第2話 奇跡
「行け行けランプ」の青白い照明に包まれた悪魔の機械台で微笑むピエロ。
俺は、機械台で高速回転する図柄リールを左から「7」、真ん中に「7」に揃える。
ここからが究極のジャッジがかまされる瞬間だ。
最後に右に「7」を揃えれば大当たりだが、もし、「7」ではなく、「BER」だった場合は小当たりとなる。
この「7」か「BER」のどちらが右リールに止まるかは、神のみぞ知る。
俺は、神に祈りを込めるが如く、右リールを止めるボタンを押す。
周囲の視線は今、俺に集まってる。
右リールは止まった。
「7」だった。
俺の脳内で溢れ出る脳汁は、ドバドバと溢れ出る。
「テレレレーン!」
大当たりの時に流れる音が、俺の機械台から流れ出る。
周辺視野で見える。周りの奴らが羨ましいと羨望する眼差し、小さく舌打ちしてイライラした感じで再び自分の打ってる機械台に視線を戻すもの、隣に座って打ってるおばちゃんに関しては、唖然とした顔で俺を見ている。
ー最高に気持ちいい!!
この優越感は何者にも変え難い。
俺は、すまし顔で、嬉しさを押し殺して、ピエロの大当たり台を回す。
どんどん出てくるメダル。
大当たりが終わり、メダルが出終わった時には、あっという間に俺の機械台の受け皿がパンパンになってた。
このまま、連続大当たりを狙い、回転数が0に戻った悪魔の機械台を回した。
*
どれくらいの時間が経ってたんだろう。
優越感に浸りまくって、勝者の余裕をかましていた俺の機械台の受け皿のメダルは、残り数枚となっていた。
200回転目。
いまだに、「行け行けランプ」が光る未来が見えない。
さっき、舌打ちしていた奴。あの後、何度か「行け行けランプ」が光る音が聞こえた。
さっきまでイラついていた顔は、笑顔を隠しきれなくなってる。
ぶん殴りてえな。
さっき、羨ましそうに視線を向けてた奴。
舌打ちしていた奴と同じで、「行け行けランプ」が光る音が聞こえた。何余裕かました顔してんだよ。
俺と同じように受け皿のメダル無くなって絶望してくんねえかな。
隣に座っていたおばちゃん。何度も「行け行けランプ」が光る音が聞こえた。
ランプが光る度に、俺にニヤついた顔を見せつけてくる。
いちいち見てくんじゃねえよ。ピエロの機械台に顔叩きつけて、ピエロごとぶっ壊してやろうか?
残りメダルが少なくなるにつれ、イライラは増してくる。
リールを止めるボタンを押す音も段々、強くなる。
残りメダル3枚。ラストチャンスかもしれない。
俺は、奇跡を信じる。
俺は、このラストチャンスで大逆転を起こす!
そんな、賭博マンガの主人公になったような妄想を広げて、最後のリールを止めるボタンを押す。
奇跡は…起きなかった。
残りメダル0枚。「行け行けランプ」は光らなかった。
ピエロの顔が憎らしく思えて来て、台を殴ろうかと思った。
やめた。台を殴って、このパチ屋を出禁になったら困る。
俺は、重い腰を上げて、戦場を離れる。
振り向かない。後ろから、「行け行けランプ」が光る音が聞こえた。
振り向かない。
振り向いたら負けだ。
店を出て、家に帰る。
帰り道は、脳内自問自答反省会を行う。
ーあの時、やめていれば勝てたのになんで打ち続けたんだ。
ーもう、スロットはやらない。
ー所持金0円になっちまった。どうしよう。
ネガティブスパイラルゾーンに入り込んだ俺の脳内自問自答を繰り返す度に憂鬱になって死にたくなってくる。
俺は、家のドアを開けた。
そして、本当の憂鬱はここから始まるのだ。
つづく
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