第四話② デッドオアアライブな綱渡りは平地でもできる


「少女絵巻によれば、人間の番はただ一人。他の雌がお前につく等あり得ぬのだろう? コーシ、話を聞かせろ」

「私は信じています。コーシさん、貴方のことを」

『死にたくないのだぁぁぁっ! 早く何とかするのだコーシぃぃぃっ!!!』

「アババババババババ」


 白目剥いてる場合ですらねーよ、どーすんだよこれ? アガトク様は身体の各所から紅の炎が漏れ出てるし、セイカさんの周囲にはいつの間にかドローン兵隊が構えてるし。そしてさっき通話を切った筈のマツリが脳内でピーピーうるせーし。

 何とか互いを紹介させたりしてみたものの、自分以外の彼女であれば世界を滅ぼすと明言されちまったので、再び俺っちが何か言わなければ自分諸共世界が滅ぶ。今までの人生の記憶を洗いざらいひっくり返して、上手く乗り切れ俺っちッ! 俺っちだって死にたくはねーんだよォォォッ!!!


「この、方は……友達、っすよ……まだ」


 やがてそんな俺っちの口からは、途切れ途切れだったっすけど何とか言葉を紡ぐことに成功したっす。


「友達?」

「まだ?」

「そう、そうっすよッ!!!」


 アガトク様とセイカさんが互いに訝し気に呟いてるっすけど、俺っちはそれを遮る形で声を上げるっす。ここは勢いで押すしかねぇ、理屈なんてクソくらえっす。


「そもそも俺っち、まだ誰にも好きだとか付き合って欲しいなんて言ってねーんすよッ! 恋愛における彼氏彼女は互いの合意があって、初めて成立するものなんすッ! それは、解って、くれるっすか……?」


 うん。なんだかんだはあったっすけど、俺っちって別に誰が好きが嫌いだーなんて一言も言ってねーんすよ。解って。解ってよ。解れって。


「しかしコーシ。我はお前の彼女なのだろう?」

「アガトク様ァッ! だからまだ告白とかそーゆーイベントも何もなかったじゃねーっすかァァァッ! まだ友達同士のノリで言ってるだけの段階なんすよね、そうっすよねェッ!?」

「順番に関係性を進めていってくださるお話でしたよね?」

「セイカさんッ! それはその通りなんすけど、別にお付き合いがどうこうなんて話はまだ出てなかったっすよねッ? ねッ!?」


 互いに対して言った言葉、やり取りした内容を思い返し、一つ一つ吟味し、そしてまだそんな話にはしてなかったということで押す。とにかく押す。

 っつーか俺っち、まだお二方に対して決定的な言葉なんて何も吐いてねーんだよォォォッ!!!


「……そう言えば少女絵巻にも、告白というものがあったな。まだしてはおらぬが」

「……確かにコーシさんからは、まだ欲しい言葉を頂いていませんけど」


 お二方が、まあ言われてみれば、みたいな顔してるっす。全然納得してるようには見えねーけど。うん、まだ駄目だこれ。どうしよう。


「まあ、まだ、しておらぬだけだがな。結果等、既に決まりきっておる」


 アガトク様がセイカさんを挑発するような声色で、そう言い放ったっす。やめてよしてそういうやつ俺っち欲しくねーのォォォッ! セイカさんから今、カチン、って音が聞こえてきたからァァァッ!


「……そうですね。私とコーシさんも、そういう関係ではありません。いずれは、解りませんけど」


 対抗しないでセイカさんッ! 今度はアガトク様の方から、カチン、って音が聞こえてきたからァァァッ!

 あっ、綺麗なお星さま見っけ。真昼なのによく見えるっすねー。もしかしてあれが、かの有名な死兆星ってやつっすかね?


「ほほう。貴様、超越者の分際で我に逆らうか。あまつさえ、我がコーシを横取りしよう等と思っておるのなら無礼千万であるぞ? この泥棒猫めがッ!」


 たぶん少女絵巻で知ったんだろーなーという言葉を高らかに言い放ってるアガトク様っすけど、それよりも何よりも彼女の背後に無数の炎の精が現れ始めたのがヤバい。

 人型で顔のない炎の精が一体、二体、三体……うん。もう数えられねーよ、何だよこの数、一個師団余裕で超えてんじゃねーか。最早軍団っすよこんなん。


「我がコーシ、なんて聞き捨てなりませんね。コーシさんはいつから貴女のものになったのですか? たかだか宇宙空間で生きられるだけの生命体が、随分と偉そうですね」


 そしてセイカさんっすけど、空中からどんどんドローン兵隊が現れてくるんすけど、これどーゆー技術なん? 円盤型のドローン達の内側からは銃口にしか見えねーもんが次々と出てきてるし。

 つーか数がヤバ、空を埋め尽くしてね、ドローン兵隊が。何なのあの数? 渡り鳥の季節でももうちっと少ねーもんじゃねーの?


『何を呑気に見ているのだっ!? こんな軍勢が衝突でもしたら、わたし達の惑星は秒で木っ端微塵なのだっ! ジャスティンッ! 今すぐ緊急避難勧告をレベル5で出すのだっ! いのちをだいじになのだぁぁぁっ!!!』

『承知いたしましたマツリ様ッ!!!』


 脳内ではマツリの叫び声の後に、緊迫した様子のジャスティンとその他大勢の人間が動き出しているっぽい音が聞こえてくるっす。

 ああそうか、俺っちの様子って、マツリ達にライブ中継されてたんだっけ?


『マツリ様ッ! 最早この状況、【惑星追放砲トットトデテイケキャノン】を撃つべきですッ!』

『ジャスティンっ! で、でも失敗したらわたし達にはもう打つ手がなくなってしまうっ! 更にはわたし達が追い出そうとしていたことがバレてしまうんだぞっ!?』

『しかしこのままでは、我らが星が消えてしまうのかもしれませんよッ!? 何もせずに滅びゆくくらいならいっそ……』

『ま、ま……まだなのだっ! まだ【惑星追放砲トットトデテイケキャノン】は起動しないっ! 少しでも成功率を上げる為にも、限界までチャージは止めないのだぁぁぁっ!!!』

『マツリ様ッ!? お考え直しをッ! 今は一刻を争う時なのですよッ!?』


 何やらあーだこーだと騒がしい、要石キーストーンの向こうのご様子。うん、自分達の命運が今まさに尽きるかもしれねーってなったら、こーゆー感じにもなるっすよね。強硬派と慎重派のせめぎ合い。【惑星追放砲トットトデテイケキャノン】とか言うのが、多分前にマツリが言ってた二柱をアンドロメダ銀河の外まで吹っ飛ばす手段なんだろーなー。

 しっかし、二股の修羅場を大勢の人間が固唾を飲んで見守ってるとか、これなんて羞恥プレイ? 俺っちのプライベートもなんもあったもんじゃねーよなー、あっはっはっは。


「ほほう、何やら面白そうな玩具を並べておるではないか。手慰みにはちょうど良いな」

「解析率28%……なるほど。貴女、炎の化身か何かなのですね。炎自身に意識が宿っているとか、どういう生き物なのでしょうか。是非とも解剖させてくださいませんか?」

「生憎だが、我が身体を開くのはコーシのみと決まっておる。貴様程度に見せるものか、この雌牛が」

「ああ、炎の化身でも身体は貧相ですね。そんな身体を開かれては、コーシさんもさぞ迷惑なことでしょう。最も、そんなことさせませんけどね」

(呑気に笑ってる場合じゃねェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!!)


 一触即発。ちょっと小突いたらラグナロク。うん、ヤベーわ。毎度のことだけど足りねえ頭を捻り散らせ俺っちッ!

 まだ、まだ何とかなる筈だからァァァッ!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る