第四話① 起きろ、現実の時間だ


 そんなこんなで、俺っちは邪神アガトク様と超越者セイカさんと二股することになっちまったっす。どちらからも「お前は我のものだ」とか「私だけを見て」的なことを言われているので、バレるなんてもってのほか。意地でも隠し通さなきゃいけなくなっちまったっす。

 いや、バレても良い二股なんて、多分宇宙の何処を探してもねーとは思うんすけど。


「コーシッ! 恋人とは一緒にガッコーとやらから帰るらしいな。今から我が炎でガッコーを作るから、一緒にゲコーするぞッ! 心配するな、ちゃんとコーチョーとやらのドーゾーも用意した」

「待ってアガトク様。俺っちの心配どころは校長の銅像の有無じゃねーから」


 アガトク様の所に行けば、こんな日々っす。マツリから借りた少女絵巻の内容をやってみたいと目を輝かせている彼女を、最近は可愛く思えてきちまったっす。


「は、ハックションッ!」

「ひょ、氷山が蒸発したァァァッ!?」


 これで邪神の分身でさえなければ。俺っちはこの恋に恋してるっぽい彼女と、色々青春を試すという甘酸っぱい一時を過ごせたと思うっす。

 実際は何の弾みで世界を燃やし尽くされるかわかったもんじゃねーんで、足りない頭捻って気を使いまくってるのが現状っすけど。


「コーシさん、どうですか私のケーキは?」

「めっちゃ美味いっすッ!」

「良かったわ。お菓子作りなんて数千年ぶりだったから、ちゃんとできたか不安だったのよ」


 一方で、セイカさんとの講義も順調っす。そしてあの日のやり取り以降、講義関係なしに彼女とお出かけしたりすることも増えて来たっす。


「あ、あのーセイカさん。そ、そんなに近寄って来られると、その」

「ふふふっ。当ててるの」


 しかしスキンシップのレベルが段々上がってきてるのは気のせいっすかねー? 千年レベルで旦那さんのこと引きずってた筈なのに、もう俺っちの方向き始めたりしてない? 気のせい? あとおっぱい様はご馳走様っす。


「早く飛ばせっす、アガトク様との約束に間に合わねーじゃねーっすかッ!」

「うるさいのだっ! これでもめいいっぱい飛ばしてるのだーぁっ!」

「はい次ッ! セイカさんとのピクニックなんで、砂漠地帯に飛ばせっす、今すぐにッ!」

「だいたいお偉いさんしか乗れない筈の飛行船スカイシップをタクシー代わりにしてるお前の方が非常識なのだぁぁぁっ!」


 マツリの奴を使って、毎日毎日北極と南極を行ったり来たりする日々。今のところ、俺っちの二股は順調っす。

 最初こそバレたら洒落になんねーって戦々恐々としてたんすが、流石に惑星の反対側にいる彼女らは早々出会うこともなく。約束の日時さえ間違えなければ、互いに不義理をすることもなし。


 今んとこアガトク様ともセイカさんとも関係性は良好っすし、キスや身体関係という一線も越えないままに満足してもらえてる。なんだ、意外とできんじゃん、二股。

 マツリの話ではガイアのチャージももうすぐ終わりそうっすし、このまま行けば上手いことやり過ごせそうな見通しも立ってきたっす。


「こんちわーっすセイカさんッ! 来たっすよー」

「はい。じゃあ行きましょうか。今日のお弁当は、コーシさんの好きなはんばーぐですよ」

「イヤッホーッ! 元の世界の食べ物が食えるなんて、俺っちホントに嬉しいっすーッ!」

「うふふふふっ。喜んでもらえるように、頑張っちゃった」


 んでもって、今日はセイカさんと一緒に星の赤道付近にある、アメフラズ砂漠っつーとこにやってきたっす。その中にあるオアシスとも呼べる水場地帯。

 一年に一回、少しの木々に囲まれたここにしか咲かない花があるとマツリから聞いた為に、二人で見に行こうと約束したんす。


「ふいー。しっかし砂漠ってやっぱ暑いんすねー。いっそオアシスで泳ぎてーっす」

「良かったら泳いじゃおっか?」

「えっ? でも俺っち、水着とか持ってねーんすけど」

「今から作るわ。私も、たまには泳いじゃおっかなー……?」

「せ、セイカさんの水着姿?」

「うふふふっ。年甲斐もなく勝負用の際どいの、見せてあげよっかなー?」

「ゴクリッ!」

「もう、がっつかないの。ちゃんと持ってきたか見てくるから、ちょっと待ってて」


 そう言って、セイカさんは少し離れたっす。彼女が乗ってきたロケットにしか見えねぇメカの中に入ってって、その勝負水着とやらを確認してくれてるっす、俺っちの為だけにッ!


『……男って本当に醜いのだ』

『うるせぇ、まな板は黙ってろっす』

『それを言ったら戦争なのだ貴様ぁぁぁっ!!!』


 貧乳は置いといて。うーん、セイカさんの勝負水着ってどんなんなんすかね。やっぱその豊満なおっぱい様を存分に見せつけるビキニっすかァッ!? ゲッヘッヘッヘ、俺っちのオトコノコが止まらねえ。

 にしても暑い。ここ砂漠のど真ん中だから仕方ない気もするけど、やっぱなーんか砂漠にしては暑過ぎるような気が……。


「コーシーッ!!!」


 そして、尊大な調子のまま無邪気に俺っちの名前を呼ぶ声。俺っちはその瞬間。熱気の全てが吹っ飛んで、一気に身体の芯が冷え切る思いがしたっす。そ、そそそそのお声は、ま、まままさかぁ……。

 と次の瞬間。俺っちの目の前に紅の髪の毛を揺らした一人の女性が着弾したっす。


「散歩中にふとお前っぽい存在を感じたと思ったら、やはりだったかッ! これがあれだな、来ちゃったってやつだな。コーシ、我が来ちゃったぞッ!」

「あ、あああアガトク様ァァァッ!?」


 嘘やん。なんでアガトク様がこちらに? 俺っちにとっちゃこの状況、死神様が来ちゃったに相当するんすけど。

 と、ととと兎に角、さっさと帰ってもらうのが吉っすッ! つーかそれ以外ありえねえッ! セイカさんが戻ってくる前に早く。


「なんか凄い音がしたけど、コーシさん大丈夫? 一体なに、が」


 戻って、来ちゃったぁ。


「ん? なんだ貴様? 我のコーシに対して随分と馴れ馴れしいなぁ」

「失礼ですがどちら様ですか? 我のコーシ、なんて随分と勝手なことをおっしゃってますが」


 出会っちゃったぁ。アガトク様とセイカさんが、出会っちゃたぁ。


「勝手なこととは心外だな。コーシは我のコーシに決まっておるだろうが。何を言っておるのだ貴様?」

「コーシさんが貴女のものだなんて、私は聞いていませんけど。だってコーシさん、私との関係性を順番に進めていきたいって、おっしゃってくれましたから」


 何も言えねーでいる間に、お二方は一触即発な会話をこれでもかってくれーしてるんすけど。


「コーシ、この雌は誰だ? 何故お前と共におるのだ? んんん?」

「コーシさん。この変に貴方に馴れ馴れしい方はどなたでしょうか? 私の知らない方なのですが」


 こうして二人の女性の視線が交差した瞬間に、俺っちは血尿を覚悟する羽目になったんす。

 はい、走馬灯おしまいッ!

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