第2章 悪魔の誕生
第5話 創始者は考える
スロット「マクラー」の創始者、ユウトは自らの社長室にある本革の椅子に深く腰掛け物思いにふけっていた。
ー退屈だ。
彼は、伝説の名機「マクラー」を生み出し、巨万の富を手に入れた。
だが、巨万の富を手に入れてと彼は満たされなかった。
誰もが羨むお金持ち。だが、楽しかったのは束の間だった。
皆が汗水垂らして溜めたお金で買う車もブランド物のバックも少し手を伸ばせば簡単に手に入る。
お金を使っても使ってもなくならない。
欲しいものはすぐに手に入る。
だが、退屈を吹き飛ばす養殖ではない、天然の刺激は、お金では手に入らない。
ユウトが人生最大の刺激で快楽に包まれたのは、巨万の富を手に入れる前であった。
元々、金融屋に勤めていた。
そこでの給料は、激務と引き換えに普通の一般人よりかは、少しいいかなというぐらいであった。
今と違って、車が欲しければローンを組んで分割で買う。ブランドのバックが欲しければ、お金を貯めて買う。
普通の感覚であった。
ユウトが働く金融屋にお金を借りに来る顧客の中には、ギャンブルに依存して、お金が無くなり借りに来る者もいた。
「後、1万円あれば勝てるんです!お金を貸してください!」
汗だくだくの顔で頼み込んでくる汚らしいおっさんをユウトは内心さげすさみながら、作り笑顔を顔中に貼り付けてお金を貸していた。
ーこいつら本当にバカだな。
顧客が帰った後のユウトの顔は貼り付けていた作り笑顔を引っ剥がして、真顔になっていた。
その時に、今後の人生を大きく変えるアイデアを思いついた。
ーそうだ。こいつら、バカから金を巻き上げるシステムを作ろう!
思い立ったが吉日!ユウトは、働いていた金融屋に退職願いを出し、行動を始める。
ユウトは、スロットの機械を生み出そうとした。当然だが、そんな機械を作れる技術は持ってない。だが。どのくらいで当たるか?どんなキャラクターを使うか?どのくらいのメダルが出るか?どんな内部のプログラムになっているか?とかの設計図は紙とペンがあれば作れる。
無職の期間、1ヶ月を使い、取り憑かれたように設計図作りに打ち込んだ。
設計図が完成したら、SNSを使い、大学時代の知り合いに、機械作成出来る人間がいないか探し、見つける。
金融屋時代に貯めた貯金から、知り合いに作成費を渡して作成してもらい、ユウト作の初代スロット機「マクラー」が出来上がった。
「マクラー」に描かれたポップなピエロの絵柄は、後に親しみやすさから「マクラー」=このピエロというイメージとなり、大ヒットの一因を飾る事となる。
機械は出来上がったが、その機械をパチ屋に置くにはどうすればいいのか?
ユウトは考えてとあるアイデアを思いつく。
元々働いていた金融屋の仲が良かった従業員の中に、パチ屋を経営している知り合いがいる事を聞いており、交渉を仕掛ける。
ユウトの儲け話の内容は、パチ屋に1ヶ月限定で「マクラー」を設置してもらう。
1ヶ月間は、レンタル料無料。
パチ屋側にとっては、ほとんどデメリットもないので快く受け入れてくれた。
同時に金融屋の従業員を通して、そのパチ屋の近くに街金を作ってもらう。
その作ってもらった街金に損失が出た場合はユウトが全額損失を支払う事を条件にした為、こちらも上手く事は進んだ。
ユウトは、自作で「マクラー」新設置のポップも作り、そのパチ屋にこじんまりと貼ってもらい、同時に自身でブログを立ち上げた。
『新台スロットマクラー創始者が語るマクラー攻略法』
とタイトルを付けて。
このブログには、本当にマクラーの攻略法を乗っけていた。攻略法の通りに打てば確かに勝率が上がる。だが、1週間、1ヶ月、1年と長いスパンで見た時には、結果的には負ける形になっている。それを気づかれない為のカモフラージュが攻略法通りに打てば勝率が上がるという事実である。
日々のブログ更新などの努力の甲斐もあってか、1ヶ月後、結果的にマクラーは大ヒットとなった。
マクラーにお金を注ぎ込むギャンブル依存症の者は、すぐ近くにあるユウトが仕込んだ金融屋にお金を借りに来た。
この金融屋にもユウトは仕掛けを施していた。
その仕掛けとは
・普通の大手街金とかと比べてお金を貸す審査をかなり簡単にしている。色んな他の街金でお金を借りまくっていて借りれない者にもお金を貸している。ただし、その場合は、少額のみお金を貸す事となる。
・闇金のように暴利ではなく、法定基準ギリギリの利益率にしている。
この二つが意味する事。
それは、闇金のように暴利ではなく法定基準内の金利の為、闇金から借りたお金は払わないという理屈を潰す事と、ギャンブル依存症の者がお金を借りやすくする事。
極め付けは国が作り上げたルール
『ギャンブルで出来た借金を自己破産は出来ない』
このルールにより、逃げ道を潰す。
厳密に言えば、ギャンブルで出来た借金を絶対に自己破産出来ない訳ではないが、ギャンブルで借金まみれになるようなバカにそこまで考える頭は無い。
そうは言えど、お金を返さない者が出てくるのが金融屋の常である。
だが、ユウトが作った金融屋では、脅すなどの手段は取らない。
優しく諭して上げて、金融屋のネットワークを使い他の金融屋を紹介して上げて返済させる。その繰り返しの果てに、もはや、ユウトの作った金融屋とは関係のない金融屋でその顧客が恐喝にあったとしてもユウトの知ったこっちゃない事だ。
その後、大ヒットしたスロット機「マクラー」は全国展開され、ユウトの生み出したスロット✖️金融屋のアイデア料などで、巨万の富を手に入れる。
巨万の富を手に入れた時もそうだが、自身が生み出したアイデアが大ヒットした事に、ユウトは今まで得ることが出来ないほどの快楽を手に入れた。
その快楽は中毒となる。
巨万の富を手に入れても満たされない。
だから、退屈していた。
そんな中、ユウトのスマホに1通のメールが届いた。
大手ゴシップ、スキャンダル紙『週刊ウェンズデー』からの取材依頼だった。
週刊ウェンズデー取材依頼記者『マツモト ユリ』
この名前を見た瞬間にユウトは、舌唇を軽く舐めた。
「遂に来たよ。天然の刺激が」
ユウトは、不気味な笑みを浮かべていた。
つづく
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