第46話 正体
5日後、俺らはナザレ郊外の『L・R』の拠点に赴いていた。これでもかという偽装を施して森の中に作られていたのによく見つけたな。
「いいか、最初は穏便にな。相手から手を出させるんだ。正当防衛が成立すれば気絶で済むかはこっちの問題じゃない」
「ただのカチコミじゃないですか……」
いたずらっぽく口に人差し指を当てるヨハンさんに真面目に突っ込む気も失せて呆れだけが乗ったため息をついた。
「話し合いだっていっただろ?『L・R』の方々と話をつけに行くんだよ。そっちが本命」
そういうと半身を物陰に隠しながらドアらしきものを押し開ける。
「手荒い歓迎はなしか」
「中に人はいるみたいだぞ」
鼻をスンスンさせてルルが伝える。乗り込みに関してはルルがいれば相手の待ち伏せなんて意味なくなるな。
軽く頭を撫でてルルに感謝を伝える。
「へへ……」
「出てこないみたいだな。こちらから行くぞ」
薄暗い室内に歩を進める。埃っぽい家具が散乱しているだけで人影はない。
「ルル、どこにいるかわかるか?」
「ちょっと待ってくれ主。いま……ッアクシュン!!」
埃にやられてルルが盛大にくしゃみを爆発させた。
「大丈夫か?今……」
「大丈夫だ。風魔法は使うなよ。匂いが散る」
発動しようとしていた手前、ぐうの音も出ない。ならせめて、と『コンポスター』で周囲の埃を吸い取っていく。
「それがレンのスキルか。掃除が楽そうだな」
「ギルドのゴミ処理員だったころには重宝してましたね」
「ゴミ処理員だった?そんなに強いのに?お前のところ強さおかしくないか?」
いわれもなくヨハンさんにあきれられていると部屋の奥からルルの声がかかった。
「主―!みつけたー!」
ルルが示す先にはずらした床板とそこから端をのぞかせている縄のはしご。典型的な隠し通路があったってわけだ。
「よくやった!えらいぞ!」
ドヤ顔でVサインを返すルル。自信があることはいいことだ。うん。絶対に親バカな気持ちない。たぶん。
「見つかったんだったら早く入るぞ!はっ!!」
ヨハンさんは穴に向かって走り出すとそのまま飛び降りた。一瞬罠かもって思ったけどあの人には罠にかかったとしても無傷で帰ってきそう。
ヨハンさんに先導されるように降りてきた穴の先にあったのは独房のような部屋がいくつもの連なった小道。直線に伸びるその先には広場が見える。
「中には誰もいないようだが……」
ヨハンさんがドアの隙間から独房を覗き込む。
独房の中には簡易的なベッドが置かれているだけ。俺も覗いてみたが人がいた痕跡すらも見当たらない。
「違う、奥だ。多分我らを待ってるな。匂いが動かん」
いつ魔法が飛んできてもいいように腰をかがめて戦闘態勢に入りながらじりじりと進んでいく。
広場の中央にはローブを着た男が一人、背を向けてたたずんでいた。
その男以外に人影がないことを確認するようにあたりを見渡すと、ヨハンさんは堂々と男に近づいて行った。
「勝手に入ってすまないがあんたに聞きたいことがる」
「本当に失礼じゃな。侵入者に話すことはない」
ヨハンさんがポケットから便箋を取り出す。
「これは国からの命令だ。これを見てみろ」
「いや、いい。話す気はない」
男がそう言った瞬間、男の後ろにあったものが動き出した。
「レェンンン!!コロスゥ!!」
「シュウ!?」
黒い霧をまとい変わり果てた姿になっていたシュウがそこにいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます