第三話② 勉強後に遺伝子組み換え食品頬張ろうぜ
『おーい、コーシ。生きてるのか?』
「はい。ではコーシさん。復唱してください」
「生体関数定理によって記憶という人間の脳みその中に保存されている情報をパターン化して抽出し、数列に置き換えた後に電気信号に変換する為の電子方程式を」
『……何の呪文なのだ?』
『超越者による生体電子工学講座っす……』
あれから少し経ったっすけど、俺っちの頭はパンク寸前っす。そもそもFラン大学にしか合格できなかった俺っちが、アンドロメダ銀河を解析した超越者の知識を一朝一夕で理解できる訳もなく。
目の前で黒板に書いた内容を指さしているセイカ先生の元、俺っちは毎日毎日何度も何度も、元の世界の最先端以上の内容を強制的に頭に叩き込まれていたっす。
『超越者から直々に知識を賜れるとか、お前凄いことしてる自覚あるのか? と言うか頭から煙が出てるんだが、脳みそ焦げてないか?』
『オメーがあんなことしなきゃ俺っちだってこんな目に遭ってねーんすよォォォッ!!!』
マツリの言う通り、多分元の世界の高名な学者さん達なら泣いて喜ぶレベルのことをさせてもらってんだろうけど、生憎俺っちは馬鹿っす。
これが凄いことなんだろうなぁくれーしか解んねーっすし、そもそも勉強が嫌い過ぎてストレスもヤバい。最近血尿が止まらない。
「はい。じゃあコーシさん、お昼にしましょうか」
「うぇーい……」
ようやく午前の講義が終わり、やっとお昼ご飯にありつけることが確定したその時。俺っちは座ってた机に突っ伏したっす。頭が痛い。理解できねーなんて思ってたのに、脳みそがギュンギュン動いて、無理矢理覚えさせられてる気がしてる。これも、超越者の講義の賜物なんすかねー?
「お疲れ様。いつも頑張ってるわね。今日はコーシさんの好きな肉じゃがよ」
「ウホッ! マジっすかッ!?」
セイカさんの言葉に、俺っちはバっと顔を上げたっす。セイカさん、めっちゃ料理が上手いんすよ。しかも今日やった生体電子工学の応用で俺っちの記憶の中にある元の世界の食べ物を解析し、わざわざ作ってくれるという大盤振る舞い。
この世界はパン食がメインだったので、米が恋しかった俺っちとしては願ったり叶ったりっす。ちなみにこの世界にない米とかジャガイモ等をどーやって作ったのかって聞いたら、
「私、【
って言ってたっす。言ってることは何となく解るんすけど、それをどうやって実行してるのかがまるで理解できねぇ。超越者の恐ろしさを垣間見たっす。
それはともかくとして。俺っちの目の前に用意されていくのは、ご飯、みそ汁、肉じゃが、野菜のおひたし。
「ウヒョーッ! これっす、和食っすッ! あー、恋しかったんすよ、米ーッ! いただきまーすッ!」
「はい、召し上がれ」
セイカさんが【
「あー、ほくほくのジャガイモーッ! めっちゃ味が染みてるッ! 美味い、美味い、美味いッ!」
「そんなにがっつかないの。ほら、おかわりはいかが?」
「いただきまーすッ!」
『ま、まあ。超越者と仲良くしてるみたいで、良いことなの、だ?』
めっちゃ美味い。なにこれ店出せそう。こんな美味い飯が食えるとか、幸せなんすけど。セイカさんも美味そうに頬張ってる俺っちを見て笑顔になってくれてて、何よりっす。
確かにセイカさんはアガトク様みたくヤベー勢いで距離を詰めてくることもないし、ちゃんとした対応をしてくれる大人な女性っす。
あんな粗相した俺っちにも料理を振舞ってくれたり、勉強で疲れた時は休憩を挟んでくれたり。何なら泊まり込みなのに、自由時間すらくれたりしてるっす。
まあ、脳みその疲れがヤベーので、自由時間はほとんど寝てるんすけど。
