第二話③ 恋は子作りの第一歩 by、童貞より


「それで話とはなんだ? 言っておくが、スケベするのは決定事項だぞ? 我がその気になったのだからな」


 うん。ガチの邪神と子作りとか、何が起きるか解らなさ過ぎて怖い。溶けるほどに熱いとか魅惑的なお言葉もらってっけど、挿れたらそのまま向こうに吸収されても何も違和感なさ過ぎるからァッ!

 そのまま俺っちはFラン大学にしか合格できなかった自分のしょっぺぇ脳みそを、搾り切る勢いでフル回転させて言葉を捻り出すことになったっす。


「俺っちは、その、アガトク様とそういうことをする為の過程を踏みたいんすッ!」


 頑張れ俺っち。ここで説得させられなければ、邪神との聖なる上下運動へレディゴーっす。嬉しい気もするけど、どうなっちゃうか解らねー恐怖の方が大きくて、最早勃起も治まっちまってる。

 脳みそでも口でも鼻でもケツの穴でも良いから、言葉を出せるだけ出してェェェッ!


「人間はスケベするまでの過程を楽しむモンなんすッ! 手を繋いだり、お互いを名前で呼び捨て合ったり、色んな所にお出かけしたりして。そーゆー恋愛っつーのを経て、互いの気持ちを高め合ってから、最後にスケベするのが最高に気持ち良いんすよッ! 是非、是非アガトク様にもその快感を味わっていただきたくってですね」


 by、童貞より。うん。女の子と付き合ったこともねー俺っちが言うと信憑性ゼロなんすけど、今はそんなことどうでも良いんす。目の前のアガトク様が信じてくれたら、それで。


「…………」


 静かに、俺っちを見つめているアガトク様っす。あの、俺っちの言葉、聞こえてましたっすよね? ここでまた「黙れ、裸になれ」って言われたら、もう観念するっきゃねーんすけど。

 マジで邪神とまぐわった場合、俺っちってどうなっちゃうの? 発狂で済む? それとももっと酷いことになんの?


「……なるほど。人間はそんなことをするのか」

「ふぇぇぇ?」


 永劫にも思える沈黙の後。アガトク様はそう口を開いたっす。


「過程を楽しむとは。刹那の時しか生きられぬ癖に、随分と悠長なものよなぁ。しかし、限られた時間を無駄にしてくというのも、また一興というものか。良かろう」


 彼女が右の人差し指を真っすぐに俺っちに向けてきたんすけど、この指は何? 結局俺っち、助かったの?


「どうせ永く退屈な身だ。たまには人間の戯れに付き合ってやろうではないか。ではコーシ。スケベするまでの過程とやらを、お前がエスコートしてくれ。過程を楽しんだ後のスケベは、最高に気持ち良いものなのだろう? 期待しておるぞ」

『セェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエフッ!!!』

『ま、マジであの状況から助かりやがったのだぁぁぁっ!?』


 ヤベー約束取り付けられた気がするけど、とりあえずこの場で殺されることはなくなったっぽいっす。後はマツリ達のチャージが終わるまで、適当に引き延ばしておけばそれでヨシッ! よっしゃァァァ、生き残ったァァァッ!!!


「しかし、恋愛とはまたどういうものだ? 我にはない観念であるが故に、想像ができんな」

『おいマツリッ! なんか恋愛物語的な、そーゆーモンはねーんすかッ!?』

『い、一応、わたし秘蔵の少女絵巻なら……』


 後で聞いたんすが、この世界の書物は全部巻物だったっす。目次に魔法論理マジックプログラムがかけられてて、見たいページまで自動的に動いてくれるやつ。んで少女絵巻っつーのは、元の世界で言う少女漫画と同じっすね。


「マツリが良いものを持ってるみたいなんで、後から持ってこさせるっすッ!」

「ほう、そうか。おい、マツリ」

『ひいっ!?』


 アガトク様が普通に声をかけただけなのに、脳内のマツリがビビッてたっす。えっ、嘘やん。何もなしに普通に会話できんの?


