第6話 兄弟
「まあ。タクヤまた、テストで100点取ったの!本当にすごいわ!」
「母さん。たまたまだよ」
「たまたまは、何回も続かないわよ!タクヤの実力よ」
俺が小学生の時から、いつも母親は、一つ年が上の兄を褒めていた。褒められても謙遜している兄の姿に嬉しさを感じているのか、兄を褒めている時の母親はいつも笑顔だった。
満面の笑みを浮かべる兄の横で沈んだ表情をしていた俺を見て母親は、眉間にシワを寄せた。
「それに比べてユウト!あんたはまた、0点!?この前も0点だったよね?」
「…ごめんなさい」
「ごめんなさいじゃないわよ!あー。本当にタクヤと比べてこの子は本当にだめね。」
母親はいつも出来る兄と出来ない弟の俺を比較して俺にキツく当たってくる。
兄に対する劣等感は、叱られるたびに増してきていた。
そんな俺を見て、母親に叱られた後の俺を、兄は、自宅の兄弟2人部屋に戻った後にいつも励ましてくれていた。
「ユウト!0点取ったからって気にすんなよ!0点って事は、100点取れる可能性を秘めてるって事だからさ」
「…うん。」
前向きで純粋な兄の言葉。
小さいながら内心吐き気を感じていた。
兄に対する劣等感と同時に兄を見返すという対抗心と向上心は増していく。
この時の向上心が折れずに続いていたら、多分、違った未来になっていたのかもしれない。
俺は中学生になった。
いまだに、勉強でも運動でも母親から向けられる好意にも兄に勝てない。
高校生に上がった。
兄に勝つ!
まだ、この時は向上心は失っていなかった。
休み時間…クラスメートがアホみたいな雑談をしている。
「なあ知ってる?電車で飛び降り自殺すると家族に1億円の損害賠償請求されるらしいぜ!」
「やばくね?1億円とかやばくね?宝くじ1等じゃね?」
そんな雑談が狭い教室の閉ざされた空間ゆえに嫌でも聞こえてくる中、俺は内心、くだらないと一蹴し、勉強に励んでいた。
塾にも通った。全ては兄に勝つために。ただ、その気持ちを一心にして。
俺が高校2年の冬…塾の冬季全国模試で8位を取った。
嬉しさが込み上げた。
模試の結果が載っている紙を持って家にうきうきしながら帰った。
これで兄に勝てる!母親に褒めてもらえる!
こう考えると、俺も兄と一緒で純粋だったのかもしれない。
そんな希望を胸に秘めて、俺は家の扉を開けた。
母親と兄が話をしていた。
丁度良いタイミングだと、俺は感じたのかもしれない。
「ねえ!母さん!俺、全国模試で!」
声高らかに俺は母親に伝えようとした。
だけど、現実はそう上手くはいかなかった。
「まあ。タクヤ!あの超難関大学に合格したの!?」
「母さん。そんな。たまたまだよ」
今までに見た事のない笑顔を見せていた母親の姿と褒められて照れてる兄の姿だった。
そんな光景を見てしまった俺は、言いかけていた言葉をしまい込み、俯きながら、亡霊のように自分の部屋に向かう階段を登った。
母親がそんな俺に声を掛けていた。
何を言っていたのかは亡霊のようになっていたから分からない。
自分の部屋でもはや、無力と化した冬季全国模試結果の紙くずをビリビリに破り捨ててゴミ箱に力強くダンクして寝た。
何も考えたくなかった。
俺が高校3年生になった。
兄は大学1年生になった。
毎日の夜の食卓で母親は兄の大学のキャンパスライフの話を嬉しそうに聞き、兄はそれに対して楽しく話していた。
一緒の食卓にいるのに亡霊のようになっていた俺はもはや蚊帳の外だ。
そんな空間に嫌気が差したのか俺は高校3年生の4月の終わりに家出をした。
つづく
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