第33話 (最終話)神の領域。

神殿を直した神が一緒にマリオンの欠片を片付けるとキヨロスは神の領域と呼ばれる場所に連れていかれた。

神は記す者が書いた記録に神の力で追体験をした経験を書き足していく。


「まさかあの女の神が認識阻害の能力まで使いに与えてガーデンを滅茶苦茶にするなんて思わなかったよ」


そう言った神はガーデンで起きた全てを書き記して記す者に「はい、これで完璧だから後で読んでおいて」と渡す。


「キヨロス、「時のタマゴ」を授かったサウスの子よ。ありがとう。君のお陰で世界は救われたよ」

こうして始まった会話から神は自身の悩みや迷いをキヨロスと話し、キヨロスとマリオンから間違っていないと言われて救われた顔をした。


そんな話の中でキヨロスは「そう言えばトキタマがイーストの頃から解決の筋道が見つけられないのか「跳べる」って教えてくれなくなってました」と言う。


「まあ、イーストやノースに関しては敵が神の使いだからね、認識阻害されていて解決の筋道が見えなかったんだよ」

「あぁ、そうだったんですね」


確かにサウスの元国王は人間で、イーストとノースは神の使いが相手だった。

そうなるとトキタマの力が通用しないのもなんとなく納得が出来た。


「うん。それにしてもキヨロスは凄いね。100回以上時を跳んで「時のタマゴ」を解脱させるなんて初めてだよ」

この評価にマリオンが無邪気な顔で嬉しそうに「キョロ凄いって」と言うとキヨロスは顔を赤くして「マリオン、恥ずかしいよ」と言う。


2人のかけあいを見た神は「ふふ。仲睦まじくて素敵だね。さてキヨロス。お礼とかお願いがあるんだ」と言った。


「お礼ですか?別にトキタマは解脱したし、マリオンも人間にしてもらいましたよ?」

「それはマリオンのお礼だし、「時のタマゴ」の解脱は君の努力だよ」


そう言われても何も思いつかないキヨロスは「んー…、先にお願いを聞いてもいいですか?」と言った。


「うん。今のキヨロスならなんの心配も無いけど、君の「時のタマゴ」は解脱をした。

これからは魂を使わずに時を跳べる。だからこそ無闇矢鱈に自分の利益の為に跳んで欲しく無いんだ」

「はい。それは何となくわかります。トキタマは大変な力を持ってるから…僕の授かったアーティファクトは全て凄い力を持っているから僕の魂を使うって事は理解できています」


この回答が嬉しかったのか、神は「ありがとう。授けておいて言うのも申し訳ないがその力に溺れずに人を助けて欲しいんだ」と言う。キヨロスはキチンと「はい」と返事をした。


「それじゃあお礼だね。何かあるかな?」

「んー…、変な病気も子供が生まれないのも不作なのも全部直るんですよね?」


「そうだね。与える者が解放されたから全て元に戻るよ」

「マリオン、どうしよう…。お礼って無いかも」

「キョロは無欲だなぁ。私達のお家とか、あ!あれは?おじいちゃん達はキョロの魂が減らないように時を跳ぶと魂が減るようになってたからやめて貰うとか!」


初めて聞いたキヨロスは「え?何それ?僕聞いてないよ」と驚くとマリオンが「あれ?言ってなかったっけ?」と言ってサウスで起きた流れを再確認する。


待ちきれないキヨロスは「神様?」と聞くと神も「それはキチンとやるよ。大丈夫。皆の魂も元に戻すよ。家もサウスの八の村辺りに作ろうか?後はお礼に欲しいものとかあるかい?」と聞く。


困り顔のキヨロスが「本格的に無いで……」と言ったところで動きが止まる。

マリオンが心配そうに「キョロ?」と聞くとキヨロスが真面目な顔で「あった、ツネツギだよ!ツネツギをニホンに帰してあげてください!」と言う。

常継はガーデンが住みやすくてもきっと家族の待つ日本に帰りたいだろう。その気持ちから頼むと神は「ああ、彼の事ならもう済んでるよ」と言った。


これで本格的に願いの無くなったキヨロスは「保留」と言って帰る事になる。


地獄門に居た常継達も、ノースから避難したガク達も神の力で全てノースの城に戻されていた。

無事に帰って来た事、キヨロスが解脱を果たし、人間になれたマリオンを見て皆が喜ぶ。

そしてこの先の話から当分はガクの勧めでウエストに住み着く事になった。


神の使いの仕業という事で神の使いと戦闘をしたルルとツネツギ、アーイとガクも後日神の元に呼ばれてお礼の話になる。アーイ達はカーイの健康を願った。これでカーイは普通の生活が過ごせてノースの王は戦争責任を取って身を引くことが出来るようになった。


