第42話 目標
「レン、お前に目標はあるか?」
つばぜり合いののち距離をとった。
「なんでっ、今聞くんですか?!」
ただでさえ稽古で頭いっぱいなのに質問に答える余裕なんてあるわけない。ヨハンさんとは違うんだよ。油断したら一発で負けるんだって。
姿勢を低くして駆けヨハンさんの足元を払う。
後ろに跳んだ彼を追いかけるように踏み込み、突きを繰り出したがすげなくあしらわれてしまった。
彼の顔からにやついた表情ははがれない。
「人は極限状態にあるほうが本音が出るっていうだろ!!」
自分と闘うことが極限状態とかどんだけ自信あんだよ。実際そうだけど!!
袈裟切りののち踏み込み、横払いを放つ。
「目標なんてっ!ない、ですよっ!」
追われ、逃げ、捕まった。
考えている暇なんてあるわけなかった。
片手だけで剣を持ち俺の攻撃を受け流すと、その流れのまま頭上から振り下ろしてくる。
後ろに跳びギリギリでかわす。一応の手心は加えてくれているようだ。
「ないなら作れ!関係の浅い俺が言うのもおかしいけどな!お前には覇気がない!」
ヨハンさんが距離をとった俺に引き寄せられるように踏み込むと突きを繰り出す。胸の中心を突かれ、しりもちをつく。
ヨハンさんはいつものひょうひょうとした雰囲気を捨てた真剣な面持ちで俺を見下ろすと、
「行動に目的が見えないんだよ。なあなあで過ごしている感じだ。チームアップするにしてもさ、何がしたいかがわからないとフォローも合わせ技もしにくいんだよ」
「そういわれても目標とか未来のことなんて考えている時間なんてなかったんですよ」
「それは昔の話だろ?今はどうだ?ある程度生活は保障されているし健康面も問題ない。どうだ?今何がしたい?何を成し遂げたい?」
うつむいて思考だけに集中する。
振り返ってみると今までは生活の安定だけを求めて動いていて気がする。そのために金を稼いでこの国まで来た。
俺は何をしたいんだ?冒険者として出世する?……いや、冒険者自体に思い入れはない。じゃあこのままシオンのもとにいるか?……それもなんとなく違うような。
黙りこくってしまっていると遠くから声がかかった。
「おーい主!と、なんだっけ……あ、ヨハンー!昼ご飯だってー!」
ルルはそう言うが否や踵を返して走り去っていった。
「名前覚えといてくれよ……。まあ調査中の休憩にでも考えといてくれ。飯行くぞ」
あ、そうか。ルルとの目標でもありだな。
「ヨハンさん」
「ん?」
「一つ目標、作れました。俺はルルを『管理者』としての務めを果たせるようになるまで育てます。どんなことがあってもこれだけは変えません」
俺が決意を告げるとヨハンさんは「そうか」と笑って俺の肩に手を回すと香ばしい肉の香りが漂うほうへと歩いて行った。
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