『ただそれはそれとして、俺っちには一つの引っかかりがあるんす』
『引っかかり? なんなのだそれは? 今、上手く行ってるんじゃないのか?』
俺っちの言葉にマツリが反応してくれる、そー言えば
『一線を引かれてるって感じがするんす』
『一線?』
『ここまでは仲良くしてくれるけど、それ以上は駄目っつー……なんか、そういうやつ?』
それが俺っちの引っかかりなんすよ。セイカさんは出来た人(超越者?)だからか、これ以上は来て欲しくないっつー一線がしっかりしてるんすよ。
だからまあ、適度なお付き合いをするんならこのままでいーんすけど。
『ぶっちゃけ聞くんすけど、俺っちって二股しないと死ぬんすよね?』
『そうなのだ。契約条項上、ちゃんと二股しないと駄目なのだ。ただこっちとしては時間稼ぎさえしてくれたら、別にそこはどうでも良いぞ?』
『条項守らねーと俺っち星の免疫作用で土に還っちまうのォォォッ! つーかどうでも良いなら、んな厳密な条項設定してんじゃねェェェッ!!!』
『……そう言えば、なんで二股なんて条件つけたのだ? あれ?』
張本人のお前が首傾げてんじゃねーよ、コラ。このまな板に言いたいことは山のようにあるが、それはそれとして俺っちの生存条件的にこのままじゃ死んじゃう。
何としてでもセイカさんの一線を越えねーと(決してイヤらしい意味ではない)いけねーっつーのに、全く妙案が思い浮かばん。
『もう、時間かけるしかねーのかなぁ?』
『時間かけるって、それでセイカが短気でも起こしたらどうするつもりなのだっ!? コイツだけじゃなくてアガトクもいるんだぞっ!? わたし達が死んじゃっても良いって言うのかっ!?』
『うっせぇわッ! 前の旦那に未練がある未亡人を口説くスキルなんて、俺っちにはねーんだよォォォッ! どーせ失敗したら死ぬんすし……死ぬ時は、一緒っすよ』
『お前と心中なんてごめんなのだぁぁぁっ!!!』
『それはこっちも同じじゃこのまな板ァァァッ!!!』
無理。もうこのままゆっくり時間かけてセイカさんと仲良くなるくれーしか、俺っちには思いつかん。その間に死んだら、まあ、それまでだったっつー訳で。
アガトク様ときみてーに劇的なことが起きるか、はたまた俺っちの寵愛の星とやらが仕事してくれたら話ははえーかもしれねーっすけど、今のところなんもねーし。超越者には効果がないかもしれねーっす。何せ相手は、アンドロメダ銀河のほぼ全てを解析したとか噂の、ヤベーお方っすからね。
「コーシさん、紅茶にミルクは要りますか?」
しかし目の前で爆乳を揺らしながら、ミルクは要るかと聞いてくるセイカさん。
無理、このお誘い、オトコノコなら断れない。こんなおっぱい様からミルクが欲しいかって聞かれたら、ほちいって答えるのが漢ってもんでしょうよ。
「お、お願いするっすッ!」
『世界の怨敵相手にくつろいでんじゃねーのだぁぁぁっ!!!』
脳内で何でも良いから短気だけは起こさせるな、あとアガトクを忘れるなとうるせーマツリを無視して、俺っちはセイカさんと午後のひと時を楽しんだっす。何だかんだでこっちの世界に来てからというもの、こういうゆっくりした時間もなかったっすからね。少しくれー、良いじゃねーっすか。
セイカさんお手製のチーズケーキ(遺伝子組み換え食品)に頬が落ちそうになりながら、俺っちは合わせて用意してもらった紅茶(遺伝子組み換え食品)を飲んだっす。うめー、紅茶ってこんなにうめーんだ、知らんかったー。でもこの後の講義は、また大変なんだろうなぁ、あーあ。
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