陰キャ探偵豆蔵
冨平新
陰キャ探偵豆蔵
11月の音楽室の掃除当番は6年2組、掃除を終えて反省会をしていた。
「反省会を終わります」
「ピアノを掃除してるのは誰?」
「え?あ、はい、私です」
「今日は今のところ、ちゃんと
そう言うと、
翌朝、
「昨日の掃除の後は、
◇◇◇
その日の1時間目は5年1組の音楽の授業、
「日直!」
「きりーつ!れい!」
「よろしくお願いします」
「ちゃくせーき!」
児童が席に着いた。
「今日はまず、音楽室の掃除についてです!ピアノの掃除をする人は、最後に
児童はざわざわし始めた。
「ヒステリーババア、今日も朝からヒス起こしてるよ」
「ピアノのカバー、いつもちゃんと
「渡辺先生とうまくいってないんじゃないの?」
渡辺先生とは、図工専科の教師、
◇◇◇
5年1組の放課後。
「
「だから渡辺先生が
「渡辺先生の車の助手席に乗ってるときには眼鏡はずしてるよ。眼鏡外すと、女優かモデルみたいに美人でビックリした」
「渡辺先生は美人が好きなんだね」
クラスで一番のイケメン、
「それにしても音楽室のピアノのカバー、誰がやってるのかな」
「音楽室にいる幽霊だったりして!」
「キャー!」
「こわいよ~、やめてよ~」
「このままじゃ、音楽の時間は
豆蔵、とは
「豆蔵!ちょっといい?」
「まーだ残ってるの?」図工の渡辺先生が、5年1組の教室に入ってきた。
「渡辺先生」
渡辺先生は人気のある教師で、5年1組のこのメンバーからも好かれていた。
「先生、音楽室の怪、知ってる?」
「ああ、ピアノのカバーの事?」
「
「ああ、僕はハッキリと言っておく。
「らしいよ。今日も音楽の時間にそのことでヒス起こしてた」
「掃除当番はカバーを
「そう、実は僕も何とかしたいと思っているんだよ。
そう言うと、渡辺先生は笑顔で豆蔵こと
豆蔵は、読書を止めて渡辺を見た。
「僕も豆蔵に頼もうと思っていました!豆蔵が探偵なら僕は助手になるよ!」
「ピアノのカバーを毎晩グチャグチャにする、というこの犯罪は、誰かがやっているわけなんだけど、容疑者は誰だと思う?」助手の
「保健室の大熊先生は?渡辺先生のこと好きらしいよ。渡辺先生と
「6年3組の水野君は?
「それでは、佐藤さんは大熊先生を、田川さんは水野君を調査してください」
◇◇◇
豆蔵は、読んでいた本を鞄にしまうと、おもむろに立ち上がった。
「豆蔵、どこ行くんだ?」
「音楽室に行ってみる」
「僕も一緒に行くよ!」
二人は音楽室に着いた。ピアノカバーは、
「児童や教師が完全に学校から出たら、警備員が全ての教室の鍵をかける、と渡辺先生が言ってたよね。当然、音楽室の扉からは誰も入ることはできない。佐藤さんと田川さんに大熊先生と水野君の登校時間などを調べてもらっているよ」
「明日、朝早く登校して、正門が開くのを待って音楽室に行ってみる」
「それなら僕も!7時頃なら、まだ正門は開いてないよね」
豆蔵と
◇◇◇
チャラリン!
帰宅した
「佐藤さんからだ」
『今日の放課後、保健室の大熊先生と話をしたら指輪してて。大熊先生って結婚してたんだって。保健室で仕事するときには外してるだけなんだって。それから、渡辺先生のことは好きだけど、恋愛とかじゃないって。以上』
「なーんだ。じゃあ、容疑者から外れるな。となると、6年の水野君か・・・」
チャラリン!
