第45話 誓い
「ルルと離れるのか?」
言った瞬間に、あ、やった、ってなった。
ボソッと言っただけだけど絶対ルルには聞こえてるよな。
「ルル、忘れてくれ」
「知らん」
「次、前足貸してくれ」
「知らん」
これは盛大に拗ねてるな。
むすっとして動いてくれないので仕方なく体ごと正面に回る。前足の間に挟まるようにして座った。今回はさすがに俺が悪いな。ルルの母親代わりとしてやっていくって伝えたのに離れるなんてルルにとっては筆舌を尽くしがたい裏切りだろう。
「悪かったって。……でもさ、依頼が完了したらさ、お前はキドのところに行くんじゃないのか?」
「続けるのは性格悪すぎないか?」
「心外だな。でもまあ人が悪いとは言われたことはある」
「同じだろう」
「いや、違うな。あの時言われたのは悪い人か」
「余計ひどいだろ」
「人でなしって言われたこともあるな」
「もうふざけには乗らん!」
今度は完全にそっぽを向いてしまったルルに対して、心底意外だったかのように驚いた顔を作って首を傾げた。
「カリカリしすぎじゃないか?寿命縮むぞ?」
「……主、性格が悪すぎないか?」
「実はそうなんだよ」
「今までの流れ全無視かっ?」
呆れたようにため息をつくルルをニヤニヤ眺めていたら、すんごい目つきでにらまれた。そのまま見てたら頭ごとかみつかれて即死するコースがよぎったので真面目に働いた。
「……ほら、終わったぞ」
「……」
俺を抱え込むように前足がクロスする。体がもふもふに埋まった。見上げると、目の前にルルの両目が迫る。
「あの、どいてくれないか?動けないんだけど」
「……」
「あのー、ルルさん?どいていただけません?」
「……いやだ」
「えっ?」
ルルは俺を抱いたまま見慣れた少女の姿になると、その小さな頭を俺の頭にこすりつけるようにしながらぽつりとささやいた。
「いやだと言っているのだ。何度も言わせるな。……主は主だ。我の母であり主なのだ。死ぬまで離れるなよ。離れたらかみつくからな」
最後のほうは涙声になりながらの懇願。
今にも消えてしまいそうな華奢な体と甘い声のコンボに耐えられる人類などいるのか。
ルルのほうへ向きなおすとその存在、鼓動を確かめるように抱きしめた。
「大丈夫だ。お前が嫌がってるのに離れるわけない。俺が悪かった。ほら、顔がぐしゃぐしゃになってる。大丈夫、大丈夫だから。離れたりしない」
「……うむ。絶対だぞ」
小さな背中を撫でさする。
奇妙な一体感に包まれそっと目を閉じた瞬間、
「おい!俺らの出番だぞ!!……っあ、ごめん。取り込み中だったか」
「いや大丈夫ですよ。それで?何が見つかったんです?」
「そのままで話すのかよ……」
「親なんですから子をなだめるのは普通でしょう」
ヨハンさんはやってられんという風に肩をすくめると、
「『L・R』のアジトが見つかった。話し合いに行くぞ」
快活な笑顔を振りまいた。
話し合いという名のカチコミだなあれは。
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