第一話③ 超越者さん、こんにちは
「いやー、そう言えばコーシに邪気から身を守ってくれるお守りを渡すのをすっかり忘れていたのだ」
「何しれっと言ってんだテメーゴルァァァッ!!!」
船内の医務室にてようやく意識が戻ってきたところで、俺っちはマツリに対して抗議の声を上げたっす。
忘れてたわーメンゴメンゴ、くらいのテンションだけどふざけんじゃねーぞこのまな板ァァァッ! あんな邪悪な存在をガン見した所為で、リアル正気度が減って発狂しかけるとか聞いてねーっすよォォォッ!?
「でも契約で開花させたコーシの
「へ?
と思ったら、マツリから胸がときめきそうな単語が聞こえてきたっす。えっ、何? 俺っちになんか特別な力とかあったの?
「コーシと
召喚特典的なそういうやつだろうか。なんだよー、俺っちにもそういうのあるんじゃーん。もったいぶらずに教えてくれたら良かったのにー。
「ち、ちなみにどんな力なんすか……?」
「能力名は、【
「待てや」
びっくりするくらい投げやりな感じの能力名なんすけど。
「その名の通り、自己再生能力なのだ。コーシは怪我や病気、精神異常からでも自力で復活できるのだ。だからさっき邪神アガトクの狂気を受けて発狂しても、自力で復活できたのだ」
なるほど。さっき発狂しかけたのに寝て起きたら元気なのは、そういうことなんすか。要は、医者要らずの能力ってことね。
「流石に四肢の欠損とか致命傷、即死レベルは厳しいと思うけど。この能力があれば、コーシは怪我と万病のほとんどから復活できるのだ。しかも一度かかったものには免疫ができるから、次からもへっちゃらなのだ。凄いのだっ!」
「へ、へー。け、結構良いじゃん」
次からもへっちゃらということは、俺っちはもう邪神アガトクの狂気を受けても問題ない、ということっすか。カッチョ良いじゃんッ! もう邪神なんか怖くねーっすッ!
「という訳で、次は超越者の顔を見に行くのだ」
「待てや」
そのままさらーっと流して超越者のとこに行くとか言ってるけど、待てやコラ。
「なーんか俺っちに言うべきことがあるんじゃねーっすかねー?」
「……後でまとめて言うのだ」
後でまとめて? 何それ不吉。
「そろそろ南極に到達します。お二人とも、寒いので
「おっ、サンキューっす。外出るんなら靴も履かねーと」
「そう言えばお前、なんかさっきより小さくないか? わたしより少し高いかと思ってたんだか、今は同じくらいだぞ?」
「そ、そんなことねーってッ! ほら、さっさと行くっすよッ!」
やがてジャスティンがやってきて、俺っち達に
この世界は元の世界と同じく、部屋に上がる時は履物をぬぐ習慣があるので、俺っちもそれに習ってるんすけど……シークレットブーツのことだけは触れさせん。俺っちの身長を五センチ底上げしてくれてる、命より大事なコイツだけは……ッ!
あとちょくちょく思ってたけど、帆船といい巫女服といい、マツリ達の文化って古代日本って感じがするっすね。彼女達が履いてるのも草履だし。
歴史はあんまし詳しくねーっすけど、聖徳太子くれー時代? そのくらいの文化の形を残したまま生活レベルが現代化したっぽいイメージっす。だってトイレに蛇口あったし。
その癖、物の名前とか飯が西洋風なのがミスマッチ。乗っているこれも
んで、邪神アガトクは北極に。そして今から見る超越者の方は南極に居座っているとは。わざわざ惑星の反対側に居てくれている為に、まだ互いを知ってはいないらしいっす。運が良いのか悪いのか。
「さっむッ! こ、今度の相手は環境破壊してないみたいっすね。まだ穏当なんすか?」
デッキに出ると、目の前は吹雪。雪が舞い踊ってる極寒の地、というのが良く似合う場所だったっす。うんうん、これっすよ。俺っちが知ってる南極っつーのは。
「そんな訳ないのだ。見るのだ」
しかしマツリが指さした先を見た俺っちは、あんぐりと口を開けたっす。何故なら吹雪舞う中に燦然とあったのが、綺麗な花々が咲き誇る噴水付きの庭だったから。見たこともない機械がそこかしこで草刈りをしていて、その奥には控えめに見てもバッキンガム宮殿にしか見えない豪邸。
それら全てが巨大で透明な球状のドームに覆われており、そのドームの中にはもう一つの陽が昇っているという、訳の分かんねー光景だったっす。
「なぁにあれぇ?」
「知らないのだ。この星で眠りについていた超越者が目覚めてから、次の日にはもうこうなってたのだ」
一日でこの規模の工事が終了するとか、何をどうしたらできるの? ドラ●もんでもいんの?
