第16話 襲撃

「人がせっかく穏やかになってんのに」


空気を読んでほしいもんだな。


枯れ枝を踏み抜き、乱立する木々を揺らし、地面を踏み鳴らす音を盛大に奏でながらだんだんと近づいてくる。


「ここで戦うのはまずいな…」


ルルをたたき起こしてもいいが、今まで安らかな寝顔を眺めてたからなんか申し訳なくなってきた。


そんな俺をよそにそいつらは焚火の明かりで輪郭が見えてくるまで近づいてきたかと思うと俺らを取り囲むようにぐるぐると走り回り、いっこうに姿を見せる気配がない。


たぶんロックバードだろう。ギルドに運ばれてきたものしか見てないから確証はないけど獲物を取り囲んで襲う習性があるって聞いたことはある。


ロックバードの足音がどんどん近くなってきている。


俺は火魔法で右手に火の玉を作り黒絵具で塗りたくったような暗闇の中へと走り出した。


右手の火の玉が大きく、小さく、揺れ、点滅を繰り返す。


左手で前を探りながらロックバードをあおっていく。


「かかった…!」


足音が途切れ、なにかを探しているような足踏みが聞こえたかと思うと、生い茂る灌木をなぎ倒しながら一直線に足音が向かってきた。


まるで舞台で優雅に舞う踊り子のように赤い炎をちらつかせ翻弄しながらロックバードを焚火から遠ざけていく。


さてここからどうするか。レッドボアの魔素は『コンポスター』にあるからそれ使うのと、そこら辺の木の枝で何かできないか?


足で踏みつけた枝を試しにひろって少し振り回してみる。


軽くて少し曲げれば折れてしまう普通の枝。


レッドボアの牙と合わせれば簡単な槍ならできるな。


「『コンポスター』」


生成したのはレッドボアの魔素で強化された柄の先端にレッドボアの牙がくっついてるだけの原始人みたいな槍。


Dランクのロックバードなら倒せるくらいの攻撃力はある。


「さあ、こいよ」


火の玉を高く燃え上がらせ俺は足を止めてあいつらが向かってくるほうへ向き直った。


火の玉の動きが止まったのに気付いたのか足音の感覚がだんだんと短くなりながら近づいてくる。


ロックバードの片方が暗がりから飛び出し俺の頭へくちばしを突き刺そうとしてくる。


火魔法を消しすんでのところで槍で頭を突き破った。


穂先から漂ってきたのは血の鉄と生臭いにおいではなく、腐った肉の酸っぱいにおい。


「アンデッドか…!」


穂先についた腐肉を振り捨て今度はこちらから音のするほうへ向かっていく。


左手に火魔法をつけ走ってきた俺に呼応するかのように足蹴りを繰り出すロックバード(アンデッド)。


槍の柄で何とか受け流すと、ところどころ骨が見えているその頭を突き上げる。


頭を砕かれたロックバード(アンデッド)二匹はもとの死体に戻り俺の『コンポスター』の肥やしになった。


「早く戻らないと、あっちにまだいるかもな」


暗闇の中あたたかな焚火のほうへと走っていく。

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