第28話 底辺ランク『管理者』
「冒険者登録ですね。ではこちらの感応石に登録されたい方の血液を垂らしてください」
にこやかなスマイルと共にルルの前に感応石と呼ばれるすべすべとした丸っこい石が差し出される。この石に血液をつけることによって登録が行われる仕組みだ。魔法を用いているのだろうが詳しいことは不明だ。
ルルは差し出されたナイフで人差し指の先を傷つけると、少し指先をゆすって一滴垂らす。血液が触れた瞬間、感応石は淡く光りその表面からルルの髪色のような白銀の液体を滲み出していた。
受付嬢が慣れた手つきでまっさらなギルドカードにその液体をまんべんなくつけると湿らせた部分から徐々に文字がすうっと浮かび上がってくる。その様子を手品でも披露されたかのように食い入るようにして見つめていたルルは乾かしたカードを手渡されるとランプの明かりに透かしてみたり、全方位から観察したりとせわしなくカードに興味を注いでいた。
「今お渡ししたカードですが2か月以内に依頼を一つ達成しないと失効しますのでご注意ください。詳しい説明もいたしましょうか?」
受付嬢の説明によると新規登録者は俺と同じFランクから始まり、依頼に応じてもらえるポイントをためることによって次のランクに上がることができる。また殺人や窃盗などの犯罪やダンジョン内での宝物の横取りなどのギルド規定に反する行為をした場合はポイントが減るか一発で退会になる可能性もあるとのことだ。
ルルがぽかんとした顔で聞いているからか途中で易しい言葉で補足したり何かと親切にしてくれた。俺の元職場の受付嬢たちにこの人の爪の垢を煎じて飲ませてやりたいくらいだ。もっとも爪の垢なんて取れないほどきれいで上品な人だけれども。
このまま今日の宿を探しても時間を持て余しそうだから一つ依頼を受けることにした。カウンターの右隣にあるボードにはランクごとに色分けされた依頼書が外で見た看板のようにひしめき主張しあっている。
「歯ごたえのあるやつはいるか。ドラゴンとかケルベロスとか」
「いたとしてもそんな神々の化身ですみたいなやつFランクで受けれるわけないだろ」
陸海空すべてのドラゴンもケルベロスもSランク冒険者のみでパーティーを組んでやっと勝てる可能性が出てくるほどの化け物だ。そんな奴がボードに名前を載せていたら国中警報が出てこんなにのんびりほんわかした空気が漂っているわけない。
「なんだ。つまんないのう」
「まずは簡単にクリアできるものからこつこつやっていくもんだ。我慢しろ」
「むう、ただでさえ運動不足なのに雑魚しか相手にできないとは。レッドボアはいないのか?あいつならまだやりがいがある」
「いるわけないんだよ。ほら、真剣に選ぶぞ。身の丈に合ったものを選ぶのも必要だ」
「じゃあ、Aランクあたり」
「前言撤回する。下のほうから選べ」
乱雑に張られた依頼書に目を移す。FランクとEランクの依頼書は茶色。ザゴブリンなら逃走中に倒したし勝手がわかっているからやりやすいだろう。
ルルにもうなずいて確認をとると依頼書に手を伸ばす。
「あ」
「あん?」
まぎれもない男の手が重なった。
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