第44話 最終調整

 レン視点




 調査隊に合流してから一週間後、本部テントを再び訪れた。

 初確認地点調査の経過報告だ。といっても元人間のモンスターが出現して以降、変化なしだったからジブラルさんの眉が動くような知らせはもってこれなかった。


 ヨハンさんは、


「俺らはしょせん戦い専門に呼ばれてるからへたくそな調査で成果なしでも気にすんな」


 って言ってたけど気になるんだよなあ。俺らの扱いが罪人だからさ、働いていないと今度こそ牢屋に放り込まれそうで怖い。


「なにしよっかなー」


 ここまで時間を持て余すと逆に何しようか迷う。命令がないと勝手に動くこともできないし。


 とりあえず自室として使っているテントに向かう。


 その道中、隣でプラプラ歩いているルルを見てふとある仮説が浮かんだ。


「本来の姿のほうの汚れってどうなってんだ?」


「なんだ急に?」


「いやだってさ、いつも変身後の方で風呂入ってるだろ。本体のほうの汚れがひどいんじゃないかと思って」


「そんなわけない。変身状態の時に洗えば問題ない……のだが、うん、砂がついてるかもしれないな。ほれ、やってくれ」


「ちょっ、道端ででかくなるな!狭い!」


 テントが並ぶ中、半ばルルに埋もれるようにして進み開けた場所に移動した。


「うわ、結構ついてるな」


『そうだろう?』


「なんで嬉しそうなんだよ」


 フフンと鼻を鳴らすルルの背中を『コンポスター』お手製のクシですいていく。茶色っぽくなっていた体毛がみるみる元の白銀の輝きを取り戻していった。


「次、尻尾」


『うむ』


「違う、俺に巻き付けてくんな。なんもできないだろうが」


『はははっ』


「ったく……」


 こいつ、こんな性格だったか?いや元々気まぐれな感じだったけれど全体的にクールだったはず。


 ルルは気持ち良さそうに閉じていた目を開くとしみじみとつぶやく。


『昔は母にも毛づくろいしてもらっていたな』


「そうか。……俺の毛づくろいはちゃんとできてるか?」


『なんだ?対抗心を燃やしてるのか?』


「ちげぇよ。ニヤニヤすんな」


 キチンと綺麗にしてあげられてるか確かめたかっただけなんだけど。嫉妬なんてものはない。……ないよな?多分

 とりとめのない思考に意識を引きずられかけながら黙々とルルをきれいにしていく。


「次、頭。かがんで」


「うむ」


「……いたずらでも噛むなよ。死ぬから」


「そ、そんなことするわけ、ないだろう?」


「頭を動かすな。こっち向け」


 至近距離で目があう。が、すぐにそらされた。


 そらされた視線に虚しさを覚えながら眠たくなるようなリズムでこなしていく。


 そういう単純作業になって思考に引っ張られたからだろうか。突拍子もなくあんなことを口走ったのは。


「ルルと離れるのか?」

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