第四話④ 惑星と人に愛された彼女
あの修羅場の後、セイカさんとのデートを終えてブッ倒れた俺っち。マツリに搬送され、起きて盛大に血尿を排泄してきた俺っちの顔はゲッソリ。鏡を見たら頬がこけてたっすよ、ハハハ。
現在。俺っちは自分の寝床兼マツリの住処である瓦造りのでっけー建物、
もうちっと俺っちの頭が良かったら色々解るのかもしれねーっすけど、日本史の教科書で見たことあるような建物っすねー、くれーの認識しかない。建物の呼び方がアメリカンの所為で、余計にこんがらがってるっす。
「マツリ様ーッ! 遊ぼうよーッ!」
「良いぞっ! 元気の良い奴めっ! こら、待つのだーっ!」
まあ、そんなことはどーでもいーんだよ。俺っちをこんな目に遭わせたマツリとかいうまな板に新しいプロレス技でもかけねーと、ストレスも……っと、今は子どもと遊んでるんすか。
「マツリ様。この前の
「わたしだけの力じゃないぞ。いつも田畑を見てくれているお前たちの頑張りが、ちゃんと報われているだけなのだ。わたしはただ、ちょっと祈っただけなのだ」
「ジャスティン様、こちらの処理については、どれくらいで終わりそうですか?」
「あ、あれ? 確かこの
「ジャスティン、そこはこの引数を使わないと
「流石はマツリ様ですね。いつもありがとうございます」
「…………」
色んな人に囲まれて笑いあってるマツリを、地面に座ったまま遠目に見ている俺っち。そっか、あのまな板。腐っても
ちっと見てるだけでも、みんなから愛されているというのが良く解るアイツ。まるで、元の世界での、アイツみてーな。
「……あー、もうッ!」
「なんだコーシ、部屋で寝てるかと思ったら」
頭を掻いていたらマツリが来たみたいっす。顔を上げてみると、そこにはちんちくりんのまな板がこっちをのぞき込んできてやがったっす。
「なんかめっちゃ失礼なことを考えられていた気がするのだ」
「き、気のせいっすよ、気のせい」
こーゆー時の女子の勘の鋭さって何なんすか? なんで女の子だけそんな特殊能力与えられてんの? 男女って不平等っす。
「あー、あれっす。みんなと仲良さそうっすね」
「そうだな。みんな、わたしなんかのことを好いてくれている。だからこそ、わたしもみんなを守りたいと、そう思っているのだ」
そう口にしたマツリの言葉には、実感というか使命感というか、なんか決意みてーなもんがこもってたっす。その目も、とても真剣なもので。
ぶっちゃけ俺っちからしたら、別世界から勝手に人を呼んで契約させて、邪神と超越者と二股させてきたまな板、くれーの認識しかなかったんすけど。
でもそれは、ここにいる人達を守りたいからという本気の思いから来てるものなんだって、俺っちは不意に理解しちまったっす。
「みんなが、大切なんすか?」
「当たり前だろう? 親もいないわたしを、みんなで面倒見てくれたんだぞ? わたしからしたら、この
別にそれは、特別な思いでも何でもなかったっす。誰でも当たり前に思うこと。
「だからお前を呼んだのだ。天才なんて言われているが、あの二柱をどうにもできなかった。わたしだけじゃ、みんなを守れない。なら何とかしてくれる人を呼ぶしかない。そしてこんなわたしの頭で良ければ、いくらでも下げるのだ。みんなを守ってくださいって」
みんなへの感謝、そしてそれを返そうとする意志。コイツが強い人間なんだって、俺っちは思い知ったっす。自分のことだけでもいっぱいいっぱいになりそうなもんなのに、コイツはみんなの為に、必死になって駆け回っている。
それに対して、俺っちは。自分の為だけに、言われたことやってるだけで、結局、なんも……。
「コーシ? どうかしたのだ?」
「……なんでもねーっすよ」
ま、俺っちって勝手に呼ばれただけっすし? ここの人間に対して特に思い入れもねーっすし?
