第21話 決着
「お前が逃げたせいでこっちは迷惑してんだよ。今捕まろうとするんだったら全身拘束ぐらいでやめてやるよ」
お前のせいで追われてるんだ。自業自得だろうが。つくづく自分勝手な奴だ。
「人にものを頼む態度じゃないだろ。アリバから足をどけろ」
「あ?お前と逃げてる時点でこいつとそこのチビも共犯だ。俺は責務にのっとって拘束してるだけだ」
「レンさん…!」
踏まれて泥だらけになった顔でアリバがこちらを見上げる。レンのすましたいけ好かない顔よりもよっぽど美しいな。
「黙ってろ。これは俺の問題だ。お前たちには関係ない」
二人とも俺についてきて巻き込まれているに過ぎない。こいつらが追われる責任はないんだ。すべての責任は俺ではなくシュウにあるのだから。
「ヒュー、言うねえ。だけどさあ、お前ひとりで俺に勝てると思ってんの?」
「ぐえっ…!」
語気を強めた拍子に踏みしめられてアリバから苦しそうな声が漏れる。
まずアリバを何とかどけないと巻き込んじまう。こいつ煽ったら突っ込んでくるとかないかな。プライドだけは高そうだし。
「アリバから足をどけろって言ってんだ。森の中に耳落としてきたんじゃないのか?戻って探して来いよ」
「てめぇ!こいつがどうなってもいいのかよ!」
よし、乗った!単純な奴で助かるぜ。
「脅しにしか能がない奴のところで働いていたころの自分が憎たらしいよ。馬鹿ばっかで頭狂ってたんだろうな」
「いつまで俺を侮辱する気だぁ!!」
怒りがこらえきれなくなったように顔を真っ赤に染めながら突進してくる。相手は曲がりなりにもSランク冒険者。戦闘能力だけは一級品だ。
すんでのところで土魔法で防御したがシュウの風魔法で強化されたこぶしは勢いを殺されながらも俺の下っ腹に直撃した。
「おいおいおい、威勢の割には弱いじゃねぇかよFランクさんよぉ!」
これで土、風の2属性。
「Fランクごとき一発でやれないのかよ!Sランク返上したほうがいいんじゃないか?」
「うるっせえ!!」
火魔法を放つが当然のように水魔法でかき消される。これで4属性。
あとは、
「ルル!俺に雷魔法を打て!」
「なんで主に!?」
「いいから!…はやく!」
ルルに指示している間にもシュウの猛撃で着実にダメージが重なっていった。
「よし、よくやった!」
ルルからの雷魔法を受けて5属性全部揃った!
「ったくボコボコにしやがって。こっから反撃のターンだ。」
「なんで倒れねぇんだよ!!」
俺の魔力に魔法の大半が吸われてんだよ。Sランクなんだからわかれよ。怒りに身を任せたくないね。ろくに頭が働かないって証明してくれたからな。
「馬鹿を見せてくるのはもうやめだ」
『コンポスター』を起動し5属性に着色された魔素を混ぜていく。全てが相殺され全てが融合するように。
「根源魔法」
そう小さく唱えると魔法を発動させた。
魔素の濃い薄黒い霧がシュウの周りに漂っていく。
「いきがっておいてなんも起きねぇじゃねぇ…かはっ!」
シュウは目を見開いて胸のあたりを押さえたかと思うとその場に倒れ込んだ。
根源魔法とは純粋な魔素を使って人間の魔力そのものに対して攻撃する魔法。5属性の魔法を使いこなすものでないと純粋な魔素を作り出せないためこの魔法を使えるのは太古の英雄のみといわれている。俺が発動させたのは無理やり作った劣化版だ。それでもまあ、Sランクを倒せたんだから万々歳だ。
魔力からの浸食でシュウの体の内部は毒沼みたいになっているはずだ。
「てめぇ…!殺すっ!」
「まだ意識があんのかよ。しぶといな」
まだ余っている風魔法の魔素とロープを『コンポスター』で合成して、
「風縛」
シュウを逆さにつるし上げる。
「お仲間に見つけてもらいな。まあ意識があれば助かるかもな」
「クソっ、クソぉぉぉぉ!」
シュウの呪詛を追い風にぽかんとしていたルルたちを担いで俺は街の喧騒へと向かっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます