界を感じられていーんすけど、出されるものがパンとかクッキーなのがミスマッチ。まあ、この世界ではこれが普通なんで、何も言えねーんすけど。


「んで、何か用っすか? もしかしてアガトク様がまたくしゃみで氷山でも吹っ飛ばしたんすか?」

「違います」

「それともセイカさんがまた【家庭菜園イデンシソウサ】とか言って、山を丸々禿げさせる勢いで森林伐採でも始めたんすか?」

「違います。って言うか本当にあったんですか、そんなこと……?」


 あったんすよ、そんなことが。その後始末っつーかなんつーか、それをなだめさせたのが俺っちだったんで。


「にしても、やっぱりコーシさんって室内だと少し小さい気が」

「ソレイジョウソノワダイニフレタラコロス……」

「アッハイ」


 俺っちのシークレットブーツに触れた奴は、何人たりとも生かしては帰さねーっす。


「それで、その。今日はコーシさんに、一つお話があって来たんです」

「俺っちに話?」


 するとジャスティンはそんなことを言ってきたっす。


「……正直な話、私はコーシさんが気の毒で仕方ないと思ってるんです。死に間際を助けてもらったとはいえ、急に別の世界に連れてこられて二股を強要されるなんて……普通に考えて、酷すぎますから」


 どうしよう、俺っちの心が歓喜に震えてるっす。


「普通に、フツーに考えて酷いっすよね、この状況はッ! 解ってくれるんすか、ジャスティンッ!?」

「流石に貴方と全く同じ境遇になったことないので、完全に理解できているか、と言われたら否かもしれませんが。少なくとも、酷い扱いを受けているとは思っております」


 ああ、何だろう。俺っちの目から温かい雫が落ちてきそうっす。こっちの世界に来てからというもの、二股しろだのなんだのでやらされるばっかり。マツリを始めに、誰も俺っち自身のことなんて見てくれてなかったと思ってたのに……ッ!


「そう、そうなんすよォッ! こんな、こんなことさせられるなんてあんまりなんすよォォォッ! 俺っちホントに、ホントにもうしんどくて」

「……やはり無理をされていたんですね。あんな邪神と超越者なんかに挟まれて。それでもと本当に私達なんかの為にここまで頑張っていただけて、ありがとうございます」

「ォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!」


 無理、限界。俺っちは声を上げて泣いたっす。やっと、やっと俺っちの苦悩を解ってくれる人がいたんす。

 こっちに来てから独りぼっちだった俺っちのことを、ちゃんと、解ってくれる人が……ッ!


「ハハッ。カッチョワリーとこ、見せたっすね」

「そんなことは。男だって、泣きたい時くらい、ありますから」


 少し泣いた後、俺っちは笑ったっす。それに対してジャスティンも、微笑んでくれたんす。


「少しはスッキリしたっすッ! マジ感謝っすッ!」

「良かったです。コーシさん、最近は辛そうな顔されてばかりでしたから」


 まー、あんだけゲッソリしてたらバレてるよなぁ。マツリなんかはあと少しだからって、見て見ぬふりをしてたっぽいとこあるけど。


「ありがとーっすッ! まーね。辛いことはあるんすけど、どーせ俺っちにしかできねーんでしょ、こんなん? ならまあ、もうひと頑張りくれーして見せるっすよッ!」


 辛いこと、しんどいことばっかっすけど、これは俺っちにしかできねーこと。マツリがそー言ってたっすからね。

 なら、もう少しくれー頑張れるっすよ。今は俺っちのことを解ってくれるジャスティンもいるっすし。


「……そんなコーシさんに一つ、謝らなければならないことがあるんです」

「うん?」


 ようやく心から笑えた。そんな風に思っていた時に突如としてジャスティンから、そんな不穏な言葉が飛んできたっす。えっ、謝らなければならないことって何?


「コーシさんにしていただいている二股なんですが……正直、コーシさんじゃなくても良かったんです」

「……は?」


 そして次に発せられた言葉に、俺っちは凍り付くことになっちまったっす。

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