第38話 首長謁見
「──と、ここまでが今回の事件の経緯です」
黒霧の襲撃の後、罪人の輸送と未確認モンスターの報告の二重の重しが乗った早馬を走らせて首都に直行した。
そして現在、ハザール国教の神殿の奥の間で首長に長々と報告をさせられている。
「人間のモンスター化ですか……。魔素に侵されて精神を病んだ事例はありますが、完全に変化してしまうことは前代未聞ですね……」
ひざまづいた姿勢は崩さずに目線だけちらっと首長に向ける。
壁一面に広がるステンドグラスを後光にして一国の長が座るにしては質素な木製の玉座に背筋を伸ばして座っているのは黒髪の少女。名前は確かシオン……だったっけ。というのも未確認のモンスターの出現、ましてや元人間であることから事件のほうが最優先事項となってしまいもう一つの話題である俺らには見向きも自己紹介もされなかったからだ。
「モンスター化したものの腕には牙の紋様が浮かび上がっていました。あの組織の構成員と思われます」
少しきつめの目と通った鼻筋が生真面目で力強い印象を与えている。
文句なしの美少女なのだが自然と本人の前では「美人」と言わざるを得ないほど大人びて見える。
「あの組織ですか。また面倒なことを……。報告ありがとうございます。ヴィイ、外までヨハンを送ってちょうだい」
「かしこまりました」
入口のドアで控えていた侍女がわざわざヨハンのとこまで移動し、連れ立って出ていった。
姿が完全に見えなくなるまで沈黙が広い室内で華麗に演舞したのち、彼女は先ほどと同じ硬い口調で話し始めた。
「さて、あなたたちの処遇についてですが……」
「はい」
厳かに返事を返す。ルルは硬直して動かない。
ギルドで大量殺人未遂を起こした身だ。牢獄行きは確定、下手すると処刑されるかもな。
首長の裁量が刑罰に大いに影響する国だ。異教徒の俺たちには厳しくなるのかもしれない。
「あなたたちには先ほどの事件の調査に加わってください」
またもや沈黙がアクロバティックに登場し踊り始める。
重い罰が来るとふんでいた分だけ反動がきた。
強制労働だけで済んだよかったけど、なんで?という問いが頭をよぎる。
質問したせいで罰が重くなっても嫌だから心の中で飼いならしておくけどな。
「確かにあなたたちは多くの者を殺めるところでした。しかし、事件を起こした責任は我が国にもあります。それに未確認のモンスター、言いにくいですね黒霧としましょう、そのものとの戦闘ではあなたたちの攻撃が通ったと聞いています。有能なものを飼い殺しておくなんてしないでしょう? ですのであなたたちには 働いてもらうことにしました。よいですね?」
静かな口調で言いわたされる。
ステンドグラスから差し込む色鮮やかな光といい、空間を漂う熟れた果実のような甘く濃厚なにおいといい、なぜか懺悔しそうになる雰囲気にのまれて二つ返事で了承した。
シオンはやっと仕事が終わったというように姿勢を崩し玉座にもたれかかると、年相応な砕けた口調で、
「ここからは個人的なお願いなんだけど……ルルちゃん! ここで暮らす気はない?! お姉さんなんでもしてあげちゃうから!!」
またまた沈黙が拍子の外れた舞を踊りながら通り過ぎていく。
何回出てくんだよ。
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