「田川さんからだ」
『小泉君のお兄さんが水野君と同じクラスだから、小泉君に連絡してみた。お兄さんに水野君のことを聞いた。教室ではよくしゃべるけど、
「水野君でもないのかな・・・」
◇◇◇
朝7時少し前に、
「豆蔵っ、おはようっす!」
「おはよう。校門が開いたら、すぐに音楽室へ向かおう」
15分ほど過ぎた頃、赤い軽自動車が正門の引き戸の前で停まった。見たことがある先生が車から降りてきた。
「おはようございます!」
「おはよう。早いね~。日直さん?」
「いや~、朝サッカーやろうかなって」
「そう。今開けるね」
見たことのある女教師が正門のスタッキング引き戸の鍵を開けた。
「ありがとうございまーす!」
二人は音楽室めがけて弾丸のように走っていった。
警備員は小学校の中で夜を過ごし、早朝に巡回して全ての教室の扉の鍵を開けて正門を閉めて帰る、と渡辺先生が言っていた。
ガラッ‼
「・・・ああ、こういう感じか」
「ピアノ周辺を見てみよう。何か見つかるかもしれない」
豆蔵は、丹念にピアノ周辺を観察し始めた。カバーを退けて、ピアノを少し見た後、ゴミ箱の中を見た。音楽室ではほとんどゴミが出ない。
「犯人の目星はついたよ」
「ええーっ!?」
「証拠を撮影したい。放課後、音楽室にビデオカメラを設置してもいいか、渡辺先生に聞いてみよう」
その日の放課後は、渡辺先生が職員室にいなかったので、次の日の放課後に相談した。すると、すぐに事情をわかってくれて、視聴覚室のカメラを二台と三脚などを借りてもいい、と言ってくれた。
今から明日の朝まで渡辺先生の名前で借りるから、明日の朝8時までに職員室の先生の机の上に戻してほしい、と言われたので『必ず戻します』と二人は約束した。
下の引き戸と、ピアノのカバー辺りがしっかり映る位置の二か所にカメラをスタンバイさせた。そして豆蔵は、音楽室の隅に何かを置いた。
「えっと、夜で暗いから『暗視モード』にした方がいいな」
「犯人が現れないときにはカメラを回さないで、動きがあった時だけ動画撮影できる『動体検知モード』にしておこう」
二人は取扱説明書を丁寧に読んで、絵の通りにセットして、音楽室を出た。
「ピアノカバーの犯人、豆蔵の推理が当たってるといいな」
「多分、当たってると思うよ」
「すごい自信だな~!それじゃ、また明日、7時に正門前で!」
二人は分かれ道まで一緒に帰り、片手を挙げて別れた。
◇◇◇
翌朝も二人は7時に正門前に集合し、一番に来た先生が正門の鍵を開けた。
二人は音楽室に飛んでいき、セットした二台のカメラと三脚を回収した。ピアノカバーはやはり、グチャグチャになっていた。
「昨夜も犯人は来たんだな」
「証拠映像を撮れたから、解析は放課後にしよう。犯人が映っているSDカードはこのカメラに入れっぱなしになっている、と渡辺先生に手紙を書いてきたよ」
「さすが豆蔵!もしかしたら渡辺先生が先に見ちゃうかもな」
豆蔵は、何か別のものを回収した。
「これも後で見せるから」そう言うと、ポケットにしまった。
放課後、5年1組の教室に、豆蔵と
渡辺先生は、1時間目から授業が入っていたので、犯人が映ったSDカードは先生が保管、カメラには代わりに別の新しいSDカードを入れたと伝えてくれた。
「それでは、昨夜撮ったこの映像を見る前に、豆蔵先生の推理を
助手の
「みなさん、これを見てください」豆蔵が、オレンジ色のかけらを取り出した。
「・・・人参?」
「そうです。キューブ型に切った人参を音楽室の隅に置きました」
「・・・だけど、キューブ型じゃない」
「かじられてるみたい」
「・・・この人参をかじった人が犯人ってこと?」
「次に、これを見てください」豆蔵は、小さなパウチに入れたものを見せた。
「砂?」
「そうです。この砂は、音楽室の掃除当番が掃除をしてゴミ箱に入れたものです。実はピアノの上にもあったのです。掃除当番が
「砂なんて細かいものは、視力が悪いと良く見えないよね。それで彼女は砂に気づかなかったんだ」
渡辺先生が、貫先生の事を『彼女』と言ってしまった。
「ヒューヒュー!」
「あ~、アツい、アツい!」
渡辺先生は赤くなってニヤニヤした。
「じゃあ、人参かじって、砂をばら撒いた人が犯人ってこと?」
「『砂かけババア』じゃないの?」
「それ、妖怪じゃん!」
「キャー!」
「でも、『砂かけババア』って、人参食べるっけ?」
「てか、『ゲゲゲの鬼太郎』のキャラだし」
「人参と砂。一見、結びつきにくいですね。次に音楽室の廊下側の下の引き戸についてです。この引き戸のひとつは、鍵が壊れているのです」
「それじゃ犯人は、警備員さんが見ていない隙に、廊下を通って下の引き戸を開けて音楽室に入ったってこと?」
「そうです」
「だけど、学校は全部鍵がかかってて、警備員さんが学校内で泊っているんだよね。どこから学校に入ってきてるの?」
「犯人は学校にいつもいます」
「えーっ!」
「いつもいる、って、どういうこと?」
「いつもいるけれど、僕たちの前には姿を見せないのです」
「ってことは、やっぱり、お化けとか?・・・」
「キャー!」
「彼らは1㎝よりも狭い
「・・・じゃあ、人間じゃないってこと?」
「そうです。犯人は、ネズミです」
「ネズミ?」
「僕は給食当番の時に、配膳室の
「確かに、ピアノカバーの赤い方って、手触り気持ちいいかも」
「フワフワしたタオルに乗って笑顔になってるハムスター、ツイッターで見たことある」
「朝晩、寒くなって来たもんなあ」
「ネズミは基本的には草食動物です。なので、人参を置いてみました。案の定、かじっていたようです」
動画試写会が始まった。カメラに豆蔵以外のみんなが顔を寄せ、夜の音楽室の様子を見た。豆蔵が言った通り、廊下側の下の引き戸からネズミが入ってきて、多少うろちょろするものの、最終的にはピアノカバーの下に
「ひえー、これが真相だったってわけか」
「豆蔵、やっぱりすごいな!よっ!名探偵豆蔵!」
豆蔵が、クラスメートの前で初めて照れくさそうな笑顔を見せた。
「あ、
振り返ると
「みんな、ありがとう・・・」
しかし、ネズミがうようよと音楽室の中を
「先生っ!」
「僕が保健室に連れて行くから、大丈夫だよ」
渡辺先生は、
◇◇◇
しばらくして、渡辺先生と
「豆蔵先生、
新婚ホヤホヤの渡辺先生は、本当に嬉しそうだ。
陰キャ探偵豆蔵 冨平新 @hudairashin
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