第8話 金策
「いいかっ!自分の命は自分で管理しろっ!お前の分まで面倒見る余裕はこっちにはない!」
『わかったからしゃべるな!舌噛むぞ!』
昨日は必死で気づかなかったけどルルかなりの速度出してたんだな。木の葉が当たるだけでも相当痛い。あと念話って風関係ないから便利だ。
ちなみに服は元の姿に戻った時に木っ端みじんに砕け散った。あの茶番はなんだったんだよ。
ごたごたし過ぎて本来の目的がゴミ箱行きになりそうだった小会議を経て俺らはハザールとの国境に向かい獣道すらないような森の中を移動していた。さっきの叫びで方針の伝達は終えたものの手元には小会議で釣り上げてしまった未処理の謎がいくつか残っている。
まず依頼人。ルルの首にぶら下がっていた依頼書で名前はキド・Oだとわかったが、いかんせん身分から年齢、職業まで詳しいことはわかっていない。ただ『管理者』との深い交流があり、報酬として遊んで暮らせるほどを払えるくらいの金持ちっていうのは明白な手掛かりだろう。それで2つ目が、
『ムッ…?』
「ングッ…!」
考え込んでいたせいでカタパルトみたいにルルの背中から射出されるのをすんでのところで耐える。
ルルの毛つかんでなかったら即死だった…。
「…止まるんだったらゆっくりと待ってくれ…」
『ザゴブリンの集落があるな。それも2つだ』
「どこに?」
『正面と右前だ』
Gランクの魔物だけどハザールで貯蓄物を売れば少しは足しになるか。金もなければ飯もないからな。素材を売るのが最善だが素材って魔物の魔素が一番高い部位だから俺の魔力値だとその効力を消滅吸収してしまうし。ささっとやれば追いつかれる心配も薄いだろう。
「集落潰すぞ」
……。
返事なし?
背中から降りてルルの顔をのぞいてみる。目を細めて何か考えてるみたいだ。もしかして『管理者』的にモンスター討伐はまずかったか?
「魔物討伐できないと金銭的に厳しいんだが」
「そうだな。厳しいな」
「やっぱ『管理者』として」
『我を見るとあいつら逃げてしまうのだ』
え?そっちかよ!『管理者』としてモンスターを殺すのはだめだ的な事いうのかと思ったわ!
「『管理者』として魔物殺すのに葛藤とかないのかよ!」
『増え過ぎたものを減らすのも『管理者』の役目だ。どのみちあの2つの集落は縄張り争いで消滅するはずだ。それを早めたとて何の問題もない』
ああそうですか。…気持ち切り替えていこう。
そういうものなら遠慮なく討伐だな。ルルを見ると逃げるなら俺が風魔法でザゴブリン集めて遠隔でルルにとどめ差してもらう形でいいか。
「俺が陽動するからとどめの一発頼む」
『あいわかった。ひさびさの戦闘だな』
フフン、とウマみたいに鼻をならしていかにもワクワクしてる感じあるけど、『管理者』がこんな戦闘狂でいいのか神様よ。俺は深く息を吸い込むと、
「いくぞ」
正面の集落へ走っていく。ザゴブリンたち大騒ぎしてんな。
「こっちだ、敵襲だぞ!」
何十もの目玉がこちらに向いた途端、意味のない奇声を上げてやつらがこちらに向かってきた。自分から起こしたとはいえなかなかのホラー体験だなこれ。土魔法で足元に柱を立てて、
「上ってこれるなら上ってこい!!」
ボゴブリン相手だから言えるセリフだな。足元にわらわらと集まり山になっているゴブリンたちを風魔法で煽っていく。
あらかた集まったな!
「ルル!!」
『いくぞ!』
俺が柱から飛び降りた瞬間、その柱を避雷針にしてルルの雷魔法がザゴブリンの山を襲う。帯電した大気と焼けた獣肉の臭いがすんごい、むせる。風魔法で臭いを拡散させながら、
「アイテム回収するから来てくれ」
そういってザゴブリンの家へ歩こうとしたが、
『待て主、足を止めろ』
「まだ残ってたか?」
家の中にはいなさそうだが。
『いや、違うな…人の臭いがする』
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