第39話 シオンのロリユートピア
「あ~ルルたんかわいい~!! 報告あがってた時からかわいいだろうな、ちっちゃいのだろうなって思ってたけどここまでかわいいとはね~! さすがのお姉さんでも見えなかったな~!! はぁかわいい、すべすべ、もちもち……」
幼い子供が人形相手にするようにルルを抱きしめながらルルの頬に頬ずりをする彼女は先ほどの生真面目な表情はどこへやら溶けかけの氷のように表情筋を緩ませていた。
あまりに突然の出来事に絶句してしまっているルルと目が合う。
その目の中に恐怖の色が浮かんでいるのを発見した俺は、
「……あの、ルルから離れてくれませんか。怖がっているんで」
まるで今まで俺の存在自体認識されていなかったかのように大きく見開いた眼をこちらに向け俺の姿を認めると瞬時に元の生真面目な硬い面持ちに戻った。体勢は何も変わってはいなかったが。
「これは見苦しい姿を見せてしまい申し訳ありませんでした。レンさん、といいましたか、ルルたんとはどういう関係で?」
明らかに敵意のこもった口調。俺だけはちゃんと罪人として見てんのか?だとしたら一国の長としてあるまじき私情のはさみ方だな。
鋭く突き刺さる視線をいなすようにため息をつく。
「親代わりですよ。それとルルから離れてください。しつこいですよ」
「無理です。リンゴが地に落ちるように私もルルたんに堕ちてしまったのです。恋という魔法でね」
まじめな顔で何言ってんだこの人……。
俺は再びため息をついた。
ルルも自由に動かせる両腕で一生懸命シオンを剥がそうとするがフェンリルの力を持ったとしても彼女はびくともしない。
もはや敬称付ける意味を感じられないところまで彼女に対するイメージが劇的に塗り替わっている。
さてこいつをどうしたら動かせるだろうかと思い悩んでいると、ヴィイと呼ばれていた侍女がヨハンさんの見送りを終わらせて戻ってきた。
「……なにやってるんですか。気持ち悪いですよ」
開口一番抜き身の剣のような言葉が飛び出した。
上司相手に容赦ないなこの人……。
「ヴィイあなたも来て! あなたもちっちゃくなりなさい! はぁぁ、天国が、パラダイスが目の前に……!」」
表情一つ動かさないヴィイをものともせず満面の笑みを咲かせて妄想を垂れ流す。
「こんなことで変身魔法を使いたくありません」
沈黙のアンコール。
シオンは不満に頬を膨らませて。
ヴィイは子供をたしなめる親のように。
俺とルルは突然の聞きなじみのある単語に首をかしげて黙りこくった。
「ほら、まだ真面目に伝えなければならないことがあるでしょう。離れてください」
あうぅぅ、と涙目でうなるシオンをひょいと持ち上げると玉座に座りなおさせた。
もはやどちらが首長かわからんな。
ヴィイが近づいてきたあたりからスンスンと鼻を鳴らしていたルルが口を開く。
「この匂い……おい、ヴィイとやら。おまえ、リヴァイアサンなのか?」
「はあぁ!?」
ヴィイは思わず間抜けな声を上げた俺を一瞥するとため息をつき、
「答えだけ申し上げれば、そうです。詳しい話は後ほど。今は首長の話に集中してください」
当の首長様はたたずむ彼女の横でそろりと玉座を降りようとしていたところを俺に見られてバツの悪そうな顔をしていたが。
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