第29話 激怒
「これは俺らのもんだ邪魔すんな異国人」
俺と手が重なった青年がガラの悪い目つきでにらんできた。硬そうな髪に無精ひげ、厚い胸板といい、いかにも歴戦の戦士といった雰囲気だが、ザゴブリンの依頼書に手を伸ばしたのを見るに冒険者になりたての初心者だろう。Aランク以上の冒険者ってこいつのように筋骨隆々というよりは無駄なものをそぎ落として職業に特化した引き締まった体をしてるんだよな。そんなこともつゆとも知らないやつに開幕一言でけなされるのは納得いかないんだが。
不満はあっても事を荒立てたくないので外面はシュウの応対で鍛えた笑顔を張り付けて、
「あ、そうですか。失礼しました。どうぞ」
形だけ謝っておいて早く立ち去れという意味も込めてボードから剥がした依頼書を手渡した。
「フン、お前らみたいなひょろい奴らが手出してんじゃねえよ」
遅れてやってきた仲間らしきこれまた岩のような男が野太い声で口をはさんできた。
ひょっとして俺らが弱そうだったから警告してくれたのか?
「
まあなんと定型文じみた言葉だろうか。冒険小説の影響で冒険者になったのかもな、
「おい、今なんて言った?」
ルルは楽観的にはとらえられなかったようで、うっすらと殺気を漂わせる。
「あ?なんだちび助。俺らは『管理者』を倒すんだよ」
聞いてもいないのに仲間の男が意気揚々といった口調で語りだした。
「ヴォルガで『管理者』が討伐されたらしいからな。それも一人の人間にだ。『管理者』もしょせんモンスター、人間には敵わない。だったらこの国にいる『管理者』は俺らが討伐できるってわけだ」
「おい」
うつむいたままびくともしなかったルルが短く静止の声を発した。
ルルから漏れた魔素が俺の吸収量を超えてギルド内を澱ませていく。きっき管理能力の高い人たちはもうすでに屋外へ退避し始めている。
さすがにここで怒らせるのは危ないと直感的に分かったが、いかんせん魔素の吸収が追いついていない。言葉による説得は……やってみるしかないか。
「ルル、帰るぞ。『管理者』なんてそもそも人前に現れることが少ないんだから」
「んだとてめえ、俺らが討伐できないとでも言ってんのかよ!」
やらかした。完全に火に油を注いでしまった。言外でこいつらとかかわるなって伝えたつもりだったんだけど相手方の逆鱗に触れたみたいだ。
「ヴォルガの奴だってどうせしょうもないモンスタートラップに引っかかったところをめった打ちにされたんだろうよ。そのぐらいだったら俺らにもできるだろうが。」
「黙れ」
もはや変身魔法さえも魔素となって溶け出し男どもの周囲にたまり始めた。当の本人たちは魔素に対する感度が低すぎるのか見下した態度を変えるそぶりを見せない。
ルルのほうも何度も説得と制御を試みたがもはや俺のほうを見向きもせずぐっと下唇を噛んでいるだけだ。
上の階からは慌ただしい足音と金属同士がすれる甲高い音が聞こえる。騒ぎを感じ取った歴戦のギルド職員たちがもうじきやってくるようだ。
もうあきらめた。この国ももうだめみたいだ。今度こそは捕まって処刑か。
「ほら、さっさと依頼こなしてさっさと『管理者』倒すか。行くぞ」
あたりを漂っていただけの魔素が一瞬で硬直した。
「どこまで我の母親を愚弄する気だ貴様ぁぁ!!」
我を忘れて元の姿に戻ってしまったルルが怒りの咆哮をあげた。
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