しかもそのドームの周りには、さっき邪神アガトクが蹴散らしていたのと同じ泥人形が蠢いているのに、その全てがドームに触れた途端に崩れていってるっす。星の免疫作用がオートで処理されてるとか、意味不明なんすけど。
「そしてあそこにいるのが、超越者のセイカなのだっ!」
科学力という言葉で片付けて良いんだろうかと俺っちが思考停止していたら、続けざまにマツリが指さしたっす。いつの間にか、
ドームの内側は黒い小さい点がいっぱいあったっすけど、穏やかな気候であり、午後の麗らかな日光が照らし出してるっす。マツリが指した指の先を目で追ってみれば、庭で机と椅子をセットしてティーポットに紅茶を淹れ、三段のケーキスタンドに様々なスイーツを載せて午後のアフタヌーンティーを楽しんでいる、一人の女性がいたっす。
亜麻色の髪のおさげに、見えているのか不思議なくらいの細い糸目。左側には泣きぼくろも見えるっす。座っていても解るくらいの長身に、更には爆乳と呼べるくらいのスタイル抜群の美女。クリーム色の縦セーターに青いジーンズ姿の彼女が、超越者セイカだったっす。
「どう見ても午後のひと時を楽しんでいる普通の女性にしか見えないんすけ、ど」
俺っちはそこまで言って言葉を切ったっす。何故なら、あるものを見つけてしまったから。そして俺っちの気づきに呼応するかのように、彼女が憂うような声を漏らしているっす。
「……あなた」
うん、俺っちが見つけてしまったものって何だと思う? 正解は、左手の薬指でキラリと光っている指輪でしたーッ!
「おいマツリ。超越者って、もしかして」
「うむ。ご想像の通り、未亡人なのだ」
「前の旦那にゾッコンだった未亡人と二股しろとか命がいくつあっても足りねーっすよォォォ!?」
「う、うるさいのだっ! お前それでもチャラ男かッ!? 前の旦那なんか忘れさせてやるよ、くらいの貫禄を出せないのかっ!?」
「見習いだっつってんだろうがッ! だいたいテメー、チャラ男をAVとかエロ漫画に出てくるスケベと口が上手いだけのクズ男と勘違いしてんじゃねーっすかッ!? こちとらバッキバキの童貞なんすよッ!?」
「わたしだってガッチガチの処女なのだっ! 何とかして欲しいのだっ!」
「「…………」」
「……あの。どうして二人して膝から崩れ落ちてるんですか?」
ジャスティンがおずおずと声をかけてくれたっす。うん、ね。こう、我が身を顧みたら、なんか。ちなみにジャスティンに女性経験を尋ねてみたら、「まあ、人並みには」という返答をもらったっす。そっかー、人並みっすかー、あははー。
「あら、お客様かしら?」
するとそんな声が聞こえてきたっす。ギョッとしてデッキから顔を覗かせてみると、超越者であるセイカさんがこめかみに人差し指を当てながら、こちらを見上げているではありませんか。
「ひい、ふう、みい……全部で二十名ね。ごめんなさい、気づかなかったわ。見慣れない方に、あら、マツリちゃんじゃない。何か御用かしら? 特に頼んでいたものはないと思ったのだけれど」
「何でもないのだっ! たまたま通りかかっちゃっただけだぞっ! 失礼しましたのだーっ!」
俺っちもマツリも顔を出してない筈なのに、どうしていることが解ったんすかね? 見慣れない方って、もしかして俺っちのこと? ひょっとして透明なドームの内側に細かくある黒い点って、全部監視カメラとかだったりする?
そんな馬鹿なぁ、と俺っちが一人でないないとやっていたら、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます