第4話 借りたお金の重さ


 人から借りたお金ほど軽いものはないのかもしれない。

借りる時は、あんなに頭を下げて感謝をした1万円なのに。


俺はユリから借りた1万円を悪魔のピエロに軽々しく飲み込まれていた。


前回と同じだ。

今日こそは勝てる!

と思ってた。


残額9千円、8千円、7千円…千円とどんどん飲み込まれていた。

いまだに奇跡の「行け行けランプ」は光る面影すら見せない。

受け皿のメダルは無くなっていた。


機械台残額表示…千円。


ここでやめれば千円は返ってくる。


だが、たった千円だぞ。

この時点で俺の脳内の金銭感覚は狂っていた。


昼飯で千円のランチ食べるのに高いなーって躊躇うのに、「マクラー」に注ぎ込む千円は、鼻紙の如く軽い。


残り千円を…メダルにした。


これで「行け行けランプ」が光らなければ俺の持ち金は0円となる。


奇跡を信じて、リールを回す。


どんどん飲み込まれていくメダル…残り3枚。


真のラストチャンス。これでミスれば、もう、俺に未来はない。


ラストリールは回転を始める。

ボタンを押す毎に、額に汗が出始める。


3つ目のボタンを押した。


ー奇跡よ!起こってくれ!!!


「キュイイイイイン!!」


奇跡は…起こった!


「行け行けランプ」がピカった。

そして同時にブドウの図柄が揃いメダル7枚回復!


周りの奴らの視線が俺に集まる!!


ー分かってる!!答えてやるよ!!俺は奇跡ってやつを起こす!!


ドーパミンがドバドバ溢れ出す。

まるでギャンブル漫画の主人公が逆境から奇跡を起こすが如く、俺は「7」図柄を揃えて大当たりを引き当てる!!


「よっしゃぁぁぁっ!!」


あまりの嬉しさに俺は立ち上がって叫んだ。周りの奴らがびっくりして俺を見る。

だけど、そんな視線すら気にならないほどに俺はランナーズハイに入っていた。


ー最高に気持ちいいぜ!!


大当たりが終わった後の0回転リールを回す。


前回が、200回転以上回して大当たりを無駄にした。

だが、今日の俺は違う!

昨日までの俺とは違う!


20回転目…「行け行けランプ」がピカった!


今日この場で俺は、英雄なのかもしれない。


周りの奴らの視線を独り占めし、またしても、大当たりを引き当てる。


ー俺は英雄だ!崇めろ!!


大当たり後、100回転以内に大当たりを引き当てる事を、「マクラー」界隈では、「マク連」と呼ぶ。


その後も余裕の表情で打ち続けた。

隣のやつが、500回転回してるのに、「行け行けランプ」が光らなくて泣きそうな顔してる中、俺はまたしても、「マク連」をかます。


ーかわいそう。メダル分けてあげよっか?うっそー笑


隣のボロ負けしてるおっさんを心の中でバカにして俺の心は有頂天になっていた。


「マクラー」を打ち続けて2時間経過した。


俺は、そろそろ帰らなきゃと思い、大量のメダルをケースに入れて換金した。


換金額…3万円だった。


マクラーに使った金額1万円と考えると、プラス2万円勝ちだ。


俺は帰り道を歩きながら考える。


ー2時間で2万円。時給換算すると、時給1万円の仕事を俺は楽にやった事になる。

こう考えると真面目に働いてるのがバカらしいな。


すっかり俺の中では、昨日、「マクラー」で負けた事が記憶からすっぽり抜けてしまっていた。


昨日、お金を借りて迷惑をかけてしまったユリに夕食を奢ってやろうと思い、通話・メッセンジャーアプリの「ライム」を使い、連絡する。


この時、「マクラー」で勝って有頂天になっていた俺は、後にこの選択をしてしまった事をとてつもなく後悔する事となる。


もし、タイムマシンがあるのなら俺は、この時の俺自身をぶん殴って、ユリを夕食に誘うライムなどせず、真っ直ぐに家に帰らせていたであろう。


つづく

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