ただ自分が死にたくねーから言われたことやってるだけで、それも間違いじゃねーっすからね。だから別に、なんとも思ってなんか、ねーっすよ。
「で、まな板。あとどんくれーでチャージとやらは終わるんすか? ぶっちゃけ互いを認識されちまった時点で、だいぶヤベーんすけど?」
「……今の段階だと、成功率は九十パーセントくらいなのだ」
「十分じゃね? もう撃っちまえば良いんじゃねーっすか、【
「何を簡単に言ってるのだっ!? 万が一にでも失敗したら、わたし達にはもう打つ手がなくなっちゃうんだぞっ!?」
俺っちの言葉に声を大にして言い返してくるマツリ。個人的には九割がた成功する話なら、もうやっちまっても良い気がするんすけど、みんなの命がかかっているからとマツリは引く気がない。
まだ成功率が上げられるなら限界まで上げて、そして可能であるならば百パーセント成功する時にやりたいと、そーゆーことなんすね。
「俺っちもう、身体がボロボロなんすけど?」
「お前の【
そしてこのやり取りの中で、解ったことがあるっす。俺っちが会ったばかりのマツリや彼女の言うみんなに対してあんまり感情移入ができないように、マツリも俺っちに対してあんまり感情移入してきていない。必要だからお願いしているという、言わばビジネスライクな関係性ってやつっすかね。
まあ別に、俺っちも必要以上に関わってこられないなら、楽でいーんすけど……。
「よー、マツリサマ。ちゃんとやってんのか?」
すると何やら、ジャスティンと同じような神主服を着た、黒髪角刈りの頭の男性がやってきたっす。
「……バイダ」
「こんなガキに二柱のお守りなんかさせてよー。万が一でも失敗しちまったらどうやって責任取ってくれるっつーんだ? 俺達みんな死んじまうんだぜ? この前だって危なかったしよー」
めっちゃ因縁つけられてるんすけど、何これ? この前危なかったのは否定しねーけど。
「その時は。わたしがこの身を持って、始末をつけるのだ。だから、安心して欲しいぞ」
「ホントかよー? 口先だけじゃ信用できねーなーぁ?」
「……次の予算配分の時に、考慮するのだ」
「さっすがマツリサマッ! 話が早くて助かるねぇ。革新には金がかかるからなぁ」
そんなやり取りをした後に、バイダと呼ばれた男性は手を振りながら行っちまったっす。なんか、因縁つけて金毟りに来たとしか思えねーんすけど。
「今のは誰っすか?」
「革新派の一人、バイダなのだ」
その後にマツリが話してくれた内容をまとめると、こんな感じっした。この
今はマツリが
「世界の危機なのに、権力争いなんかしてる場合なんすか?」
「こういう時だからこそ、狙ってくる輩もいるのだ。しかも、革新派の筆頭は誰か解らないのだ。だからこそ、余計に不気味なのだ……本当はコーシの言う通り、身内で争ってる場合なんかじゃないのに」
ふー、っとマツリは大きくため息をついた。それは俺っちなんかとは比べ物にならねーくらい、重たいため息だったっす。その顔には、疲れの色が見える。
「まっ! あの二柱を吹っ飛ばせるまで、ホントにもうちょっとなのだっ! 正直、ここまで時間稼ぎしてくれるとは思ってなかったから、わたしは結構感謝してるんだぞ? ありがとうなのだ、コーシ」
「ッ!?」
するとマツリが、不意打ちで俺っちにお礼を言ってきたっす。
何すか、それ。こっちのことなんか興味ねーって感じで、身内の争いとか色々と大変そうな癖に。俺っちにまで、感謝なんか言ってきて……。
「どうしたのだ、コーシ。そっぽなんか向いて?」
「な、なんでもねーっすよッ!」
ちょっと、嬉しかったじゃねーっすか……畜生、こんなまな板なんかに。俺っちは結局、マツリに何も返事できねーままっした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます