第三話③ 未亡人との昼下がりの下事情


 そんなこんなで少し経った頃。遂には休日までもらえるようになり、セイカ先生の元で俺っちは結構伸び伸びと勉強してたっす。

 まあアガトク様の方にも顔出さないといけねーんで、俺っちの実質的なお休みって北極と南極を往復する時の飛行船スカイシップの中での時間だけだったりするんすけどね。


「んで、俺っちの幼馴染がこんな奴で、その時めっちゃ面白いことを」

「あらあら。仲良しだったのねぇ」


 セイカさんとのやり取りも、そこそこ進展してきた感じがするっす。最初こそ講義内容とかの質問とか簡単なやり取りだけだったんすけど、今じゃ昔話で盛り上がったりもできるくれーにはなったんで。

 二股にはまだ遠いかもしれねーっすけど、こればっかりは急いでもどうにもならねーしなー。相変わらずマツリの奴はうるせーけど。


 あとは講義の方も順調っす。めっちゃ脳みそに知識詰め込まれて頭が重てー感じはするっすけど、そのお陰で俺っちも簡単なメカくらいなら作れるようになってきたっす。

 流石にセイカさんの【DIYニチヨウダイク】の域には届かねーっすけど、ちょっとした立体映像テレビみてーなもんくらいなら、まあ……。


 うん、ヤベーかもしれねーっす。俺っち、元の世界の技術者のレベル軽く超えた気がするもん。

 やっぱ超越者ってすげー、俺っちがこんなもん作れるようになるなんて、夢にも思わなかったっす。まあ、壊したメカを直せるレベルはまだまだ先なんすけど。


「ただいまーっす。セイカさん、また午後の講義を……」


 なので今日も今日とて、アガトク様との面会を終えて再び北極からとんぼ返りしてきた俺っちは、いつもようにセイカさんに講義してもらおうと思ってたら。


「ひっく、ぐすっ……あ、コーシ、さんっ」

「ど、どーしたんすかセイカさんッ!?」


 セイカさんが泣いてたっす。慌てて駆け寄った俺っちに対して、セイカさんは。


「コーシさんっ!」

「うおわァッ!?」


 なんと抱き着いてきたんす。自分よりもずっと背が高い彼女に抱きしめられて、ヤベーおっぱい様が俺っちに密着したっすけど、今はそれどころじゃねー。


「ど、どーしたんすかセイカさん? どっか具合でもワリーんじゃ……」

「違うの、コーシさん……私、私ぃ」


 そんな俺っちに構いもしないまま、セイカさんは泣いてたっす。俺っちはどうにもできなくて、ただ彼女が泣き止むまで抱きしめ返すことしかできなかったっす。女性経験もない童貞じゃ、こういう時にどーしたら良いかわかんねーんだよォォォッ!

 あと押し付けられてくるおっぱい様の感触がヤバ過ぎて勃起不可避。セイカさんの良い匂いも相まって、興奮しねー要素がねーんすけど。


『今はそーゆー時じゃねェェェッ!!!』

『す、凄いのだ。こいつ、理性だけで勃起を我慢してるのだ』


 この状況下で勃起とか、マジねーから。いくら俺っちでも空気ぐれー読めるから。マツリが変な感心してっけど、んなことはいーんだよ。今はなんでセイカさんが泣いちゃったのか、問題はそこっす。


「……ごめんなさい、コーシさん」


 少しして。ようやく落ち着いてきたのか、俺っちから身を離したセイカさん。おっぱい様は惜しかったっすけど、その煩悩を脳内で踏みつぶして彼女に向き直るっす。


「大丈夫っすか? もしまだつれーんなら、無理しない方が良いっす」

「優しいのね、コーシさんは」

「んなことねーっすよ。これくらいフツーっすよ」

「ふふふっ、ありがとう」


 ちょっとは笑えるくれーになってきたのか、セイカさんは涙を拭って俺っちに微笑んでくれたっす。良かった、ちっとはマシになってきたんすね。


「んで、何かあったんすか?」

「……夫のことを、思い出しちゃって」


 ヤッベ。これ重たくなる話っす。


「私は夫とこの星に数千年くらい前にやってきました」


 いきなり年の桁が千の位までいってて俺っちの理解が飛びそう。


「知らないかもしれませんが、この星はアンドロメダ銀河を回る際の休憩にちょうど良い座標にあるんです。なので私も夫とのハネムーンの途中に、この星に立ち寄りました」

『わたし達の惑星ってそんな立地条件だったのかぁぁぁっ!?』


 マツリが脳内で絶叫してるっすけど、もしかしてこの星って神々とか超越者からしたら高速道路のサービスエリアみてーな扱いなの? 昔から神々がよく来るっつー話だったけど、その理由がこれ?

