第二話② 邪神にも、穴はあるんだよな……?
少し間を置いたけど、状況は一ミリも改善してねーっす。目の前で期待の眼差しを向けてくる邪神、アガトク様。脳内で何とかするのだとうるさいマツリ。
そして冷や汗が滝の如く流れ落ち、ストレスで膀胱が絶賛血尿を精製している俺っち。誰か助けて。
「どうした? そろそろ何かしてくれるのではないのか?」
アガトク様の我慢も限界に来てそうっすけど、俺っちはとっくの昔に限界のその先に辿り着いてるっす。
頭の中で必死こいて芸やギャグなんかを捻り出しるんすが、どれを披露してもさっきの男の二の舞になる未来しか見えねー。
『早く何かやるのだっ! お前がここで死んだら、誰が時間稼ぎするのだっ!?』
『うるせェェェッ! 思いついてねーことはねーんすけど、邪神様が怖すぎて上手く言葉が出てこねーんすよォォォッ!』
『あー、もう世話が焼けるのだっ! 今から即興で
念話でマツリが
こーなったらそれができるまでテキトーな会話して時間稼ぎを……。
「あ、あーその。アガトク様?」
「なんだ?」
「アガトク様って……好きな子とか、いるんすか?」
「おらぬ」
(はい会話終ー了ォォォッ!)
『個で完成してる存在に向かって何を聞いているのだお前はぁぁぁっ!?』
『うるせェェェッ! こんな状況で冷静になれるかァァァッ!!!』
そう言えば、このアガトク様はただ一人でその存在が完結しているので、子孫を残すこともなければ生殖行為を行うこともあり得なかったんすね。うん、完璧に振る話題ミスったァァァッ!!!
「……コーシよ。まさか今の問答で終わりか?」
「ヒギィッ!」
ほーらアガトク様の顔が陰り始めちゃったっすよー。それに伴って俺っちの命も陰り始めちゃったっすよー。
「違うだろう? まだ我を楽しませてくれるのだろう? だが、もし先ほどので余興が終わりであるならば……」
(あっ。俺っち死んだかも)
駄目っす。さっきの失敗を引きずって、マジで何も思い付かなくなっちまったっす。目の前には両手を腰に当て、紅の炎をその瞳に宿し始めたアガトク様。
挙げ句の果てには、何故か俺っちの股間が盛り上がってきたっす。ああ、これ。生命の危機を感じると身体が本能的に子孫を残そうとするとかいう、あれっすかねー。出来ればこーゆーアガトク様みてーな綺麗な人とスケベしたい人生だったっす。もうそれしか思い浮かばねー。
拝啓、お袋様。アンタの息子は邪悪なる神様の前で勃起したまま死ぬっつー、末代までの恥を晒すことになりそうっす。つーか多分、俺っちが末代っす。
『
『おおおおッ!?』
とその時、俺っちを救う天使の声がッ! マツリ、間に合ったんすねッ!? 俺っちはオメーのこと、信じてたっすよォォォッ!
『今助けるのだっ! マツリマジック、
「は?」
しかし、その直後に俺っちの頭に響いてきたのは、不吉なワードだったっす。そして息つく暇もない間に、俺っちの口元が光り始めて。
「お、おま、何を……ッ!?」
そして俺っちの口は、俺っちの意志を無視して勝手に言葉を紡いだっす。バッチリと、アガトク様にも聞こえる声量で。
「? どうした、コーシ? 急に口元を光らせて何を」
「なあ……ス ケ ベ し よ う や……」
「は?」
やっちまったァァァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!
