第9話 生き埋め商人服着てない
『人間の臭いが混じっている。中にいるぞ』
「憲兵か?」
『わからん。お前が風魔法使わなければ判別できたものをお前は…』
あぁめんどくせえ。怒るな、怒るな。押収できないと倒した意味ないし中確認してくるか。
「一応変身しておけよ」
ザゴブリンの家だから中丸見えのはずなんだが人らしい影も形も見当たらないな。中に入ってみても人らしいものはないが、
「あのう、たすけてください…」
「…どこだ?」
近くにいるはずなんだけど見回しても人らしきものはなにも見えない。
「あのう、下です。あしもと」
足元って、なんで埋まってんだよ人が。部屋の奥にポツンと頭だけ。正直近寄りたくない見た目してんな。
「た、たしけて…おねがいしますよぉ」
下手に目立つ行動とか噂広まる可能性のあることしたくないんだけど。
「お金でもなんでも払いますからぁ。僕をここからだしてくださいよぉ」
スゥ…
助けるか。
「わかった。今助けるから待ってろ」
「ありがとうございますぅ~!!」
土魔法を発動して金鉱石を見つけた鉱員さながらに慎重に少年の身体を掘り出していく。一気にやって加減ミスったら体えぐって血の井戸ができてしまうからな。最大限気を付けながら二の腕付近までほりすすめたが、
「…お前、服着てなくね?」
そう言うと少年は二へへッと笑いながら、
「ぜんぶ捕まった時にとられちゃいまして…へへ」
いやへへっ、じゃなくてさ。なんでどいつもこいつも服着てないんだよ。いつの間にか古代にでも行ったの?俺。
「主ー、だいじょうぶか?」
「ルルお前も服…」
「もちろん来てないぞ?」
「何がもちろんだよ。…二人とも服作ってやるから待ってろ」
ルルの服の切れ端と家の中に落ちていた布切れを『コンポスター』の中に入れていく。魔力多くてよかった。こんなことでそう感じるのは嫌だけど。
しばらくして少年を助け出し服装もちゃんと整えた俺らは少年の荷物の回収を手伝っていた。
「いやぁ、ありがとうございました。あのまま死んじゃうかと思いましたよ~。そういえば自己紹介がまだでしたね。アリバ・アフマドっていいます。鉱石商やってます以後よろしくおねがいします」
「俺はレン・ガーベッジ。でこっちはルルだ」
「よろしくだな」
アリバは国境に向かう街道を一人で歩いていたところザゴブリンの群れに襲われて集落まで担ぎ込まれてしまったらしい。ふつう商人たちは商品の安全のために護衛を雇うのだが本人曰く、
「魔よけの臭い袋買ったので大丈夫だと思ったんですよ~。これ売りつけた奴はあとでしばきたいですねぇ」
これをニコニコと笑いながら言ってるのが怖い。
「お二人は一緒に旅をされているんですか?」
「ああ。依頼で国境にな」
憲兵に追われていることは明かさないほうがいいな。
「国境に行くんですか!?」
キラッキラに目を光らせながら近づいてこないでくれないかな!ろくなことなさそうなんだが。
「僕の護衛やってくれませんか!!」
「断る!」
「なんでですかぁ!お金も積みますからぁ!」
「なんでも金で解決しようとすんなよ!」
「僕だけで行けるわけないのは証明済みです~!おねがいしますよぉ~!!」
足にしがみついてまでやらせようとすんな!こちとら追われてる身なんだよ!
「主は逃げ隠れて国境にむかうのでいそがしいのだ。おまえにかまっている暇はない」
逃げ隠れはできれば言ってほしくない。
「じゃあいいですよぉ!たすけてくれたお礼もはらいませんからぁ!!」
「それももういいから離れろっ!」
俺が顔を押し戻して剥がそうとしても「おねがいしますよぉ」と連呼して一向に離れようとしない。
しっつけぇ!
「おいルル!お前も手伝ってくれ!離れん!」
ルルはここでない遠くに意識を向けているような表情で集落の外を眺めていた。
「…どうした?」
そう尋ねるとルルは真剣な面持ちで振り返り、
「人間と金属の臭いがする。来るぞ。憲兵が」
こいつでもたもたしてたからっ!追いつかれた!
「走るぞ!そのままついてこい!」
「あいわかった!」
「ちょっとどこいくんですかぁ!待ってくださいよぅ」
集落を壊さんばかりの勢いで飛び出した俺らはさらに森の深くへと逃げ込んでいった。
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