 規模が違い過ぎるんすけど、とりあえずこの星の生き物からしたら迷惑この上ねーことは解ったっす。


「その時に、夫が……亡くなってしまったんです。活火山の火口でバーベキューしてた時に、耐久スーツを着る前に足を滑らせてしまって。ゴワゴワするのが嫌なんてダタをこねていたのを、ちゃんと言って聞かせていたら、あんなことには」


 うん。旦那さんの死因を聞くっつーめっちゃ重要な部分なのに、その周辺の要素にツッコミどころしかなくて集中できない。

 活火山の火口でバーベキューって何? マグマで肉を焼くとか、そーゆー感じなん? あと超越者でもフツーに死ぬんすね、ちっと安心。


「溶岩の中に親指を立てながら沈んでいった夫を助けようと、私は活火山を停止させました。山を切り開いて夫を探したんですが、既に全部溶けてしまっていたみたいで……」


 ねえ旦那さん、本当は余裕だったんじゃねーの? アイルビーバックとか言ってなかった? グラサンかけたままで。


「私はしばらくその現状を受け止められませんでした。なので私も切り開いた山にこもって寝てしまったんです。少しでも、夫のぬくもりを感じられるように」


 なんで旦那さんが死んだのに、この人は平気で溶岩の中で寝てたの? さっき言ってた耐久スーツってやつ、そんな環境下でもへっちゃらみたいっすねー、こえー。


「うたた寝して起きたのが、つい最近なんです。とりあえず私は生活環境だけを整えて、そして今から頑張ることにしました。死者蘇生を。私は今、夫を蘇らせる為に、色々研究しているんです。超越者の中でまだ誰も成し遂げていない、この難題を」


 うたた寝(千年単位)。なるほど。セイカさんの目的は旦那さんをゼロから死者蘇生させる為に、この星に居座ってるんすねー。そして死者を蘇らせることは、超越者を持ってしても不可能。やっぱ死んだらそれまでってことかー。


「これが、私なんです。コーシさん、幻滅されましたか? 亡き夫の幻影にすがって無理難題に挑み続けてるような、こんな私なんか」

「そ、そんなことねーっすよッ!」


 いきなり話を振られてビックリしたっすけど、俺っちはそんなことねーって言ったっす。うん、幻滅とかねーから。


「ゼッテー無理なことでも、セイカさん旦那さんの為に頑張ってるんすよね? そんなセイカさんのことを笑う奴なんていねーっす。少なくとも、俺っちはスゲーって思ってるっすよ。もし笑う奴がいたら、ぶっ飛ばしてやるっすッ!」

「コーシさん……」


 無理だろうがなんだろうが、諦めねーで頑張ってるセイカさんは立派に決まってるっす。存在そのものが高位すぎて、俺っち達からしたら雲の上の存在みてーに感じるんすけど。それでも、そんなセイカさんの行動原理は、ごくありふれたものだったっす。

 会えなくなっちまった人と、もう一度会いたい。そんなん、駄目なんて言えねーじゃねーっすか。俺っちだって、死んじゃったじーちゃんにまた会えるなら会いたいっすしね。


『そんなことは他所でやって欲しいのだぁぁぁっ!!!』


 そして脳内のマツリの叫び声にも同意しかない。うん。理解できねーことはねーし、間違ってるなんてこともねーんだけど。隣で寝てるのが自分の住んでる惑星ごとぶっ壊せる存在です、なんて言われたらおちおち安眠もできやしねー。

 何でも良いから自分達の関係ないところでやって欲しい、というマツリ達の気持ちもいてーくらい解るっす。お願いだから他所でやって。


「……やっぱり。優しいですよね、コーシさんは。それに私、最近、変なんです」


 やがてセイカさんは、なんか不穏なことを言い始めたっす。うん、ね。言葉は変じゃねーんだけど、雰囲気とかがなんか……俺っちのこと、熱の入った瞳で見つめてません? 貴女様は糸目なのに、めっちゃビンビン感じてるんすよ、なんかそーゆーのが。

 そして、俺っちの膀胱がアップを始めたっす。

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