『オメー何してくれてやがるんすかァァァッ!? バッチリアガトク様にも聞こえちまってるじゃねーっすかァァァッ!!!』
『ううううるさいのだっ! お前が上手く喋れないって言うから、素直に言葉が吐ける
『男の子は命の危機を感じるとこーなっちまうんだよ畜生ァッ!!!』
脳内でマツリと言い合いをしていた俺っちは、ふと気がついてアガトク様の方を見たっす。
そうだ、俺っちは今、目の前にいるこの邪神様にセクハラかましちゃったんす。今のところ呆然としているみたいっすが、多分、意識が戻ってきたら。
『はい死んだッ! 俺っちは今死んだよーッ!』
『これはもう助からないのだ。コーシ、お前との日々は短かったけど、まあ、悪くはなかったのだ』
うん、もう駄目っすね、これは。マツリも締めの挨拶に入ってっけど、誰よりも諦めてるのは俺っちっす。どーせ死ぬまでのロスタイムだった訳だし、今さら未練もクソもねーっすかー、ハハッ。
「……ハーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!」
すると突如として、アガトク様が笑い出したっす。えっ何、何なの? 俺っちを一番残酷に殺せる方法でも思いついたんすか?
「スケベとはあれかッ! 人間共が子孫を残そうとする際の生殖行為のことかッ! よもや個で完結している我にそんなものを望んでくるとはなッ! ああ、気に入ったッ! 気に入ったぞコーシッ!」
『『あれれれれー!? 何故か好印象だぞォォォ!?!?!?』』
予想外の反応に、思わずマツリとハモっちまったっす。どーゆー急激な心変わり? なんでそんなに上機嫌なんすか?
「我も永く生きてきたが、生殖行為など考えたこともなかったな。この分身は丁度人間の雌と同じ身体構造であるし……良かろう。我が相手になろうではないか」
(思いもしなかった童貞卒業チャンスに動揺が止まらない)
嘘やん。めっちゃ乗り気なんすけど、この神様。もしかして俺っち、邪神で童貞捨てれるの? 宇宙初じゃね?
『あっ、あー、その。に、二時間くらい通話を切っておいた方が良いのだ?』
『その絶妙な気遣いを止めろォォォッ!!!』
マツリの奴がなんかよそよそしい感じで切り出してきたけど、逃げんじゃねーよ。この状況にした責任の一端はオメーにもあんだよォォォッ!
「ではコーシ、裸になれ」
「ふぇぇぇ?」
戸惑いが止まらない中、不意にアガトク様からかけられた一言に、俺っちは間抜けな声を上げつつまた硬直することになったっす。
「何を呆けておるのだ? 生殖行為は裸でするものなのだろう? 我が降臨した時の人間はそうしておったぞ。故に裸になれ、コーシ」
そうなんだけど、そうじゃないんすよ。つーか邪神様が降臨した時にその場でいたしてた方々って、どんな気持ちだったんすかねー? インタビューしてーっす。
「ちなみに我はもう裸だ。というか、我には服を着るなどという慣習はないのでな。この衣服に見えるのも我が身体の炎で作ったものであるから、着ておらぬのと同じだ」
マジで? 服着てるのに全裸とか、何それ新しい世界に目覚めそう。
「それとも人間と同じような裸が良いか? 待っておれ、今取っ払ってやろう……おおっと、人間の言葉では脱ぐと言った方が正しいのか? 今脱いでやろう」
俺っちが硬直している中で、アガトク様はゴスロリ調のドレスを今まさに目の前ではだけさせて、その美しいスレンダーの肢体の全てを俺っちに曝け出さんと……。
「ストォォォップッ!!!」
したところでようやく俺っちは声を上げることができたっす。
「なんだ急に? 今からスケベするのだろう? 心配するな、人間と同じ身体構造をしていると言ったであろう。我の中はきっと、溶けるほどに熱いぞ?」
「待って、お願い待ってアガトク様ッ! 俺っち今、展開に一ミリも着いて行けてねーのォッ!」
「黙れ、裸になれ」
「どうか十分、いや五分でいーから俺っちの話を聞いてェェェッ!!!」
必死の嘆願が届いたのか、有無を言わせない勢いだったアガトク様はようやく脱ごうとしていた手を止めてくれたっす。
ねぇ俺っち、今、何してんの?
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