「恋愛を知れるという良いものを持ってこい。今すぐにだ」

『わかったのだぁぁぁっ!!!』

「よし。ではコーシ。しばらくは一緒だな」

「へぇ?」


 そして続けられた言葉に俺っち絶句。アガトク様、今なんつった?


「何を驚いておる。お前は我と恋愛するのだろう? ならば、近くにおらずしてどうする。心配するな、我が炎で住居くらいは作ってやる。我の傍にいれる名誉を、泣いて喜んでも良いのだぞ?」


 何故かアガトク様の傍で永住することが決まっていた件について。無理、助けて。この邪神様と四六時中一緒なんて、俺っちの身体が保たない。特に膀胱が。


「え、えーっとっすね。恋愛には、会えない時間をも楽しむっていうものがありまして」


 その後、俺っちの説得とちょうど少女絵巻を持ってきたマツリとの口裏合わせでセカンドオピニオンも貰い、何とかアガトク様に納得してもらうことができたっす。

 でも俺っちのことを気に入ったから、今夜だけは帰さんと言われたんすけど。嘘やん。会って初日からお泊りデート?



(眠れねェェェッ!!!)


 夜になって、硬い炎のベッドに横たわっている俺っちは今、目がギンギンに冴えてたっす。

 いやね、アガトク様が紅の炎を固めて掘っ立て小屋みたいなもんを作ってくれたんすよ、わざわざ。炎を固めるって概念が理解できなかったんすけど、もうそれは良いや。


 その中にはベッドもあって、毛布がないのにめっちゃあったかいから凍えそうってことはねーんすけど。


「どうしたコーシ? 眠れぬのか?」

(隣で邪神様が添い寝してくれてる所為で全く気が休まらねェェェッ!!!)


 アガトク様が見てるの。隣に寝転がって俺っちを見てるの。心臓と膵臓とついでに膀胱がバックバク言ってるの、ずっと。


「少女絵巻には、男の子と添い寝する彼女とやらがいると、心臓がドキドキして眠れなくなるとあったな。何だ、お前もいっちょ前に彼女である我にドキドキしておるのか? 愛いやつめ」

(違う意味でねッ!!!)


 マツリが持ってきた少女絵巻で時間を潰して、ようやく寝れるかと思ったのに。「眠れるまで我が居てやろう」なんて余計な善意を出してくれたの、アガトク様が。ありがた迷惑って言ったら、多分殺される。

 あといつの間にか、邪神様が俺っちの彼女になってる。へー、俺っち告白した覚えもされた覚えもないのに、不思議っすねー。おそらくは少女絵巻で読んだんだろーなー。後で訂正しとこ、面倒になる前に。


「い、いやー、その。硬いとこで寝るのに、慣れてなくて」

「そうか。ならば炎を柔らかくしてやろう。少し待……」


 とそこまで言った時に。ぷしゅーっという音とともにアガトク様が小さくなって。


「む。そうか、少し前に本体を顕現させたからな。使いすぎたか」

「あ、アガトク様がロリになったァァァッ!?!?!?」


 小学校低学年くらいの幼い女の子になったっすえええええええええええええええええええええええええッ!? 声も尊大な調子は変わらないんすけど、幼い子特有の高いものに変わってて、ビックリが止まらない。


「すまんな、驚かせたか。我は本体の分身なのだが、一部だけが変に力を使いすぎないようにと制限がかかっておる。制限が来るとこの通り、一定以上の力が使えない形態に変わる。まあこの姿でも、この惑星を焼き払うくらいなら造作もないことなのだが」


 スマホの通信制限みてーなもんすかね。料金プランによって一定までは使えるけど、それ以上は最低限しか使えなくなるっつーあれ。

 まあその最低限で星を焼き落とせるっつーんだから、神様のスケールの違いにはチビりそうなんすけど。血尿を。


「な、なんでそんな制限があるんすか?」

「不自由を楽しもうとした本体の気まぐれだ。他の分身だと、全く制限がかかってない者もおる」


 気まぐれて。でも制限があろうがなかろうがこの惑星は滅ぼせる訳なんすから、結局は誤差じゃね、こんなん?


