第33話 檻の中
「そっか、そうだよな。俺も入れられるよな」
『ん?我だけ檻に入っていろということか?喧嘩なら買うぞ?』
「違う違う、良くも悪くもお前がまた暴れだしたら制御できるのは俺だけだからそりゃあ一緒に入れられてるよなってことだ」
床を這うようなうなり声を発し始めたルルを必死になだめていると、上の階から乾いた足音が下りてきた。
「気が付いたか。気分はどうかね、レン・ガーベッジ」
「最悪ではないな。それで、あなたは?」
上の階からやってきたのは白髪の老人。筋肉の気配がないスリムな体型だが顔に深く幾重も刻まれたしわと視線に入ったものを射殺すかのような三白眼が威圧的な存在感を発していた。
「ジブラル・ファリサイだ。ここのマスターをしている。君がその子のテイマーでいいのかね?」
「保護者であることは認める。だが俺はこいつをテイムしていない。何の強制力も持っていない」
テイマーも俺のゴミ処理員と同じように生まれつきで決まる職業だ。ヴォルガのギルドでも一日に何人か肩にスライム乗っけてたり、ホーンラビットを抱えていたりした奴らを見るほど冒険者の中ではありふれた職業ではある。だからこそ、自分の状況と言動があっていないのは百も承知なわけで。おかしく思われても仕方がない。
案の定ジブラルさんは訝しげに眉をひそめると、
「ではなぜ君と共に行動しているのかね?」
そう言うと、話が長くなると思ったのか周囲に転がっていた椅子の1つを丁寧に置きなおして座った。
『我がそうしたいからだ、何か文句あるか?』
「なんでそうけんか腰なんだよ」
『我不当に捕まっているのだぞ?!母さんを侮辱されたから『管理者』として罰を与えただけで何も罪を犯していない!』
「それがだめだったってことだよ、わかってくれ」
『正当な怒りでも罪になるのか?人間界とはこうも息苦しいのか」
「あのなぁ……」
自然界のルールを持ち出してきたルルを何とか説得しようと詰め寄っていると威圧的なせきばらいが降りかかった。
「続きを話してもいいかな?」
すっかり存在自体脳内から消してた。やっべ。
「では、レン。君に聞こう。今回の騒動の原因はどこにあると思うかね?」
原因も責任もすべて俺にある。答えに迷う必要はない。
「原因は俺がこいつをギルドに連れてきたことだ。世界中から冒険者が集まるようなところなら当然思想、信条の違う奴らと接触することを忘れていた俺の責任だよ」
世界中には『管理者』を敬う奴もいれば信仰の邪魔だと言って敵視するやつもいる。そんなことギルドで働いていた時から嫌というほどわからされてきたのに目先の金にくらんで記憶の底に沈めてしまっていた。
知っていたのに勝手に知らないふりをしていた。
「でも君には強制力も監督責任もないのだろう?それでも自分の責任だというのかね?」
「いや、監督責任はある。依頼書だ、見てみてくれ」
檻の隙間から依頼書を投げ渡す。
そこで彼の時計は一瞬だけ停止したようだった。
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