そして常継は神が日本で常継と仕事をしていた人間と知り、このガーデンは神がPC内部のサンドボックス環境に作った世界だと知った。

キヨロス達は知らなかったが、何遍も時を跳ぶ中でルルと常継は恋仲になっていて神の采配で常継は日本とガーデンの二重生活を手に入れる事になった。


ウエストの城と温泉の間に作られた家の前でガクが「さあここがお前達の家だぜ」と言った。

マリオンが「おお!デカい!」と喜び、キヨロスは申し訳なさそうに「いいのガク?」と聞く。


「何言ってんだよ、2人は世界を救ってくれたし俺達の仲間だろ?何だったら城に住むか?アーイも将来住むし楽しいぜ?」

「それはやだよ。僕は猟をして暮らすんだよ」

「残念でした〜。今度アーイ連れて遊びに来なよ」


「ああ、そうさせて貰う。生活で困ったことがあったら言ってくれ」

「うん。ありがとうガク」


そう言っても家には生活用品が全て揃っていて、更に神のはからいでマリオンの洋服なんかもバッチリ揃っていた。


とりあえず当座の問題が何もないのでのんびり狩りをしてそれを城や村に売りに行ってその金で野菜なんかを買う話をしながらキヨロスがお茶を淹れる。

テーブルに向かい合ってお茶を飲んだ時、マリオンが「さて、少しいい?」と言った。


「どうしたのマリオン?」

「あのね?神殿から帰ってきて、そのまま住む所を用意してもらったけど何か忘れてるよね?」


そう言われても思い当たる節のないキヨロスは「なんだろう?」と言うと窓辺のトキタマが「お父さん、人形さんは一緒に住んでって誘って欲しいんですよ」と口を挟んでくる。


キヨロスはマリオンとトキタマを交互に見た後で「そうなの?」と聞きながら「マリオン、僕とこの家で一緒に住もうよ」と誘った。

マリオンは一瞬で笑顔になって「うん」と言ったがまた神妙な顔に戻る。


「あれ?まだ何かある?」

「あるよ。人間になったんだよ。今まで以上に景色は輝いてるし、音は綺麗で耳に届く、物を触ってもよくわかるしご飯も美味しい」


そう、マリオンは帰還した日の晩御飯を動けなくなるまで食べて喜んでいた。

そして喜ぶマリオンにルルや常継がこれも食べてみろと勧めていた。

キヨロスはそれを思い出して「うん。ノースのご飯を喜んでたよね」と言うとマリオンは一瞬モジモジした顔で「だから……」と言う。


「だから?」

「きっとキスしたら人形の時の何倍もよくわかると思ったの」

この話にキヨロスが「…うん」と返す。


「嫌なの?」

「嫌じゃないけど…緊張するよ。トキタマも居るし」


2人で窓辺のトキタマを見るとトキタマは「お父さん、僕の事は気にしないでください!それにもし嫌になったらまたここに跳んできて無かった事にしましょう!」ととんでもない事を言い出す。


これにマリオンがジト目で「跳ぶの?」と聞くとキヨロスは必死になって「跳ばないよ!!」と言う。


「じゃあしてよ」と言われたキヨロスは「うん」と言うとマリオンの前まで行って肩を抱いてキスをした。

マリオンは「にひひ」と喜ぶと「キョロ、料理教えてよ。一緒に作ろう」と言う。


キヨロスは「わかった」と言って料理を始める。

初めに作ったのは簡単な炒め物だったがマリオンは喜んでそれを食べた。

こうして始まった2人の生活、キヨロスとマリオンは平和になったガーデンで末永く仲睦まじく幸せに暮らした。

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