「まあ良かろう。このまま添い寝とやらをするぞ」

「待って」


 家族や親戚でもねーロリと同衾とか、普通に事案っすから。中身が邪神だからとか、おそらく年齢が軽く俺っちの何万倍あるとか、見た目が幼いだけで成人していますとか、そういうんじゃねーからァァァッ!!!


「あっ、あー、そーっすねッ! アガトク様はまたなんで俺っちなんかの提案に乗ってくれたのでッ!?」


 少なくともこのまま寝る訳にはいかん。そー思った俺っちは会話を試みたっす。トークは大事、板東は英二。


「? ただの気まぐれぞ?」


 はい会話終ー了ォォォッ! どうして俺っちはこの邪神様との会話が下手くそなんすかねーェェェッ!?


「とは言え、そんな気まぐれを起こしたのも、お前が寵愛の星の元にあるからかもしれぬな。退屈であれば、さっさと炎の精にして取り込んで終わりだ」


 今だけは、今だけはこのステータスちゃんに土下座して感謝してるっす。俺っちがまだ命を繋げられているのは、そのお陰っすから。


「そ、そー言えばアガトク様って、よく退屈っておっしゃってますけど。神様って、暇なんすか?」

「ああ、暇だ」


 頑張れ俺っち。何でも良いから話を続けるんす。


「個で完成している存在となれば、本当にやることがない。お前達人間は生きる為に食糧を探したり、快適に寝る為に屋城を構えたりするのだろう? だが、我には何も必要ない。食べることも寝ることも、住処すらもな。それこそ本体が宇宙空間で生きていられるのだ。本当に何も必要ない」


 急に饒舌に話し始めたアガトク様。それは俺っちには、到底理解できないような内容だったっす。俺っち達は食ったり寝たりスケベしたいっつー欲望があるから何かしらの行動に出てるのに、アガトク様にはそれがない。

 だからこそ、誰とも関わる必要もない。生きる為に群れることすら、彼女には必要ねーんすから。何もしなくても生きていけるという、退屈。それは、どんな感じなんすかね? 想像もできねーや。


「だからこそ、本体は分身を各宇宙に派遣している。永劫の退屈を紛らわせる為に。我が生きている以上、何か意味がある筈だと知る為に」

「神様でも。生きてる意味って、わかんねーもんなんすか?」

「解らぬ。解っておったら、こんなことしておらんわ……だから、今はちょっと楽しいのだぞ、コーシ」


 すると、ロリのアガトク様――今後は密かにロリトク様って呼ぶっす――は、俺っちの方にすすすっと寄ってきたっす。吐息が近く、キスできそうな距離に。いや違うんですお巡りさん。


「お前は我とスケベしたいと言ってきた。そんな輩は、宇宙各所に散らばっている他の分身ですら、まだ未経験だ。こんな気持ちは初めてだぞ? お前は我に、まだ見ぬ世界を見せてくれそうだからな」

(健全な男の子の性欲が外宇宙の邪神をときめかしちゃったとか嘘やん)


 何処か嬉しそうなロリトク様っすけど、俺っちからしたら何か取り返しのつかないことをしでかしてしまったのではないか、という恐れしか湧いてこないっす。ねぇ、これ本当に大丈夫なの?


「では、そろそろ眠れ。もう人間が起きているには、遅い時間なのだろう?」

「い、いやね、アガトクさ」


 するとロリトク様は、俺っちの目もとを掌で覆ってきたっす。その瞬間、俺っちの意識が一気に遠のいていって。


「眠れ、コーシ。そして起きたら、また我と恋愛しようぞ」


 完全に意識が飛ぶ最後の時に聞いたのは、少し弾んだ調子でそう言っていたロリトク様の声っした。

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